表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/114

【最終話:暁の空へ、また会う日まで】

「急げ! ハッチが閉まるぞ!」


ヴァン先生の怒号が響く。 僕たちは傾く通路を滑り落ちるように駆け抜け、搬入ドックへと飛び込んだ。 そこには、奇跡的に無傷のまま鎮座する**【シルフィード改】**の姿があった。


「セリア、エンジン始動! 暖機運転なんていらない、全開だ!」 「了解ですわ! ……お願い、動いて!」


セリアが最後の魔力を振り絞り、コンソールに叩きつける。 キュイィィィン……ドオォッ!! エンジンの咆哮。船体が震える。


「全員乗ったな!? 出すぞ!」


僕たちはタラップを駆け上がり、そのまま甲板へ倒れ込んだ。 直後、船が急発進する。 ドックの天井が崩落し、瓦礫の雨が降り注ぐ中、シルフィード号は青い推進炎を噴き上げ、崩壊する要塞の腹を食い破るように飛び出した。


「うおおおおおッ!!」


上下左右も分からない轟音と振動。 船体があちこちで悲鳴を上げる。 巨大な要塞アークが、空中で真っ二つに折れ、爆炎を上げて落下していく。 その爆風に煽られながら、僕たちの船は独楽コマのように回転し――そして。


スポーンッ!!


黒煙の層を突き抜け、真っ青な空へと飛び出した。


「…………あ」


誰かの声が漏れた。 目の前に広がっていたのは、地平線から昇る、眩いばかりの朝日だった。 北極点の氷原を黄金色に染め上げる、夜明けの光。 あまりの美しさに、僕たちは言葉を失った。


「……生きてる」


エリルが僕の袖を掴み、確かめるように呟く。 眼下では、要塞の残骸が氷海へと沈み、大きな水柱を上げていた。 全てが終わったのだ。


「ガハハハハ! 最高だ! 生存本能が筋肉をパンプさせている!」 「……うふふ、死ななかった……残念なような、嬉しいような……」 「私、泥だらけですわ……。帰ったら一番風呂に入りますからね!」


ガル、エリス、セリア。 みんなボロボロで、煤だらけで、けれど最高の笑顔だ。 レオンハルトとヴァン先生も、肩を叩き合って健闘を称えている。


「……さて」


その喧騒から離れた船尾。 手すりに寄りかかり、一人で下界を見下ろす影があった。 カズヤだ。 僕はふらつく足で、彼の隣に立った。


「……行くのか?」 「ああ。ここは俺の居場所じゃねぇ」


カズヤは短く答えた。 その手には、あの錆びた刀が握られている。


「俺は、俺のやり方でこの世界を見て回る。……機神だの魔王だの、そんなデカイ話は御免だ。ただ、強い奴と斬り合えればそれでいい」 「……そうか」


止める権利はない。 彼は、教団という鎖からも、現代日本という檻からも解き放たれたのだ。 これからは、彼自身の足で、この異世界を歩いていく。


「レイン」


カズヤが僕の方を向いた。 その顔には、憑き物が落ちたような、清々しい笑みがあった。


「お前は強かった。……魔法も、悪知恵も、その生き方もな」 「お前には負けるよ。……次は勝てる気がしない」 「ハッ、謙遜すんな。……またな」


カズヤはヒラリと手を振り、そして――躊躇なく船縁を越えた。 パラシュートも魔法もない。 生身のまま、数千メートルの高さから雪原へとダイブする。


「……死ぬなよ、バカ野郎」


僕は小さくなった黒い点が、雪煙を上げて着地し、そのまま走り去っていくのを見届けた。 彼なら大丈夫だ。 どこへ行っても、最強の異邦人として生きていくだろう。


「レイン様!」


セリアが呼んでいる。 振り返ると、仲間たちが僕を待っていた。 朝日を背に、輝く笑顔たち。


「……帰ろう。僕たちの家へ」


僕は歩き出した。 前世では手に入らなかったもの。 信頼できる仲間。 熱くなれる冒険。 そして、自分の足で立ち、守り抜いた「今日」という日。


転生してよかった。 心から、そう思った。


「――Sクラス、点呼! 全員揃ってるな?」 「「「応ッ!!」」」


シルフィード改が大きく旋回し、王都の方角へと機首を向ける。 僕たちの冒険は、これで終わりじゃない。 世界は広い。まだ見ぬ謎も、ダンジョンも、美味い飯も山ほどある。


僕の二度目の人生は、まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ