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【第68話:学園絶対防衛線】

Sクラスの教室に飛び込むと、そこは以前と変わらない埃っぽい空気が漂っていた。 床にはガルの落書き、机にはエリスの呪いの痕跡。 教団兵が踏み入った形跡はない。 僕たちが仕掛けた「恐怖の演出トラップ」が、迷信深い彼らを遠ざけていたのだ。


「……懐かしいですわね。たった数週間空けただけなのに」


セリアが感慨深げに教卓を撫でる。 だが、感傷に浸る時間はない。 僕は床の隠しハッチを開け放った。


「急ぐぞ。教団も異変に気づいて、増援を送ってくるはずだ」 「ええ。……起こしに行きましょう、もう一人の私を」


僕たちは地下への階段を滑り降りた。 最深部、メインサーバールーム。 巨大な培養槽の中で、機神の脳【ミーミル】は静かに眠っていた。 青白い液体の中、無機質な美しさを湛えた少女。


「……レイン様、バックアップをお願いします。学園全体の制御を奪うには、私の演算能力だけではパンクしますわ」 「任せろ。僕の**【並列思考】**をフル回転させて、お前の脳(CPU)を補助する」


セリアがコンソールに向かい、僕はその背中に手を当てた。 魔力接続パス・コネクト。 僕のマナがセリアの中へ流れ込み、彼女の意識と同期する。


「……行きますわよ!」


接続リンク開始。……対象:王立魔導学園・基幹防衛システム』


カッ! 部屋中のモニターが一斉に点灯する。 視界が情報の奔流に埋め尽くされる。 学園の見取り図、結界の術式、自動人形オートマタの配置図。 それら全てに、赤い「LOCK(教団支配下)」の文字がかかっている。


『警告。不正アクセスを検知。……防壁プログラム起動』


教団が仕掛けたセキュリティが牙を剥く。 だが、今の僕たちには通じない。


「甘いですわ! その術式、私が10歳の頃に論破した古臭い理論ですもの!」 「右翼結界の書き換え完了。……中央突破するぞ、セリア!」


僕が演算リソースを確保し、セリアが術式を組む。 二人で一つの頭脳。 赤いロックが、次々と青い「ACCESS OK」へと書き換わっていく。


そして。 セリアが培養槽のガラスに手を当て、眠れる少女に呼びかけた。


「起きなさい、ミーミル! ……いつまで寝ているつもり!? 私たちのガクエンが荒らされていてよ!」


その言葉に呼応するように、ミーミルの瞼が震えた。 カッ! 培養槽の中で、アメジスト色の瞳が見開かれる。


『……認証。マスター権限:Unit 02 "CELIA"。……および、機神契約者 "RAIN"』 『おはようございます。……命令を受理しました』


ズズズズズ……! 地響きが鳴り響く。 地下施設だけではない。遥か頭上の地上、学園全体が震えているのだ。


『学園防衛プロトコル・レベル5(マキシマム)発動。……対象:教団所属識別を持つ全個体』 『排除を開始します』


***


地上。 校内を我が物顔で闊歩していた白装束の教団兵たちが、突如として足を止めた。 校舎の壁が、地面が、青白く発光し始めたからだ。


「な、なんだ!? 地震か!?」 「魔力反応、急上昇! 足元から……うわぁぁっ!?」


悲鳴が上がる。 校庭の地面が割れ、そこから無数の「石像ガーゴイル」が飛び出したのだ。 ただの石像ではない。ミスリルコーティングされた、対魔術師用の自動兵器。 さらに、校舎の窓が一斉に開き、校内の害虫を駆除するかのように、防御結界が「拒絶の波動」を放つ。


ドンッ! ドンッ! 教団兵たちが、見えない壁に弾き飛ばされ、校門の外へと強制排出されていく。


「バカな!? 結界の制御権は我々にあるはずだ!」 「書き換えられただと!? 誰が……!?」


混乱する教団兵たち。 その頭上、旧校舎の屋上に、僕たちが姿を現した。 夜風に銀髪をなびかせるセリア。 銀の義手を掲げるレオンハルト。 そして、Sクラスの面々。


「――そこまでだ、不法侵入者ども」


レオンハルトの声が、校内放送用のスピーカーを通じて学園中に響き渡る。


「ここは神の庭ではない。……未来を学ぶ者たちの城だ」


彼は義手を握りしめた。 それに呼応して、学園全体を覆う巨大なドーム状の結界が展開される。 教団の「監禁結界」を内側から食い破り、より強固な「絶対防御圏」が完成したのだ。


「王立魔導学園は、只今をもって『解放区』とする! ……教団の犬どもは尻尾を巻いて去れ!」


『警告。退去に応じない場合、殲滅モードへ移行します』


ミーミルの無機質な声と共に、校舎の屋根から巨大な魔導砲の砲身がせり出し、教団兵たちに照準を合わせる。 圧倒的な火力差。 教団兵たちは顔色を変え、蜘蛛の子を散らすように撤退していった。


「……勝った」


エリルが小さくガッツポーズをする。 校内に残されたのは、洗脳された生徒たちだけ。 彼らもまた、結界の浄化作用により、糸が切れたようにその場に崩れ落ち、眠りについた。


「……ふぅ。やりましたわね」


セリアが額の汗を拭い、誇らしげに校庭を見下ろす。 学園は取り戻した。 ここはもう、敵地ではない。 僕たちの最強の「前線基地ベースキャンプ」だ。


「喜ぶのは早いぞ」


僕は遠くに見える王城――未だ不気味な光を放つ敵の本丸を睨みつけた。


「足場は固めた。……次は、あそこだ」


王城の地下。 そこに、レオンハルトの妹と、あの異界の剣士がいる。 そして、この国を操る教団の中枢も。


「……行くぞ。最終決戦だ」


Sクラスの教室に戻り、僕たちは最後の準備に取り掛かった。 夜が明ければ、王都奪還作戦が始まる。 泣いても笑っても、これが最後だ。

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