第9話 〜アルフェン遺跡〜
コルダンから歩くこと十日後。
勇者一行はアルフェン遺跡にいた。
崩れ去った白い建物が印象的な場所だった。
「文献によれば、魔王軍の侵攻で”焼き尽くされた”とありますが、荒廃した感じですね」
「経年劣化ね。雨風による摩耗も相まって風化したんだわ……でも100年にしては劣化が早すぎる…まるで1000年くらいたったみたい」
エリシアの疑問にセノンが持論を披露したが、本人も納得していないようだった。
「カインどうだった?」
「影の斥候を放ったが、”地上”には何にもねぇな」
「地上には?」
「あぁ、多分王宮だったとこだと思うが……隠れた地下への扉があったぜ」
カインはダークエルフのハーフエルフだ。
独自のスキルで影を操ることができる。
影を伸ばし、他の影と合わせることでその場所を自分の視界に変えてみることができる。
あまり多くやりすぎると見えすぎてパニックになってしまうから注意が必要だが。
「!!地下!!?早く案内しなさい!!!」
誰よりも食いついてきたのはセノンだった。
かつて魔導国家と呼ばれたアルフェンの地下、いったい何が眠っているのか、ワクワクが止まらない様子だった。
王宮に向かって歩く一行。
もと、謁見の間であったであろう部屋の中央の床に奇妙なくぼみがあった。
「ここか?」
「あぁ、俺の影で見えるのはこの下が階段になっるってぇだけだ。深すぎて細部まではさすがに視えねぇ」
「俺様の斧で叩き割るぞい!!」
ガイダルが戦斧を担ぎ上げた。
「……やめた方が良いわ」
「石づくりの床なぞ木っ端みじんだぞい!!」
「ただの石じゃないわ。魔力コーティングが幾重にもされているわ。このままじゃ斧の方が木っ端みじんよ」
這いつくばって調べていたセノンの言葉に息をのむガイダル。
「ちゃんと正規の解除法を行わないと先には進めないわね」
「解除法はわかるんですか?」
「まだわかんないわ。魔術式を解読していかなきゃならないから……少なく見積もって一か月って所かしら……今回は・・・」
「じゃぁしばらくはここで野営とかしながら待機だな」
今回はあきらめましょうと言おうとしたセノンの言葉を遮ってとどまる決断をしたレオン。
「え? い、いいの??」
「あぁ、なんてたって魔導国家?が残した遺跡なんだろ?なんかすげえ物が眠ってるかもしれんし、女にモテる秘宝なんかもあるかもしれないしな!!」
レオンの返答に大きくため息を吐くセノン。
すっかり癖になってしまった頭を押さえる仕草も一緒に。
そして、野営の準備が始まった。
「まずは当面の食料と寝床だな」
カインの言葉にセノンを除く4人で割り振りを行った。
寝床探しはレオンとエリシア、食料調達の狩りと森の果実採取はガイダルとカインになった。
寝床はすぐに見つかった。
王宮内のとりわけ形が残っている部屋をセノンとエリシアが、かつて食堂であったであろう広間にレオン、カイン、ガイダルの寝床を作成した。
食堂脇のキッチンだったところは竈がまだ使えそうだった。
だいぶ古びていたが、掃除も含めてエリシアと使えるようにした。
5時間ほど経っただろうか。
ようやく、カインとガイダルが狩りから戻ってきた。
「おう、遅かったな。そんなに苦労したのか?」
両手と背負い籠に大量の食べ物を持ち帰って二人にレオンが声を掛けた。
「そうかぁ?そんなかかってねぇと思うが...?なぁ、ガイダルの旦那?」
「そうだな。森に入ってすぐ獲物も大量だったぞ」
カインに同調するガイダルにレオンが不思議な顔をした。
「まぁいいか。寝床とキッチンは使えるようにしといたぜ」
「おぅ!そんじゃぁうめぇ飯でも作るか!」
カインはこれまで、野営が多かったこともあり、こうした状況での料理がうまかった。
レオンもそれなりにできるが得意ではないし、ガイダルは問題外。
エリシアとセノンは・・・まぁ箱入りと研究漬けだった事だけを伝えておこう。
生きる上で必要なことは衣食住ではあるが、それよりも命を保つために必要なものは水だ。
普通の冒険者パーティーでは水の確保ができない段階で死地に向かうも同然だ。
正直、ガイダルは何度もそういった経験がある。
しかしこのパーティではその心配はなかった。
水を出せる魔導士がいたからだ。
天才魔導士のセノンの他に、多少の魔術を学んだエリシアがいるのだ。
この二人がいることで廃墟での滞在も問題なく実施ができた。
そんなセノンはあるものを作ることにした。
「おい、こんな感じでいいか?」
レオンとガイダルは汗をかきながら、セノンの頼みでとりわけ堅めの地盤に穴を掘っていた。
深さはそれほどない。
広さはそこそこある。
2メートル四方の広さで60㎝ほどの深さで掘っていた。
「えぇ、いいわね!ありがと」
「こっちもできたぜぇ」
カインが町中から残った大きめの布を集め縫い合わせ、大きな半開きのような天蓋に被せた物を持ってきた。
「なぁ、セノンこれ何に使うんだ?地下に行くのに必要なのか?」
「当り前じゃない!煮詰まっても効率が落ちるだけよ。お風呂でちゃんとリフレッシュしなきゃ」
「「「!!!?」」」
≪大気に集う水の精霊たちよ、我が声を聞き力を与えたまえ。清浄の気より水を作り我が力とせん。 ウォーターボール≫
セノンの右手の先からたくさんの水があふれて、掘った穴を満たした。
「さ、もう一つ」
≪たぎる力の化身、炎の精霊たちよ、我が声に応え力を与えん。彼の敵を打ち滅ぼす槍とならん。 ファイヤーボール≫
貯めた水に向かってファイヤーボールを放った。
水が温まったところでファイヤーボールの魔力を遮断する。
「できたわ!!さぁさぁ、男子は出て行った出て行った!!」
ウキウキとエリシアのもとへ向かうセノン。
「ふ・・・風呂だ・・・」
「風呂だぞい」
「あぁ、風呂だ」
レオン、ガイダル、カインの言葉だった。
「こんなものの為に穴を掘っとったとはのう・・・」
ぼそっと放ったガイダルの言葉に
「馬鹿者!!! 風呂だぞ! 麗しき女性たちが!キャッキャうふふと素敵な時間を過ごす風呂だぞ!! 素晴らしいじゃないか!!!」
レオンの目の血走りが尋常ではなかった。
「ん? おいセノンたちが戻ってくるぜぇ。早く出ねぇと殺されるぞ?」
「・・・なぁカイン・・・お前も男だよな・・・?」
「いや、俺はまだ死ぬつもりはねぇぞ?」
「ともに大人の階段を・・・!!」
しがみつくレオンに逃げ腰のカイン。
「なんぞ、覗きか? 華奢な女子の裸を見て何が楽しいというのか・・・」
ドワーフと巨人族のハーフであるガイダルとは女性の好みが違うようだ。
「俺もまだ命が惜しぃんでな・・・ま、死なねぇようにな」
カサカサと外壁を這う黒い影が一つ。
湯気が立ち上る浴室では、
「いいですね~」とか
「いい気持ちだわ」とか
「エリシアって着やせするのね」とか
「セノンには負けます」とか
妄想が膨らむ声が聞こえてくる。
「これだけボロボロとなった遺跡なのに、この部屋だけなんで穴1つねぇんだ・・・」
レオンはイモリのように壁を這って登っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・もぅ・・少し!」
ようやく見つけた穴。
天井裏から湯気が抜けていた。
何とか壁を登り切ったレオン。
いざ、天国へ・・・手をかけた石壁が少し崩れた。
そして、レオンの体重に耐え切れない壁が崩落した。
ガラガラガラ!!
「「え!!?」」
手で胸元を隠していたエリシアとセノン。
二人の露わとなった白い肌が・・・
「~~~~~~!!!?」
どんどん赤く紅潮していく。
「この・・・変態!!バカ勇者ーーーーー!!!」
現代魔術の最高攻撃魔法、光の力を収束させた≪レイ≫が幾重も放たれた。
天国は地獄絵図に変わっていった。
そして、セノンは無詠唱魔法を体得したのだった。
そんな日常にカインは
「まったく・・・よく飽きねぇもんだぜ」
と鼻歌を歌い。
「おお!レオンが飛んだぞい!!派手じゃのう」
と変な関心をしていた。
そしてエリシアは……熱い顔を押さえながら、自分の心が分からなかった。
男性に裸体を見られた恥ずかしがあるはずなのに嫌ではない気がしたのだった。
壮絶な鬼ごっこは朝方まで続いた。セノンはいつの間にか服を着ていた。




