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【第74話:朱色の港町、魔法を斬る「気」】

「……着陸するぞ。目立たないように、街外れの海岸を選ぶ」


僕の指示で、飛行船はワノクニの玄関口――港町「レンゴク」の外れにある岩場へと静かに着地した。 船を**【認識阻害結界】**で隠し、僕たちは上陸した。


「ほほう! これが東の国か! 空気が美味い! 米の匂いがするぞ!」 「……うふふ、湿っぽい……井戸から何か出てきそう……」


ガルとエリスがそれぞれの感性で感動している。 僕たちは異国の服(と言っても冒険者装備だが)を着ているため、街に入った瞬間から注目の的だった。 行き交う人々は「着物」と呼ばれる衣服を纏い、腰には刀を差している者も多い。


「……レイン。視線が、痛い」


エリルがフードを深く被る。 好奇心だけではない。 明確な「排他意識」と、品定めするような鋭い視線。 この国は鎖国こそ解いているが、余所者ガイジンに対する警戒心は王都の比ではないらしい。


「トラブルは避けるぞ。宿をとって、情報収集だ」


僕たちは大通りを歩き、一軒の宿屋(旅籠)を目指した。 だが、その道中。 人通りが少ない裏通りに差し掛かった時、行く手を塞ぐ影があった。


「――待て、異人イジン


低く、しゃがれた声。 現れたのは、ボロボロの着物を着流し、編み笠を被った三人の男たち。 浪人ローニン。 主を持たず、剣の腕だけで生きるあぶれ者たちだ。


「……何の用だ?」 「通行料だ。……その腰の剣と、後ろの女たちを置いていけ」


真ん中の男が、ニタリと笑いながら刀の柄に手をかけた。 典型的な辻斬りか、あるいは強盗か。 だが、僕の**『鑑定』**は、彼らのステータスに奇妙な違和感を覚えた。


【浪人A】 職業:剣客(Lv.28) HP:280 / MP:5 状態:殺気、闘気(小)


(MPが極端に低い。……魔法を使えないのか?)


Lv.28といえば、王都なら中堅の騎士クラスだ。 なのに魔力がほとんどない。 その代わり、身体から立ち上る「生命力」の密度が異常に高い。


「……断ると言ったら?」 「斬るまでよ。……異人の血で、刀の錆を落とさせてもらう」


チャリ……。 男が刀を抜いた。 その瞬間、肌がチリチリと焼けるような感覚。 殺気だ。 カズヤほどではないが、あの時感じた「理外」の気配が混じっている。


「……やるぞ。手加減はいらない」


僕は**【雷神の槍・改】**を抜き放ち(街中なので携帯モードだ)、先手必勝で引き金を引いた。


風弾エア・スナイプ】!


不可視の空気弾。 初見で避けられるはずがない。 だが。


「『喝』ッ!!」


男が気合と共に刀を一閃させた。 キィンッ! 何もない空間で、火花が散った。 僕の魔法が、弾かれた?


「な……!?」 「妖術か。……だが、我が『気』の前では無力!」


男が踏み込む。 速い。身体強化の魔法を使っていないのに、筋肉のバネだけで肉薄してくる。


「魔法を……斬った!?」


セリアが驚愕する。 魔法はマナの塊だ。物理的な刃で斬れるわけがない。 だが、奴らは斬った。 刀に纏わせた「オーラ」で、僕のマナの構成を破壊したのだ。


「オラァッ! 筋肉で受け止めてやる!」


ガルが前に出る。 魔法がダメなら物理だ。 浪人の刀が、ガルの鋼鉄の筋肉(腹筋)に吸い込まれる。


ズバッ!


「ぐあっ!?」


ガルが血を流して後退る。 浅い傷だが、斬られた。 オリハルコン級の硬度を誇るガルの筋肉が、ナマクラ刀で裂かれた?


「硬いな。……だが、『浸透』させる剣には通じぬ」


浪人が刀を振るう。 刃そのものの切れ味ではない。 刀を通じて送り込まれた「気」が、ガルの筋肉の内部を破壊したのだ。


「……なるほど。そういうことか」


僕は理解した。 カズヤの強さの秘密。そして、この国の戦い方の根源。 彼らは「マナ(魔力)」ではなく「気(生命力)」を操る。 マナが世界に干渉する力なら、気は個体を強化し、他者のマナを中和する力。 魔法使いにとっての天敵アンチだ。


「……レイン、どうする?」 「物理には物理だ。……ただし、あいつらより速くて鋭いやつをぶつける」


僕は一歩下がり、エリルに合図した。


「エリル、出番だ。……魔法に頼らない『殺し合い』なら、お前が一番強い」 「……ん。分かった」


エリルが音もなく前に出る。 魔法による身体強化は使わない。純粋な身体能力と、暗殺技術のみ。


「女子供が……!」


浪人が刀を振り上げる。 エリルは動じない。 刀が振り下ろされる瞬間、彼女は半歩だけ軸をずらした。 紙一重の見切り。


「……遅い」


ザシュッ。 エリルの短剣が、浪人の手首の腱を正確に断ち切った。 気やオーラで守っていても、関節や腱といった「構造上の弱点」まではカバーできない。


「ガァッ!?」 「次は足」


エリルが低く回転し、アキレス腱を薙ぐ。 浪人が崩れ落ちる。 魔法も気も関係ない。 ただの人体構造への理解と、圧倒的なスピード。


「ひ、ひぃッ!?」


残りの二人が怯む。 そこへ、僕が**【雷神の槍】**の銃口を向けた。 今度は魔法弾じゃない。 ガガン親方がくれた「鉛の弾丸」だ。


「魔法が斬れるなら、鉛玉も斬ってみろよ」


ドンッ! ドンッ! 銃声が響き、二人の浪人の足元――草履の鼻緒が吹き飛んだ。 正確無比な威嚇射撃。


「ば、化け物……!」


浪人たちは這いつくばって逃げ出した。 物理的な速度と質量には、彼らの「気」も追いつかないらしい。


「……ふぅ。厄介な国に来ちまったな」


僕は銃を収め、ため息をついた。 雑魚ですら、魔法防御アンチマジックの技術を持っている。 ここで機神のパーツ、そしてカズヤの秘密を探るには、僕たちもこの「気」の扱いを学ぶ必要があるかもしれない。


「……レイン様。あの方、見ていましたわよ」


セリアが視線を送る。 路地裏の屋根の上。 そこに、一人の少女が座っていた。 狐の面をつけ、忍装束を纏った小柄な影。 彼女は僕たち――特にエリルを興味深そうに見つめると、手印を結び、煙と共に消え失せた。


「……シノビか」


歓迎はされていないようだ。 だが、手掛かりにはなる。 僕たちは気を引き締め直し、異国の風が吹く街の中へと歩き出した。

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