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【第101話:三位一体の閃光、抜かずの刃】

「……行くぞッ!!」


僕の号令と同時。 いや、僕が息を吸い込んだ瞬間に、二つの影が弾かれたように飛び出した。


「オオオオオッ!!」


正面から突っ込むのは、レオンハルト。 背中のスラスターを全開にし、銀色の義手**【アガートラーム】**に光の刃を展開する。 音速の突撃。 王城での戦いを超えた、人機一体の最高速。


対するカズヤは、動かない。 ただ、腰の刀に手を置き、脱力して立っているだけ。


「もらった!」


レオンハルトの光刃が、カズヤの脳天へと振り下ろされる。 直撃すれば戦車すら両断する熱量。 だが、カズヤは半歩――わずか数センチだけ左足を引いた。


フワッ。


光の刃が、カズヤの鼻先を掠める。 回避された? いや、ここからが本番だ。


「そこだッ!」


レオンハルトが斬り下ろした刃の軌道を、僕の**【雷神の槍】**が追尾していた。 彼の体がブラインドになっていた死角からの、超精密狙撃。 回避した先の「未来位置」を撃ち抜く。


ズドンッ!!


オリハルコンの弾丸が、カズヤの眉間に吸い込まれる。 避ける場所はない。防御も間に合わない。 そう確信した瞬間。


カツン。


乾いた音がした。 カズヤが、鯉口こいぐちを切ったのだ。 鞘から僅かに覗いた刃の「峰」で、弾丸を弾き飛ばした。 神業なんてレベルじゃない。弾丸の回転に合わせて逸らしたのだ。


「……まだ!」


弾かれた弾丸の影から、三つ目の矢――エリルが飛び出す。 彼女はカズヤの懐、心臓の鼓動が聞こえる距離まで潜り込んでいた。 ミスリルの短剣が、下から顎を突き上げる。


「……貫け」


完璧な奇襲。 レオンハルトが視線を誘導し、僕が意識を逸らし、エリルが急所を突く。 Sクラスが練り上げた必殺の布陣キル・フォーメーション


だが。 カズヤは、笑っていた。


「……悪くない」


トン。 エリルの短剣が止まった。 カズヤが、刀の「柄頭つかがしら」で、エリルの短剣の側面を軽く叩いたのだ。 たったそれだけで、力のベクトルが狂い、刃が明後日の方向へ流れる。


「なッ……!?」


体勢を崩したエリルの腹に、カズヤの膝が入る。 ドゴッ!! エリルが吹き飛び、僕の足元まで転がってくる。


「エリル!」 「ぐぅ……ッ!」


レオンハルトが追撃しようと義手を振るうが、カズヤは風のように背後へ回り込み、鞘でレオンハルトの背中を打った。 バシンッ! 強烈な衝撃に、レオンハルトがたたらを踏む。


静寂。 わずか数秒の攻防。 僕たちは肩で息をしているが、カズヤは定位置に戻り、涼しい顔で立っていた。 その手にある刀は――まだ、鞘に納まったままだ。


「……嘘だろ」


僕は銃を構えたまま、冷や汗を流した。 抜いていない。 僕たちの全力の連携を、彼は「抜刀」すらせずに、鞘と体術だけであしらったのだ。


「……連携は及第点だ。以前の『お遊び』よりはマシになったな」


カズヤは退屈そうに首を鳴らした。


「だが、軽い。……お前たちの攻撃には『殺意』はあっても『芯』がない。ただ速いだけ、ただ重いだけだ」


彼は一歩、こちらへ歩み寄る。 たった一歩なのに、世界が傾いたような圧迫感。 **【オーラ】**の密度が違う。 彼を中心に、空気が重力を持ったように歪んでいる。


「……レイン。それに元勇者」


カズヤの手が、再び柄にかかる。 今度は、鯉口を切る音だけで空気が凍りついた。


「俺に『刀』を抜かせたかったら……死ぬ気で来いよ。命をチップに積まない勝負なんて、欠伸が出る」


ゾワリ。 全身の毛が逆立つ。 来る。 次は、あしらうつもりなんてない。 本当に斬りに来る。


「……レオンハルト、エリル。散開だ」


僕は震える声で指示した。


「固まっていたら、まとめて斬られる。……囲んで、隙を作るしかない」 「ああ。……化け物め」


レオンハルトが義手の出力を最大まで上げる。 エリルが痛む腹を押さえながら、影に溶ける。


勝てるのか? Lv.30の僕たちが、束になっても届かないこの頂に。 だが、やるしかない。 後ろには、セリアたちがいる。世界がある。


「……見せてやるよ、カズヤ。僕たちの『泥仕合』をな!」


僕は吠え、トリガーを引いた。 今度は小細工なし。全力全開の撃ち合いだ。 北の空の下、最後の死闘が加速する。

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