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【第99話:神の箱庭】

ズガガガガガッ……ドォォン!!


**【シルフィード改】**が、要塞アークの装甲ゲートを突き破り、広大な搬入ドックへと滑り込んだ。 船体が床を削り、火花を散らして停止する。 プシューッ……と蒸気が噴き出す中、タラップが降りるよりも早く、僕たちは甲板から飛び降りた。


「――ようこそ、神の箱庭へ!」


待ち構えていたのは、整列した数百の兵士たちだった。 白銀の鎧を纏った聖騎士団。 詠唱待機状態の魔導師部隊。 そして、無機質な眼光を放つ量産型ガーゴイル。 蟻の這い出る隙間もない包囲網だ。


「撃てェッ!!」


指揮官の号令と共に、四方八方から魔法と矢が降り注ぐ。 だが。


「挨拶がなってねぇな、優等生ども!」


ドオォッ!! 先頭に立ったヴァン先生が、酒瓶を放り投げ、空中でそれを蹴り砕いた。 撒き散らされたアルコールに、彼女の魔力が引火する。


爆炎覇ブラスト・ウェイブ】!


爆風がドックを薙ぎ払い、飛来する魔法を物理的に吹き飛ばした。 炎の壁が晴れた先に、先生は処刑鎌デスサイズを構えて不敵に笑う。


「授業開始だ。……席(墓穴)に着け!」


「オラァッ! 俺も混ぜろォッ!」


ガルが咆哮し、一番分厚い敵陣へ突っ込む。 槍の壁? 関係ない。 彼は槍を筋肉で受け止め、へし折り、そのまま騎士たちをボウリングのピンのように弾き飛ばしていく。


筋肉マッスル戦車、通ります!!」 「ひ、ひぃッ!? なんだこいつら!」


敵陣が崩れる。 そこへ、イズナがクナイを乱れ打ち、エリスが死霊の泥沼を展開して足止めする。 Sクラスの乱入により、秩序立っていた騎士団は一瞬でパニックに陥った。


「レイン! ここはあたしたちが食い止める!」


イズナが敵の剣を弾きながら叫ぶ。


「船を守らなきゃ、帰りの足がなくなるよ! ……あんたたちは先に行きな!」 「……いいのか?」 「勘違いするなよ、委員長」


ガルが敵兵を二人まとめてヘッドロックしながら笑う。


「一番いいところ(ボス)は譲ってやるって言ってんだ! ……さっさと行って、世界を救ってこい!」


こいつら……。 僕は胸が熱くなるのを感じた。 ここが死地であることは全員分かっている。 数千の敵を相手に、たった数人で殿しんがりを務める意味も。


「……頼んだぞ! 全員、生きて帰れ!」 「おうよ!」


僕は踵を返し、要塞の深部へと続くゲートを指差した。


「レオンハルト、エリル、セリア、ラピス! ……行くぞ!」 「了解!」


僕たち5人が走り出す。 それを阻もうと、巨大なガーゴイルが空から降ってくる。


「行かせるかァッ!」


だが、そのガーゴイルは、空中で両断された。 ヴァン先生だ。 彼女は鎌を一閃させ、道をこじ開けた。


「……レイン、レオンハルト」


先生は背中を向けたまま、低い声で言った。


「落とし前、つけてこい。……あいつ(カズヤ)も、教団も。俺の教え子が最強だって証明してこい」 「……行ってきます、先生!」


僕たちは先生の作った血路を駆け抜けた。 背後で、再び爆音と怒号が巻き起こる。 振り返らない。 彼らの奮闘を無駄にしないために、一秒でも早く中枢へたどり着く。


通路に入ると、そこは不気味なほど静かだった。 冷たい金属の壁。脈打つマナのパイプライン。 まるで、巨大な生物の体内だ。


「……レイン様。通信が入りましたわ」


セリアがインカムを押さえる。 ノイズ混じりの、しかし聞き覚えのある声。


『……遅かったな』


カズヤだ。


『待ちくたびれたぞ。……俺は最上階、「星の間」にいる』 『来いよ。……今度こそ、決着をつけようぜ』


プツン。通信が切れる。 挑発。あるいは、招待状。


「……星の間か」


僕は**【雷神の槍】**を握り直した。 最上階。そこには恐らく、教団の教皇と、機神の胴体もあるはずだ。 全ての因縁が集束する場所。


「……急ごう。道中の敵は、全部蹴散らす」


僕たちは速度を上げた。 王城での戦いとは違う。 今の僕たちは、世界を知り、仲間を知り、自分自身の弱さすら武器に変えた。 迷いはない。


「……待ってて、お父様たち」


ラピスが祈るように呟く。 彼女の案内で、僕たちは要塞の心臓部を目指す。 決戦のゴングは鳴った。 あとは、最後に立っているのが誰か、それを決めるだけだ。

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