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【第61話:ヴォルカニック・ドラゴン】

洞窟の最深部。 そこは、この世の地獄を具現化したような場所だった。 視界を埋め尽くすのは、赤く煮えたぎるマグマの海。 足場は岸辺の僅かな岩場のみ。 その灼熱の海の中央に、巨体はいた。


『グオオオオオオオオオッ!!』


【機神融合体:ヴォルカニック・ドラゴン】 Lv. 65(機神パーツ補正により上昇) 状態:暴走、常時熱核再生


全長30メートル。 全身が溶岩のような赤黒い鱗で覆われている。 そして、その背中には――異質な「銀色の右腕」が突き刺さっていた。 機神のパーツだ。 それがドラゴンの神経系に根を張り、強制的にマナを供給し、暴走させている。 背中の右腕からは断続的に赤い稲妻が走り、周囲のマグマを沸騰させていた。


「……でかい。それに、あの背中のパーツ……!」


セリアが計測器を見て顔をしかめる。


「あれが冷却機能を阻害していますわ! ドラゴンの体温が臨界点を超えています。……このままだと、自爆してここら一帯が吹き飛びます!」 「最悪だな。……だが、やるしかない」


僕は**【雷神の槍・改】**のボルトを引き、冷却バルブを全開にした。 作戦はシンプルだ。 ドラゴンの再生能力を上回る火力で、背中のパーツごと核を撃ち抜く。 だが、今のままでは狙えない。奴はマグマの中に潜り、地形効果で無敵状態だ。


「引きずり出すぞ。……足場を作る!」


僕の号令が飛ぶ。


「セリア、エリス! 全力でマグマを冷やせ! 僕たちが乗れるだけの陸地を作れ!」 「了解ですわ! 科学と魔法の力で、熱力学をねじ曲げます!」 「……うふふ、地獄の釜を、凍らせてあげる……」


二人の魔導師が前に出る。 セリアが展開するのは、絶対零度に近い冷却ガスを生成する科学魔法。 エリスが喚ぶのは、死者の国から吹く凍てつく風。


『複合極大魔法』――【ニブルヘイム・フロスト】!!


ヒュオオオオオオオオッ!!


猛吹雪がマグマの海を襲う。 ジュウウウウウッ!! 凄まじい水蒸気爆発と共に、赤かったマグマが急速に黒く変色し、固まっていく。 灼熱の海に、黒曜石の道が出来上がった。


『グルァァァッ!?』


急激な温度変化に、ドラゴンが驚愕し、マグマから身を乗り出す。 その瞬間を、待っていた男がいた。


「道はできた! 行くぞオォォォッ!!」


ガルだ。 彼は黒く固まったばかりの(まだ数百度はあるはずの)マグマの上を、裸足で疾走した。 手には、ガガン親方から借り受けた巨大なミスリルの大盾。


「こっちだトカゲ野郎! 俺の筋肉を見ろォッ!!」


スキル【挑発マッスル・シャウト】。 ドラゴンのヘイトが一瞬でガルに向く。 ドラゴンが大きく息を吸い込み、口から灼熱のブレスを吐き出した。 溶岩そのもののような奔流。


「ぬんッ!!」


ガルは大盾を地面に突き刺し、その裏に隠れる。 ドガァァァァッ!! ブレスが直撃し、盾が赤熱する。 だが、ガルは一歩も退かない。 全身の筋肉を硬化させ、衝撃を地面へと逃がす。


「熱ゥゥゥい! だが、効かぬ!!」


人間のタンクとして完璧な仕事だ。 ドラゴンの意識が完全にガルに固定された。 その死角、ドラゴンの背後へ、黒い影が走る。


「……遅い」


エリルだ。 彼女は冷え固まったマグマの突起を足場に、鳥のように舞った。 ドラゴンの尻尾に着地し、そのまま背中へと駆け上がる。 目指すは、融合した「機神の右腕」の接合部。


『ガアッ!?』


ドラゴンが異物に気づき、身体を激しく揺する。 だが、エリルはバランスを崩さない。 背中のパーツまであと数メートル。 しかし、そこでパーツ自体が防衛反応を示した。 右腕の指先から、赤いレーザーが乱射される。


「エリル、伏せろ!」


僕の援護射撃。 **【雷神の槍】**のバーストモード(連射)で、レーザーの射出口を牽制する。 着弾の衝撃でレーザーが逸れる。 その隙に、エリルが懐に飛び込んだ。


「切り離す!」


彼女はミスリルの短剣を、ドラゴンとパーツの境目――肉が盛り上がり、ケーブルが食い込んでいる部分に突き立てた。


ザクッ!!


『ギャオオオオオオッ!!』


ドラゴンが絶叫する。 硬い。鱗と装甲が邪魔をして、刃が奥まで届かない。 だが、傷口は開いた。 そこから、真っ赤なマグマの血が吹き出す。


「レイン! 今!」


エリルが叫び、バックステップで離脱する。 傷口が露出した。 再生が始まるまでの、わずか数秒のチャンス。


「……合わせろ、みんな!」


僕は岸辺の岩場に片膝をつき、スコープを覗き込んだ。 距離、300メートル。 ターゲット、背部接合部、深さ50センチの核。


「セリア、バレル冷却! エリス、呪いで傷口を固定しろ! ガル、そのまま耐えろ!」


「冷却水循環、最大! いけますわ!」 「……傷よ、開いたまま腐りなさい……」 「ぐぬぬぬぬ……早くしろ委員長! 筋肉がウェルダンになっちまう!」


全員の力が、僕の一撃をお膳立てしてくれる。 この信頼に応えなきゃ、男じゃない。


僕はトリガーに指をかけ、魔力を練り上げた。 今回は牽制じゃない。 ガガン親方に「二度とやるな」と言われた、リミッター解除の最大出力。


砲身が唸る。 青い光が溢れ出し、周囲の岩が浮き上がる。


「……貫け」


【雷神の槍】――限界突破オーバーロード!!


ズガァァァァァァァンッ!!!!


世界が白く染まるほどの閃光。 音速を超えたオリハルコンの弾丸が、エリルの切り開いた傷口へと吸い込まれた。

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