【第106話:星を断つ一閃】
ギギギギギギギッ……!!
機神の**【絶対防御】と、星喰らいの【極大崩壊波】**。 二つの巨大なエネルギーがゼロ距離で衝突し、空間そのものが悲鳴を上げている。 拮抗状態。 だが、分が悪いのはこちらだ。 星喰らいは地球そのものから無限のマナを吸い上げている。対する機神のエネルギーは有限だ。
『警告。アイギス出力低下。……シールド崩壊まで、あと15秒』
セリアの悲痛な声。 盾に亀裂が走り、光の破片が散る。
「くそっ、押し負けるか……!」 「まだだ! まだ折れるなァッ!」
僕とレオンハルトが咆哮するが、機体はジリジリと後退していく。 このままでは、盾ごと押し潰され、蒸発する。 打つ手なしか。
「……おいおい、情けねぇ声出すなよ」
通信機からではなく、直接、頭上の装甲から声が聞こえた。 見上げると、メインカメラの先に彼がいた。 カズヤだ。 彼は機神の頭頂部に立ち、暴風と熱波の中で、楽しそうに笑っていた。
「膠着状態なんて退屈だろ? ……俺が『風穴』を開けてやる」 「カズヤ!? 何をする気だ!」 「決まってんだろ。……あいつの喉奥、一番いいところを斬りに行くだけさ」
彼は腰の刀――僕が渡した錆びた古刀に手をかけた。 魔力障壁もない生身の体。 飛び出せば、余波だけで消し飛ぶ。
「死ぬ気か!?」 「死なねぇよ。……俺は今、最高に『生きて』るんだ」
カズヤは姿勢を低くした。 その全身から、物理法則を無視した「気」が噴き出す。 刀が鞘走る音が、轟音の中でもクリアに聞こえた。
「レイン。……お前が教えてくれた『居場所』ってやつ、悪くなかったぜ」
彼はニヤリと笑い、そして――飛んだ。
「いっけぇぇぇぇッ!!」
カズヤの体が、光の激流の中へ突っ込んでいく。 自殺行為。 だが、彼は燃え尽きなかった。 彼の周囲だけ、エネルギーの奔流が「斬り裂かれて」左右に分かれていくのだ。 魔法も、熱も、衝撃も。 全てを断つ「無明」の剣域。
『ギョッ!?』
星喰らいの巨大な目が、足元に迫る「点」のような異物に気づく。 だが、遅い。 カズヤは既に、ブレスの発生源――星喰らいの口腔内へと侵入していた。
「……見えたぞ、核ッ!!」
カズヤは空中で回転し、抜刀した。 錆びた刀身が、彼の魂の輝きを帯びて、銀色に光る。 狙うは喉の奥。エネルギーが渦巻く一点。
『無明流奥義』――【天元突破】
ザンッ!!!!!
一閃。 ただの一振りが、星喰らいの喉を内側から切り裂いた。 ブレスの供給路が断たれ、エネルギーが逆流する。
『ガ、アアアアアアアアアアッ!?』
星喰らいが苦悶の絶叫を上げ、のけぞる。 ブレスが止まった。 口の中で大爆発が起き、カズヤの姿が煙の中に消える。
「……カズヤッ!!」 「レイン、今だ! あいつがこじ開けた!」
レオンハルトが叫ぶ。 そうだ。感傷に浸るな。 あいつが命懸けで作った、最初で最後の好機。 これを逃せば、それこそあいつに殺される。
「……合わせろ、レオンハルト! 全エネルギーを右腕へ!」 『了解ですわ! 盾の出力をゼロにして、全てを推力と剣へ回します!』
機神の左腕(盾)が消滅する。 防御を捨てた。 背中のブースターが、暴発寸前まで唸りを上げる。
「トドメだ! ……この星から出て行けェェッ!!」
僕たちは操縦桿を押し込んだ。 機神が加速する。 音速、超音速、極超音速。 光の矢となった機神が、星喰らいの懐――カズヤが切り裂いた傷口へと突っ込む。
右腕に展開された、最大最大出力の光の剣。 その切っ先が、星喰らいの心臓を捉える。
「貫けぇぇぇぇぇッ!!!!」
【機神剣・星穿つ一撃】
ズドオオオオオオオオオオッ!!!!
光の剣が、星喰らいの巨体を背中まで貫通した。 時間よ止まれ。 そう願う暇もなく、莫大なエネルギーが怪獣の体内で炸裂する。
光が溢れた。 北極点の氷が蒸発し、空が割れる。 星喰らいの断末魔が世界中に響き渡り、そして――消えた。
光の中で、僕は見た気がした。 崩れゆく怪獣の破片と共に、満足げに笑いながら落下していく、黒い学生服の少年の姿を。




