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【第72話:天空の城】

玉座の裏、隠し通路の突き当たりにある封印扉。 それをセリアの魔法とガルの腕力でこじ開けた瞬間、僕たちを出迎えたのは、強烈な「虚無感」だった。


「……ない」


広大な地下空洞。 そこには、巨大な建造物を支えていたであろう土台と、切断された太いケーブル、そして冷却用の水蒸気だけが残されていた。 あるはずの「機神の胴体」がない。 そして、教団の幹部たちの姿も。


「遅かったか……!」


僕は歯噛みした。 中央に残された台座。そこに、一つの水晶が置かれている。 近づくと、水晶が勝手に起動し、ホログラム映像を空中に投影した。 映し出されたのは、皺だらけの老人の顔。 教団の最高指導者、教皇だ。


『――ご苦労だったな、冒険者諸君。そして、愚かなる反逆者たちよ』


映像の中の教皇は、嘲るように微笑んでいた。


『黒騎士が敗れたことは計算外だったが……まあ良い。時間稼ぎにはなった。おかげで「神の心臓ジェネレーター」へのマナ充填は完了した』 「マナ充填……? 父さんや、国民から吸い上げたマナのことか!」 『そうだ。この国はもう用済みだ。我々は「聖櫃アーク」と共に、約束の地へ旅立つ』


ズズズズズ……。 映像が消えると同時に、地鳴りが響き渡った。 地下ではない。 上だ。 王城の遥か上空から、大気を震わせる重低音が降り注いでくる。


「レイン様! 魔力反応、頭上です! ……信じられません、質量が大きすぎますわ!」


セリアが悲鳴を上げる。 僕たちは来た道を駆け戻り、王城のテラスへと飛び出した。


「な……んだ、あれ」


エリルが絶句し、空を見上げる。 王都の空を覆う雲が割れ、その向こうに「それ」は浮かんでいた。 巨大な、空飛ぶ要塞。 古代の遺跡をそのまま空に持ち上げたような、岩と金属の塊。 その中心には、脈打つように輝く巨大な炉――**【機神の胴体】**が埋め込まれている。


【空中機動要塞:聖櫃アーク】 動力源:機神・胴体ユニット(覚醒率40%) 乗員:教皇、教団幹部、および精鋭部隊


「飛んで逃げる気かよ……!」


ガルが悔しげに拳を空に向ける。 レールガンでも届かない高度。 いや、届いたとしても、あのサイズの要塞を撃ち落とせば、墜落の衝撃で王都が消滅する。


『さらばだ、旧人類。……我々は北の大地で、機神の復活を待つ』


空から声が降ってくる。 要塞アークは、ゆっくりと、しかし圧倒的な速度で北の方角――暗黒大陸ゼノビアへと舵を切った。 僕たちはただ、遠ざかる巨大な影を見送ることしかできなかった。


「……逃げられた、か」


隣でレオンハルトが呟いた。 その表情は悔しげだが、絶望してはいなかった。


「だが、王都は守りきった。……妹も、国民も無事だ」 「ああ。黒騎士との決着もついた。……負けじゃない」


僕は自分に言い聞かせるように言った。 確かに、敵の本丸は逃した。 だが、僕たちは教団の支配を覆し、機神のミーミル右腕アガートラーム、そして最高の仲間を手に入れた。


「レイン」


レオンハルトが僕の方を向き、銀色の義手を差し出した。


「僕はここに残る。……王家を立て直し、国中の洗脳を解かなきゃならない。それが、兄を殺した僕の責任だ」 「ああ。王都のことは任せたよ、勇者様」


僕は彼の手を握り返した。


「その代わり……逃げた連中は、僕たちが追う」


僕は空を指差した。


「奴らは北へ向かった。……残りのパーツ、左脚と左腕も回収するつもりだ」 「世界中を旅することになるぞ?」 「望むところだ。……Sクラスの課外授業には丁度いい」


僕が振り返ると、傷だらけの仲間たちが、ニヤリと笑っていた。


「船ならありますわ! 私が改造すれば、あの要塞にも追いつけます!」 「おう! 世界中の筋肉と交流できるのか!?」 「……呪いの聖地巡礼……」 「ん。レインが行くなら、どこへでも」


頼もしすぎる馬鹿たち。 そうだ。僕たちはまだ、世界のほんの一部しか知らない。 海へ、空へ、そして魔の大陸へ。 物語の舞台は、この箱庭(学園)から、広大な世界へと解き放たれたのだ。


「……行こう」


僕は空を見上げた。 要塞はもう、雲の彼方に消えていた。 だが、僕の**【鑑定】**は、その軌跡をはっきりと捉えている。


「追いかけるぞ。地の果てまで」


王都奪還、完了。 そして、世界を巡る「機神争奪戦」の幕開けだ。

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