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【第18話:深淵からの招待状】

Dランク昇格から数日後。 僕とエリルは、ギルドの個室ブースに呼び出されていた。 目の前には、厳つい顔をしたギルド職員と、一枚の羊皮紙。


「――指名依頼だ。拒否権はないと思ってくれ」


職員が差し出した依頼書には、**【沈んだ迷宮(サンクン・ラビリンス)の異常調査】**と記されていた。 王都の地下深くに広がる、古代の下水道と遺跡が融合した未踏破領域。 最近、そこから漏れ出すマナ濃度が急上昇し、地上の井戸水が沸騰するなどの被害が出ているらしい。


「普通ならBランク相当の案件だ。だが、先日の『人形破壊』の件で、上はお前たちの火力を買っている。……報酬は金貨30枚だ」


破格だ。だが、危険手当込みだろう。 僕は隣のエリルと視線を交わし、短く頷いた。 断れば、逆に目をつけられる。ならば稼ぐだけ稼ぐ。


「引き受けよう。ただし、前金で装備を整えさせてもらう」


***


準備を整え、僕たちは王都の裏区画にある、封鎖された鉄格子の前に立った。 ここが入り口だ。 ちなみに、出発前にセリアの研究室に寄った際、「私も行きますわ!」と暴れる彼女を、「お土産(未知の遺物)を持って帰るから」と宥めるのに一時間かかった。 彼女から貰った『魔力ランタン』と『解毒ポーション』が今回の命綱だ。


「……行くぞ、エリル」 「ん。いつでも」


重い格子を開け、螺旋階段を降りる。 湿った冷気と、錆びた鉄の匂い。 地下1階層。 そこは、ただの洞窟ではなかった。 石壁の至る所に、青白く発光する苔――いや、苔に見せかけた『配管』が走っている。


「やっぱりな。ここはただの遺跡じゃない。古代の『施設』だ」


僕は壁に手を当て、**『鑑定』**を発動した。


【古代地下施設・外壁】 材質:魔鋼コンクリート 状態:劣化、マナ漏出(中) 構造:地下4階層まで検知


「レイン、何か来る」


エリルの警告と同時だった。 暗闇の奥から、ガシャガシャと不規則な足音が響く。 現れたのは、3体の異形。 壊れた鎧と、配管のパイプが融合したような、歪なゴーレムだ。


【スクラップ・ソルジャー】 Lv. 18 弱点:背面動力パイプ


「硬そう。……私のナイフ、通る?」 「真正面からは無理だ。でも、こいつらは『生き物』じゃない」


僕は前に出た。 これまでの僕なら、ここで【火弾】を撃ち込んでいただろう。 だが、閉鎖空間での爆発魔法はリスクが高い。酸欠や崩落の危険がある。 だから、新しいアプローチを試す。


(視ろ。こいつらの動きを支配している『信号』を)


鑑定スキルを、敵の装甲ではなく、その周囲に漂う微弱なマナの波に向ける。 視えた。 ゴーレムの頭部から、青白い糸のような指令信号が出ている。 それは単純なプログラムだ。『動くものを排除せよ』という。


「……書き換え(ハッキング)は無理でも、妨害(ジャミング)なら!」


僕は右手をかざし、**【魔力操作】**で空間のマナを振動させた。 攻撃魔法じゃない。純粋なマナの波形干渉。 耳障りな高周波の音が響く。


『ガ、ガガ……!?』


先頭のゴーレムが、突然動きを止めて痙攣し始めた。 平衡感覚を狂わせたのだ。


「今だ、エリル! 首の後ろだ!」 「了解!」


エリルが疾風のように駆ける。 動きの止まったゴーレムの背後に回り込み、動力パイプの継ぎ目に、正確無比な一撃を叩き込む。 プシューッ! と蒸気が吹き出し、1体目が崩れ落ちた。


「残り2体!」


僕はマナの振動を維持しつつ、左手で小さな火弾を生成。 ただし、撃ち出さない。 それを照明代わりの閃光弾として、敵の眼前に投げつけた。 センサーが焼き切れ、残りの2体も動きが乱れる。 そこをエリルが的確に処理していく。


数分後。 3体のゴーレムは鉄屑の山に変わっていた。


「……ふぅ。いいペースだ」


僕は額の汗を拭った。 火弾を連発するよりも、マナ消費は十分の一で済んだ。 『鑑定』で敵の仕組みを理解し、『魔力操作』で効率的に無力化し、エリルが仕留める。 この分担作業(ロールプレイ)なら、深く潜れる。


「レイン、これ」


エリルが残骸の中から、青く光る小さな石を拾ってきた。 ゴーレムの動力源だ。


【劣化魔石(小)】 価値:銀貨5枚相当


「いい稼ぎになりそうだ。……でも、妙だな」 「何が?」 「敵の配置が雑すぎる。まるで、誰かに追われて逃げてきたみたいだ」


倒れたゴーレムたちの背中には、エリルがつけた傷以外の、古い損傷があった。 何か、もっと凶悪な『何か』が、この奥にいる。 あるいは、この異常なマナ漏出の原因そのものか。


「……降りよう。地下2階へ」


僕たちは警戒レベルを一段階引き上げ、暗い深淵へと続く階段を降りていった。 僕のレベルアップまで、あと少し。 そして、このダンジョンの「主」の気配が、微かに肌を刺し始めていた。

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