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【第51話:使い捨ての英雄】

放課後。 僕は生徒会室の重厚な扉をノックした。 中に入ると、書類の山に埋もれたレオンハルトが、疲労の色を隠せずに顔を上げた。


「……やあ、レイン。待っていたよ」


彼は従者たちを人払いで外に出し、部屋に防音結界を張った。 その顔からは、いつものキラキラしたオーラが消え、焦燥感が滲み出ている。


「単刀直入に言おう。……今回の『星詠み祭』で、教団が動く」 「予想通りだな。狙いは何だ? 機神のパーツか?」 「いや。もっと直接的な戦力増強だ」


レオンハルトは一枚の羊皮紙を机に広げた。 そこには、学園の地下深くにある魔法陣の図面と、不吉な儀式の日程が記されていた。


「彼らは『勇者召喚』を行うつもりだ」 「勇者……? お前がいるのにか?」


僕が問うと、レオンハルトは自嘲気味に笑った。


「僕は彼らにとって『扱いづらい駒』になりつつあるからね。君との決闘で見逃しをしたり、独自の動きを見せ始めている。……だから、彼らは欲しがっているんだよ。もっと純粋で、洗脳しやすい『新品の英雄』を」 「……つまり、お前はお払い箱ってわけか」 「そういうことだ。儀式が成功すれば、僕は用済みとして……妹諸共、始末されるだろう」


そして、彼は声を潜めた。


「召喚の対象は『異界の魂』だ。……レイン、君のような『あちら側』の人間を、無理やり引きずり込む儀式だ」


背筋が凍った。 異世界召喚。 僕のように死んで転生するのではなく、生きている人間を無理やり連れてくる誘拐。 もし成功すれば、僕と同じ現代知識を持った人間が、教団の手駒として敵に回ることになる。 それは最悪だ。知識チート同士の殺し合いなんて御免だ。


「……分かった。阻止すればいいんだな」 「ああ。儀式は祭り最終日の夜、全校生徒のマナが高まった瞬間に地下で行われる。……僕は表舞台で『星詠みの儀』を執り行わなきゃならない。動けるのは君だけだ」 「任せろ。……その儀式会場ごと、ひっくり返してやる」


僕はレオンハルトと拳を合わせ、生徒会室を後にした。 やるべきことは決まった。 教団が祭りの裏で動くなら、こちらも祭りの裏で「迎撃準備」を整えるまでだ。


***


Sクラスの教室に戻ると、案の定、カオスな議論が繰り広げられていた。


「出し物は筋肉ショーだ! 俺のポージングでAクラスの軟弱者どもを威圧する!」 「却下ですわ! 『自動変形型パンケーキ焼き機』の実演販売こそが至高!」 「……呪いの館……入った人は二度と出られない……」


まとまりがない。 だが、このカオスこそが今の僕には必要だ。


「お前ら、席につけ! 出し物は決まったぞ!」


僕が教卓を叩くと、全員が注目した。 僕は黒板にデカデカと書き殴った。


【Sクラス特製:リアル・ダンジョン攻略アトラクション】


「ダンジョン……?」 「そうだ。ただのお化け屋敷じゃない。僕たちの技術(と殺意)を結集させた、ガチの迷宮を作る」


僕はニヤリと笑い、真の目的(対教団防衛戦)を隠して、彼らの欲望を刺激するプレゼンを開始した。


「ガル。お前はモンスター役だ。存分に暴れて、侵入者をなぎ倒していい。ただし殺すなよ?」 「何だと!? 合法的に暴れていいのか!? やるぞぉぉッ!」 「エリス。君の死霊術で、本物の恐怖を演出してくれ。……地下からの侵入者を感知するセンサー役も頼む」 「……ふふ、本物の霊障を見せてあげる……」


そして、セリアとエリルに向き直る。


「セリア。機神の制御権を使って、校舎の構造を『改造』しろ。……表向きはアトラクションだが、裏では地下からの敵を迎撃する『要塞』にする」 「まあ! つまり予算(部費)を使って、合法的に校舎を改造できますのね!? やりますわ!」 「エリル。お前は内部の警備隊長だ。……不審な客(教団の刺客)が紛れ込んだら、闇の中で処理しろ」 「……ん。得意分野」


完璧だ。 Sクラスの欲望と能力が、一つの目的に合致した。 表向きは学園祭の目玉アトラクション。 だがその実態は、地下で儀式を行おうとする教団を妨害し、召喚魔法陣を破壊するための前線基地。


「期間は一週間だ。……Aクラスの連中が泣いて逃げ出し、教団の連中が踏み込んだことを後悔するような、最高に狂った迷宮を作るぞ!」


「「「オォォォォッ!!!」」」


Sクラスの鬨の声が轟く。 こうして、学園祭という名の戦争準備が始まった。 廊下を通る他の生徒たちは、Sクラスの教室から漏れ出す殺気と、ガガガガという工事音に震え上がり、誰も近づこうとはしなかった。

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