表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/114

【第58話:鉄と炎の協奏曲】

「……酷ぇな。こいつを作った奴は素人か? 素材が泣いてるぞ」


ガガン親方の工房。 炉の火が赤々と燃える中、作業台に置かれた**【雷神の槍】**を見下ろし、親方は顔をしかめた。 無理もない。 オリハルコンを溶かして固めただけの砲身は、先日の戦闘による過負荷で飴細工のように歪み、内側はプラズマ熱でドロドロに溶けていた。


「理論は面白い。マナを磁場に変えて鉄塊を撃ち出す……ドワーフの発想にはねぇ技術だ。だが、これじゃあ一発撃つたびに砲身が死ぬ。使い捨ての玩具だ」 「だから頼みに来たんです。……こいつを、連射に耐えられる『兵器』にしたい」


僕は頭を下げた。 あの異界の剣士に対抗するには、一撃必殺の大技だけじゃ足りない。 牽制、連射、そして精密射撃。 あらゆる局面に対応できる「銃」が必要だ。


「フン、簡単に言うぜ。……オリハルコンは熱伝導率が高すぎる。冷却機構を組み込まなきゃ、お前の腕ごと蒸発するぞ」 「冷却なら、案がありますわ!」


セリアが設計図(紙切れ)をババンと広げた。


「砲身の周囲にミスリル銀の微細なパイプを張り巡らせ、そこに『液化マナ』を循環させるのです! ラジエーター構造ですわ!」 「ほう……水冷ならぬ魔力冷却か。悪くねぇ」


ガガンがニヤリと笑い、巨大なハンマーを持ち上げた。


「いいだろう! 久しぶりに腕が鳴る! ……おい筋肉! お前がふいごだ! 全力で風を送れ!」 「応ォッ! 肺活量の限界に挑む!」


ガルが巨大な鞴に取り付き、凄まじい勢いで上下させ始める。 ゴォォォォォッ!! 炉の炎が白熱し、工房内の温度が一気に跳ね上がる。


「呪い女! 温度が上がりすぎたら冷やせ! お前の陰気なマナなら丁度いい!」 「……うふふ、冷たい炎……冥府の風……」


エリスが炉の横でブツブツと呟くと、炎の勢いはそのままに、熱だけがスッと引いていく。 完璧な温度管理だ。


「よし、始めるぞ! ……レイン、お前は俺の動きに合わせてマナを叩き込め! タイミングがズレたら爆発するぞ!」


ガガンが真っ赤に熱せられたオリハルコンの塊を叩く。 カーン! その音に合わせて、僕は**【魔力操作】**でマナを注入し、金属の分子配列を書き換えていく。 硬く、粘り強く、そして熱に強く。


「そこだ! 叩けッ!」 「オラァッ!!」


カーン! カーン! カーン! ガガンのハンマーと、僕の魔力、ガルの風、エリスの冷気、セリアの術式記述。 全てが噛み合う。 Sクラスの力が、一つの形へと収束していく。


(……すごい)


僕は汗だくになりながら、目の前で形作られていく金属の美しさに魅入っていた。 ただの鉄塊だった砲身が、洗練された流線型へと変わっていく。 無骨だったグリップは手に馴染む形状へ。 剥き出しだったレールは、冷却機構を内蔵した多重構造のバレルへ。


「仕上げだ! エリル、お前の短剣ミスリルの削り粉を貸せ!」 「……ん。高いけど、いい」


キラキラと舞うミスリルの粉末が、砲身の表面にコーティングされる。 魔力伝導率の向上と、熱耐性の付与。


ジュウゥゥゥゥ……。


最後に、冷却水(聖水)に浸すと、大量の蒸気と共に、新たな相棒が産声を上げた。


「……できたぞ」


ガガンがトングで引き上げたのは、もはや「槍」とは呼べない代物だった。 鈍い銀色に輝く、長大なライフル形状。 バレルには青いライン(冷却路)が走り、機関部は複雑な魔導回路で覆われている。 重厚にして、繊細。


【超電磁狙撃砲:雷神ケラウノス・改】 等級:アーティファクト級(製作者:ガガン&Sクラス) 材質:オリハルコン・ミスリル合金 機能: * バーストモード(連射): 威力・中。牽制用。 * スナイプモード(狙撃): 威力・大。長距離精密射撃。 * リミット解除(過負荷): 威力・極大。冷却強制停止による一撃必殺。


「……軽い」


手に取った瞬間、僕は驚いた。 重量は変わっていないはずなのに、重心バランスが完璧で、羽のように軽く感じる。 マナを通すと、まるで体の一部になったかのように吸い付く。


「中身をくり抜いて、冷却路を通したからな。……どうだ、気に入ったか?」 「ああ。……最高だ、親方」


僕はスコープ(セリア製の強化ガラス)を覗き込んだ。 工房の隅にある的の中心が、手に取るように見える。 これなら、あの剣士の動きも捉えられる。


「礼は、火口の底にある『何か』を取ってきた後でいい」 「え?」 「お前らの狙いは、あの火口の中だろ? ……最近、あそこのヌシが暴れてて商売あがったりなんだよ。ついでにシメてきてくれ」


ガガンはニカッと笑い、親指を立てた。 どうやら、全てお見通しだったらしい。


「任せろ。……この新しい牙の試し撃ちに丁度いい」


僕は**【雷神・改】**を背負い、仲間たちに向き直った。 全員、煤だらけだが、目は輝いている。


「行くぞ。……灼熱の底へ」


装備は整った。 次は、この国の最深部、機神の右腕が眠るマグマの海への挑戦だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ