【第96話:集う星々】
**【シルフィード改】**が王都の空港に着陸すると、そこには既に懐かしい顔ぶれが待っていた。
「……遅かったな、補習組」
腕組みをして仁王立ちするジャージ姿の女性。ヴァン先生だ。 相変わらず片手には酒瓶を持っているが、その腰には本気装備である「処刑鎌」が帯びられている。
「ようこそお帰り、レイン。……そしてSクラスの皆も」
その隣には、純白の騎士服に身を包んだレオンハルト。 彼の右腕――銀色の義手は、以前よりも馴染んでおり、自然な所作で僕に手を差し出してきた。
「ただいま。……二人とも、随分と暇そうだな?」 「暇なわけあるか。……だが、『修学旅行』の引率も教師の務めでな」
ヴァン先生がニヤリと笑う。
「国王陛下も公務に復帰された。……今の僕は、ただの『一人の冒険者』として、君たちの背中を守れる」
レオンハルトが剣(予備の聖剣)を叩く。 最強の布陣だ。 僕たちは合流し、そのままシルフィード号の作戦室へと移動した。
机の上には、これまでに集めたパーツと情報が並べられている。 僕たちが持つ**【頭部】、【左腕(盾)】。 レオンハルトの【右腕(剣)】。 そして、教団が持つ【胴体】と、奪われた【左脚】**。
「……これで5つのうち4つは所在がはっきりした」
僕は地図上の北大陸ゼノビアを指差した。
「敵は『胴体』を拠点とし、『左脚』を手に入れて機動力を得た。……だが、一つだけ足りない」
そう。 **【機神の右脚】**だ。 マザーのメモリにあった地図には、光点は5つあったはずだ。 だが、僕たちは右脚だけを見つけられていない。
「……それなら、ここにあるわ」
ラピスが地図の北端――教団の本拠地である「死の都」を指差した。
「父様が言っていたの。……教団は数十年前に、最初のパーツである『右脚』を発見しているって」 「数十年も前にか?」 「ええ。彼らはその『右脚』を礎にして、あの極寒の地に本拠地を築いたのよ」
ヴァン先生が酒を煽りながら、補足する。
「ああ、俺も聞いたことがある。……教団の地下深くには、大地から無限にマナを吸い上げる『神の柱』があるとな」
謎が解けた。 右脚の機能は**【地脈接続】**。 大地に根を張り、星そのものからエネルギーを強制徴収する機能だ。 だからこそ、教団はあの不毛な土地で、巨大な組織と要塞を維持できていたのだ。
「つまり、敵の手元には『胴体』『左脚』『右脚』の3つが揃っている」
セリアが深刻な顔で分析する。
「胴体でエネルギーを生成し、右脚で大地から供給し、左脚で空を飛ぶ。……今の要塞アークは、永久機関に近いエネルギーと機動力を持った、難攻不落の城ですわ」 「加えて、中には数千の信徒と、洗脳されたカズヤがいる」
絶望的な戦力差だ。 だが、僕たちに悲壮感はなかった。
「……上等だ。全部あっちに揃ってるなら、手間が省ける」
僕は笑った。 かつては恐怖の対象でしかなかった敵。 だが今は、攻略すべき「クエスト」に過ぎない。
「僕たちには『頭脳』と『最強の矛と盾』がある。そして何より……」
僕は周囲を見渡した。 天才魔導師、最強の暗殺者、筋肉の壁、死霊使い、抜け忍、人魚の巫女。 そして、光の勇者と、元処刑人。 世界中から集まった、最高にイカれたパーティ。
「このメンバーなら、神様だって殺せるさ」
「……違いない」 「フンッ! 筋肉に不可能はない!」 「……うふふ、死の都……楽しみ……」
全員が不敵に笑う。 準備は整った。
「総員、配置につけ! 目標、北大陸ゼノビア!」
僕の号令と共に、シルフィード号のエンジンが最大出力で唸りを上げる。 浮上。 王都の風を切り裂き、船首を北へと向ける。
「……待ってろよ、教団。そしてカズヤ」
僕は窓の外、遥か彼方の雪雲を睨みつけた。
「最後の授業だ。……派手に終わらせようぜ」
船は雲海を突き抜け、決戦の地へと加速していった。




