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【第62話:新たなる契約】

ズガァァァァァァァンッ!!!!


光が収束し、世界が白く染まった直後。 遅れてやってきた衝撃波が、火口内部の空気を根こそぎ吹き飛ばした。 僕の肩が悲鳴を上げる。**【雷神の槍】**の反動で、右肩の関節が外れたかもしれない。 だが、スコープ越しに見えた光景は、その代償に見合うものだった。


『グ、オオ……ッ!?』


ドラゴンの背中で、何かが弾ける音がした。 オリハルコンの弾丸が、機神のパーツとドラゴンの肉体の結合部を、ミリ単位の狂いもなく貫通したのだ。 強制剥離。 融合していた銀色の右腕が、千切れるように空中に弾き飛ばされる。


「やった……!」


エリルが離脱し、岩場に着地する。 寄生主を失ったヴォルカニック・ドラゴンは、糸が切れたようにぐらりと揺らぎ、そのままズズーンとマグマの海へと沈んでいった。 死んではいない。だが、あの呪縛からは解放されたはずだ。


「喜んでいる暇はありませんわ! 見て!」


セリアの悲鳴に近い声。 見上げると、天井の岩盤に亀裂が走り、巨大な岩塊が雨のように降り注いでいた。 ドラゴンの暴走と、僕のレールガンの衝撃で、火口の地盤が崩壊を始めたのだ。 足元の黒曜石の道も、再びマグマへと還り始めている。


「崩れるぞ! 全員、撤退だ!」


僕が叫ぶと同時に、空中に弾き飛ばされた「機神の右腕」が、異様な動きを見せた。 マグマに落ちるでもなく、空中で静止し、クルクルと回転を始めたのだ。 そして、僕の胸ポケットにある**【IDカード】**と共鳴するように、青い光を放ち始めた。


『……認証。管理者権限を確認。……帰還モードへ移行』


機械音声と共に、巨大だった右腕が、シュゥゥゥ……と圧縮されていく。 質量保存の法則を無視した変形。 数秒後。そこには、掌サイズの「銀色の立方体キューブ」だけが浮遊していた。


「……来い」


僕が手を伸ばすと、キューブは吸い寄せられるように飛来し、僕の手の中に収まった。 ずしりと重い。 だが、冷たい。 この灼熱の中で、これだけは絶対零度のような冷気を帯びている。


【入手:機神パーツ・右腕(兵装ユニット)】 状態:封印形態キューブ


「回収完了! ……逃げるぞ!」


「おう! だが足場がねぇぞ!」


ガルが叫ぶ。 帰りの道は既に崩落し、マグマの海に飲み込まれている。 壁を登るには時間が足りない。


「飛びますわよ! Sクラス特製・緊急脱出シークエンス!」


セリアが懐から、ロケット花火のような形をした魔導具を4つ取り出した。


「装着してくださいまし! **【簡易飛行ブースター】**ですわ!」 「……いつの間にこんなものを」 「空を飛びたい欲求は人類の夢ですもの!」


僕たちは背中にブースターを装着した。 動力源は、セリアの魔力と、ガルの「気合(マナ放出)」。


「点火ァァァッ!!」


ボォォォォォッ!! 背中から猛烈な風が噴き出し、僕たちの身体が宙に浮く。 制御なんてあったもんじゃない。ただ上にカッ飛ぶだけの暴走ロケットだ。


「うわああああッ!?」 「……目が回る……」 「筋肉が空を飛んでいるゥゥッ!」


Sクラスの面々が悲鳴(と歓喜)を上げながら、崩れゆく火口の中を垂直上昇していく。 上から降ってくる落石を、エリルが空中で斬り払い、僕がレールガン(片手撃ち・バーストモード)で粉砕して道を開ける。


「どけぇぇぇぇッ!!」


視界の先に、火口の出口――夜空の星が見えた。 あと少し。 だが、背後から轟音が迫る。 マグマだ。 地殻変動により、火口の底からマグマが噴き上がり、僕たちを飲み込もうと追ってくる。


「追いつかれる!」 「セリア、出力上げろ!」 「限界ですわ! これ以上は爆発します!」


絶体絶命。 その時、僕の懐にある「銀のキューブ」が、微かに脈動した。


『……兵装ユニット、一時的リンク。……推進力補助』


カッ! キューブから青い光が溢れ、僕たちのブースターを包み込んだ。 機神のエネルギーだ。 推進力が倍増する。


「うおおおおおおッ!?」


音速の壁を超えた。 僕たちはコルク栓が抜けるような勢いで、火口から飛び出した。 背後で、マグマの柱が天高く噴き上がる。 夜空に咲く、巨大な赤い花火。


僕たちは放り出された勢いのまま、ドワーフの街の近くにある荒野へと不時着した。 ドサドサドサッ! 砂煙を上げて転がるSクラスの面々。


「……いっ、てぇ……」


僕は空を見上げて大の字になった。 生きている。 右肩は外れ、全身擦り傷だらけだが、五体満足だ。 横ではガルが「大地とキスした!」と笑い、エリスが目を回し、セリアとエリルが髪を直している。


「……無茶苦茶だ、本当に」


僕が苦笑すると、遠くからドタドタと足音が聞こえてきた。 ガガン親方だ。 彼は噴火を見て、慌てて飛び出してきたのだろう。


「おい! 生きてるかクソガキども!」 「……見ての通りだ、親方」


僕は身を起こし、懐から「銀のキューブ」を取り出して見せた。 そして、もう片方の手で親指を立てる。


ヌシは沈めた。……依頼達成だろ?」


ガガンは僕たちと、噴煙を上げる火山を交互に見て、呆れたように口を開けた。 そして、豪快に笑い飛ばした。


「ガハハハハ! まさか本当にやりやがるとはな! ……ああ、合格だ! 今日は朝まで飲み明かすぞ!」


ドワーフたちの歓声が上がる。 僕たちは顔を見合わせ、泥だらけの顔で笑い合った。 機神のパーツ、一つ目確保。 そして、僕たちのレベルも確実に上がっている。


「……帰ろうか。私たちの国へ」


エリルが手を差し伸べてくる。 僕はその手を掴み、立ち上がった。 ヴォルカでの冒険は終わった。 だが、これはまだ5つのパーツのうちの一つ。 旅は続く。

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