表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/114

【第109話:最期の闘い】

音のない真空の世界で、紫色の閃光が奔った。 **【星喰らい】**の口から放たれた極大ブレス。 それは僕を殺すためのものではない。僕の後ろにある「青い星」を、大気圏ごと焼き尽くすための質量兵器だ。


「……させるかよッ!!」


僕は左手の**【機神の左腕キューブ】**を前方に突き出した。 展開しろ。 僕の命も、魂も、全てをこの一点の座標に固定する。


絶対防御アイギス――最終形態・惑星守護プラネタリー・シールド


カッ!! キューブが砕け散り、僕の左腕そのものが光の粒子となって拡散した。 展開されたのは、六角形の光の壁ではない。 翼のような、巨大な光の膜。 それが僕を中心に広がり、眼下の星を覆い隠すように展開される。


ズガアアアアアアアアアッ!!!!(振動)


衝撃。 腕が、肩が、背骨が、ミシミシと悲鳴を上げる。 熱い。宇宙服(結界)越しに、皮膚が炭化していくのが分かる。 相手は、惑星のエネルギーそのものだ。 人の身で受け止められる熱量じゃない。


「ぐ、ウウウウッ……!!」


意識が飛びそうになる。走馬灯が見える。 だが、その映像の中には、エリルがいる。セリアがいる。レオンハルトがいる。 父さんと母さんがいる。 僕の、大切な「居場所」がある。


(……焼かせない。一ミリたりとも!)


僕は右手の**【雷神の槍】**を、盾の裏側に突き立てた。 残った全魔力を、攻撃ではなく「盾の維持」に注ぎ込む。 砲身が赤熱し、溶け始める。 僕の魔力回路も焼き切れ、鼻と口から血が噴き出す。


「……戻れェェェッ!!」


魂を削る咆哮。 僕の意志に応え、光の盾が輝きを増す。 紫色の奔流が、盾の表面で拡散し、宇宙空間へと散らばっていく。 まるで、星を守るオーロラのように。


……永遠にも感じられた拮抗。 フッ、と圧力が消えた。 ブレスが止んだのだ。


「……はぁ、はぁ……」


僕は空中で大の字になった。 左腕の感覚がない。見ると、肘から先が炭化し、ボロボロになっていた。 **【雷神の槍】**も飴細工のように溶解し、もはや鉄屑だ。 満身創痍。魔力ゼロ。 指一本動かせない。


だが、眼下の星は青いままだ。 守りきった。


『……ギ、ギギ……』


頭上で、不快なノイズが響く。 星喰らいだ。 奴は、自分の最大攻撃を防がれたことに困惑し、そして――「理解」したようだった。 目の前の小さな点(僕)こそが、最大の障害であると。 そして、今の僕が「空っぽ」であることも。


奴の身体が、白く発光し始めた。 今度はブレスではない。 奴の身体を構成する高次元のエネルギーそのものを、質量兵器としてぶつけるつもりだ。 ただの体当たり。 だが、今の僕には、もう避ける力も、防ぐ盾もない。


「……クソッ。詰みか」


迫りくる白い光。 山脈のような巨体が、音もなく僕を押しつぶしに来る。 逃げ場はない。 だが、僕の思考ロジックは、死の寸前で冷徹に回っていた。


(……いや。チャンスだ)


奴は今、防御を捨てて突っ込んできている。 全てのエネルギーを攻撃に転じている。 つまり、奴のコアもまた、無防備に晒されているということだ。


僕は、感覚のなくなった左手を見た。 盾は消えた。 だが、その機能コードはまだ、僕の魂に残っている。 アイギスの本質は「拒絶」。 あらゆる干渉を弾き返す力。


(……防御に使えないなら、攻撃に使えばいい)


僕は懐に残っていた**【IDカード】**を、口で咥えた。 両手が使えないなら、直接、脳で認証する。


『……警告。管理者権限による、セーフティ解除を検知』 『自壊プロセスへの移行。……承認しますか?』


脳内に響くミーミルの声。 僕はニヤリと笑い、心の中で「承認イエス」と叫んだ。


僕の左腕に残っていたアイギスの残滓が、逆流を始める。 守るための拒絶じゃない。 触れたもの全てを内側から破裂させる、破壊の拒絶。


「……来いよ、化け物」


僕は動かない体を、魔力の残りカスで無理やり前へ向けた。 死ぬのは怖くない。 だが、ただ食われるのは御免だ。 どうせ消えるなら、お前の喉元に、一生消えない棘を残してやる。


ズオォォォォォ……!


星喰らいが接触する。 白い光が僕を飲み込む。 身体が分解されていく激痛。 だが、その瞬間に、僕は残った右腕で、溶解した【雷神の槍】を杭のように構え、奴の懐へと突き出した。


そして、左手の「拒絶」のエネルギーを、その槍を通じて奴の体内へ流し込んだ。


「……持ってけッ!!」


対消滅術式スーサイド・ジャミング』!!


バヂィィィィィィッ!!!!


接触点。 僕の体と星喰らいの光が混ざり合った場所で、空間そのものが悲鳴を上げた。 僕の命を燃料にした「拒絶」の力が、星喰らいのエネルギー循環を逆流させる。 飲み込もうとした異物が、体内で爆散する感覚。


『ギ、アアアアアアアアアッ!?』


星喰らいが絶叫する。 奴の光が乱れ、内側から亀裂が走る。 僕の肉体が消滅していくのと同時に、奴の肉体(エネルギー体)もまた、崩壊を始めていた。


(……やった。相打ちだ)


奴の核にヒビを入れた。 これで、奴もこの次元には留まれない。 肉体を維持できず、精神世界へ逃げ込むしかないはずだ。


「……ざまぁ、みろ」


白い光の中、僕の輪郭が溶けていく。 手足の感覚はもうない。 視界も消えた。 ただ、最後に一矢報いたという満足感だけがあった。


(……悪いな、エリル。晩飯までには帰れそうにない)


意識が、白い闇へと溶けていく。 分解。消滅。 星喰らいの断末魔と共に、僕という存在は、宇宙の彼方へと霧散した。


静寂が戻る。 そこにはもう、誰もいなかった。 ただ、美しく青い星だけが、傷一つなく輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ