第8話 魔導国家アルフェン
第二章 〜邂逅〜
100年前……魔導国家アルフェン
魔導国家アルフェンの王宮、最奥の部屋で魔王城攻略の会議が開かれていた。
魔王の侵略が始まって、すでに400年。
人々の生活は困窮していた。
富める者はさらに富み、持たぬ者はただ怯える。
魔物と魔族が跋扈するこの世界で、“力なき者”に安息はなかった。
魔王に対しては疑問の声も多いが、追求するほどの余裕はなかった。
疑問…それは、何故支配しないのか、侵略、破壊、蹂躙する魔物たち。
あれほどの力と統率があるにも関わらす、徒らに破壊を行うのみ。
すべてを飲み込み、支配することは無い。
かつて、魔王の軍門に下る決意をした国があった。
魔王は受け入れなかった。
破壊の限りを尽くし、すべてを奪い、国そのものがなくなったのだ。
その時の魔王の言葉が記録として残っている。
『服従は認めぬ!貴様ら人間に許された選択肢は抵抗か死だ!精々藻掻いてみせろ!』
魔王は人が苦しむ時の表情•声が好きなのだと人々は結論付けた。
消して終わらない蹂躙に苦痛のみが残った。
魔王に対する憎悪が世界を包んだ。
しかし……人々は疲弊していった。
決して勝てぬ強大な敵に、戦う気力を失いかけていた。
そんな折、魔王の居城へ入る為の時空の扉を見つけた者がいた。
これまで神出鬼没で攻めることもできなかったが、僅かな希望が見えたのだった。
魔王討伐に向けて準備が進められていた。
それがここ、魔導国家アルフェンであった。
王宮近衛騎士100名、腕利きの戦士を400名、戦闘魔道士を300名、補助魔道士を50名、回復魔道士を50名、ギルド登録の冒険者を2000名と総勢3000名からなる大軍団を作り上げようとしていた。
ガシャガシャガシャッ!!
バタァン!!
鎧を擦らせながらバタバタと走ってくる音が響き、会議室の扉が勢い任せに開けられた。
「恐れながら申し上げます!!
魔王軍が攻めてきました!!
魔獣と魔族を魔人が引き連れ、侵攻しております!
その数……凡そ30000!!」
「なんだと!!!」
「こちらの十倍の戦力とは…王よ…いかがいたしますか?」
「……放棄せざるを得まい……何とか民が逃げ果せる時を……して、進軍はどの程度進んでおるのだ?」
「そ、それが……」
「なんだ?はっきり言わぬか」
「……既に国境を越えております……明朝にはアルフェンに到着するものと思われます」
「「「!!!!?」」」
「どういうことだ!? 斥候隊を派遣し、魔法通話水晶を持たせたはずだ!魔王城への入り口はここから20日はかかるにも関わらず、三万もの軍勢を見逃していたというのか!!?」
「斥候隊からは「急に現れた」と、その通信を持って連絡がつきません…おそらく……」
バタァン!!
「恐れながら申し上げます!」
もう一人の騎士が慌てて入室してきた。
「今度はなんだ!」
「魔王軍を率いている者がわかりました!魔王軍四天王が一人、烈火の支配者であるとの事!それから…魔王城へ続く異界の扉が消失しました!」
すべてが最悪の方向へと物事が進んでいく。
20日あると踏んでいた避難も明朝までの10数時間、軍を率いているのは魔王軍でも破壊の権化と称される烈火の支配者。
更に、せっかく見つけた異界の扉も閉じてしまった。
この先に見えるのは、すべてが蹂躙され、破壊尽くされる未来のみだった。
一帯は静寂に包まれた。しばらくしてアルフェン王が口を開いた。
「女、子供を優先に避難をさせよ。できるだけ多くの命を繋ぐのだ。異界の扉は消失したが、記録を残し、隠すのだ。」
「王はいかがなさるおつもりか?」
「避難勧告と、軍の陣頭指揮に入る。少なからず皆の士気も上がるであろう」
「なりません!王が居なくなれば国は滅びます!」
「民失くしてなんの王か!!……良いか、国は王ではない…民なのだ、民あってこその国であり、王なのだ。民を守ることが王の務めなり!」
アルフェン王は良き王であった。
民を守り、民の為に尽くした。
魔導の繁栄、研究に財力を投じ、どの国よりも繁栄を極めていた。
「さぁ!!燃やし尽くせ!! 壊しまくって殺しまくれ!!! わーはっはっはっは!!」
烈火の支配者から放たれる火炎が国を飲み込み、人を、建物をもやし、破壊の限りを尽くしていく。
白く澄んだ国は真っ赤に燃える紅色に変え、黒い廃墟と姿を変えていった。
こうして、魔王軍の進行によりたった1日で地図からその名を消した。未曾有の魔物たちが街を飲み込み、人一人居ない廃墟となったのだった。
――
そして100年後の現在……
「くぉんの! 変態バカ勇者ぁーー!!!」
パコーーーン!
甲高い音が鳴り響いた。
セノンの振りぬいた杖がレオンの頭をミートしたのだ。
熟練剣士でも目を剥くほどの振り抜きだった。
「いってぇぇええぇぇえ!!なにすんだセノン!」
ここはコルダンと言う小さな街である。
魔王の足跡の手がかりを探すため、かつて魔王が攻めた町や遺跡を調べて回っているレオン一行は、次の目的地であるアルフェン遺跡に向かう前に最寄りの町で装備や道具の買い出しを行っていた。
「なにすんだ!じゃないわよ!女性を見るや誰彼構わずナンパしてんじゃないわよ!!」
「むっ!! 心外だな、誰彼構わずじゃないぞ! 美人に声をかけているんだ!!」
パコーーーン
本日二度目のバット杖が火を吹いた。
「そういうことを言ってるんじゃないわよ! 勇者の品位を下げる行動をするなって言いたいのよ!!大体、あの人には旦那と子供がいるじゃない!!節操がないにもほどがあるわ!」
「ははは、愛にそれくらいの壁は付き物だよ」
いい顔で言ってのけるレオン。
ニカッと笑った口から歯がキラリと光ったような気がした。
ブルブルと震える手で握った杖を再び大きく振り上げて……
パコーーーん!!
3度目が響いた。
「あいつら飽きねぇなぁ」
「楽しそうで何よりですわ」
「……」
ニヤニヤとしながら掛け合いを見ていたカインにエリシアが同調する。
エリシアには芯の通ったレオンの心の色と素を出す事ができるセノンの安心感の色が見れていて、危険な旅の中で居心地の良さを感じていた。
「ガイダルの旦那どうしたんだ?」
レオンの事をジッと見つめるガイダルに不思議な顔を向けるカイン。
「うむ…アヤツの夢というか野望についてな…ハーレムをとか言っておったが、声をかけるのは手の届かぬ夫婦やアヤツの行動に嫌悪する者ばかりだと思ってのう。先日の助けた女子からは逃げるように隠れとったしのう……最初から“手に入らぬ相手”しか選んでおらん様に思えてのう」
先日、村の外れで木の実を取っていた娘が魔物に襲われていた。
通り掛かった勇者一行は魔物退治をしたのだが、颯爽と表れ、魔物を退治して自分を助けてくれた勇者。
しかも顔が整っている男前に娘は恋をした。
年の頃は15、6歳で村一番の美人と名高い娘であった。
普段のレオンならば「嫁ゲット!」と大喜びしそうなシチュエーションで、滞在中に娘が訪問してくると姿を消すのだった。
「ーーーあぁ、それなら……」
「年上が好みとかか??」
「そうかもしれんな!!」
「「わはははは!!」」
何かを言おうとしたエリシアの言葉は笑い声に消されていった。
エリシアは知っていたのだ。
女好きでハーレムを作ることが夢であっても、無責任な事をしない男であることを。
旅のはじめの頃はもう少し、たくさんの女性に声をかけていた。
それも気が強そうな魔術師に軽率な感じで。当然、魔術師たちは魔術でレオンを追い払っていた。
歴戦の美人女戦士には投げられ、剣を突き立てられた。
町娘に踏みつけられ罵られることもあった。
その行動で、よりセノンには嫌味を言われていたが…
旅を続ける中で、魔物や魔獣と戦い力をつけてきたレオンは、次第に町娘には声をかけなくなっていった。
自分を拒絶できる者にしか声をかけないのだ。
おちゃらけたレオンの信念は、危険な旅で命を落とすかもしれない、守り抜くことのできない契を交わすことをしないと言う思いだった。
エリシアにはそれが見えていた。
だからこそ——
レオンに多大な信頼をおいているのだった。
こうしてレオンと仲間たちの旅は、常に戦いだけでなく、日常のドタバタも交えながら進んでいた。




