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【第90話:奪われた信号】

学園に戻って数日後。 Sクラスの教室には、再び作戦会議のためにメンバーが集まっていた。 机の上には世界地図が広げられ、僕――レインが赤いペンで南の海域を丸く囲んでいる。


「次のターゲットはここだ。【南の大海溝】。……機神の『左脚』が眠る場所だ」


僕が告げると、セリアが補足情報をモニターに映し出した。


「データによりますと、深度は6000メートル。マリアナ海溝クラスの深海ですわ。水圧はもちろん、太陽の光も届かない闇の世界です」 「6000メートルか……。俺の筋肉でも水圧には勝てんぞ」


ガルが腕を組んで唸る。 当たり前だ。生身で潜れば、どんなに鍛えていても空き缶のように潰れる。


「空からは行けないのかい?」


イズナが地図を覗き込む。


「無理だね。僕たちの『シルフィード改』は空の船だ。防水結界を張って海に潜ることはできるが、深海の圧力には耐えられない設計だ」


僕は首を振った。 空と海では、求められる強度が違う。


「だから、まずは港町へ行く。……大陸南端の交易都市**『ポルト・マーレ』**。そこで深海探査用の潜水艇を入手するか、あるいはシルフィードをドックに入れて『深海仕様』に改造する」


「改造なら任せてくださいまし! ドワーフの技術と私の理論があれば、一週間で仕上げてみせますわ!」


セリアが意気込む。 よし、方針は決まりだ。 まずは港町へ飛び、そこで準備を整えてから海へ潜る。 順調にいけば、半月ほどで左脚に手が届くはずだ。


……そう、思っていた。 その警報が鳴るまでは。


『――警告。警告。広域ネットワークに異常発生』


教室のスピーカーから、唐突にミーミルの無機質な声が響いた。 セリアの顔色が変わる。


「ミーミル? どうしましたの、藪から棒に」 『リンク中の個体識別信号に変動あり。……南西座標、深度6200地点にて、**【機神・左脚ユニット】**の封印強制解除を確認』


「なっ……!?」


僕たちは顔を見合わせた。 封印解除? 僕たちはまだここにいる。IDカードも僕の手元にある。 なら、誰が開けた?


『……解析。正規の手順ではありません。……物理的な破壊工作、および高出力マナによる強引なハッキングです』


「教団か……!」


僕は机を叩いた。 奴ら、僕たちが東方で油断している隙に、別働隊を南へ送っていたのか。 だが、深海の封印をどうやって?


『さらに警告。……左脚ユニットのステータス変化。……【未稼働】から【起動】へ移行。……直後、信号消失ロスト


「ロストって……どういうことだ?」 『当該ユニットが、私の索敵範囲外へ高速移動したか、あるいは強力な遮断結界内部へ収容されました』


ミーミルの淡々とした報告が、教室の空気を凍りつかせた。 意味するところは一つ。


「……取られた」


エリルがポツリと呟く。 その言葉が、重くのしかかる。


「一足遅かったってことかよ!」


ガルが悔しげに吠える。 奪われたのだ。 僕たちがワノクニで左腕を手に入れている間に、教団は南の左脚を手中に収めていた。 あの空飛ぶ要塞「アーク」を使えば、深海からの引き上げも容易だっただろう。


「……レイン様。どうしますの?」


セリアが震える声で尋ねる。 目的のブツはもうない。 南へ行く意味はなくなったように見える。


「……いや、行くぞ」


僕は顔を上げた。 悔しさはある。だが、立ち止まってはいられない。


「左脚は奪われたが、現場には『痕跡』が残っているはずだ。奴らがどうやって封印を破ったのか、そして次にどこへ向かうつもりなのか」


僕は地図上の『ポルト・マーレ』を強く指差した。


「それに、深海には『人魚族』の都市があるはずだ。機神パーツを守っていた彼らが無事かどうかも確認しなきゃならない。……もし生存者がいれば、教団の情報を握っている可能性が高い」


回収任務じゃない。 追跡と、救助任務だ。 状況は悪化した。敵の戦力は増大している。 だからこそ、尻尾を掴みに行かなければならない。


「……予定変更だ。改造に一週間もかけていられない」


僕は全員を見渡した。


「港町で最速の船をチャーターする。あるいは、金に物を言わせて買い叩く。……泥棒猫どもを追いかけるぞ!」


「「「了解ッ!!」」」


Sクラスの返事が響く。 奪われたなら、奪い返すまで。 僕たちは急遽予定を早め、南の港町へと出発した。 空は晴れているが、僕たちの心には、深海よりも暗い焦燥が渦巻いていた。

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