第5話 〜戦士ガイダルの挑戦〜
カランカラン
冒険者ギルドの扉が開く音がギルド内に響いた。
入り口からレオン一行は中を見渡した。
冒険者が集まる所だけあって、荒くれ者たちの怒号と酒の匂いが満ちる空間だった。
そんな中、エリシアだけがツカツカと歩を進め、受付の女性がいるカウンターへ向かっていった。
「私たちは勇者レオン様の一行です。今後の魔王討伐の旅に向けてギルド会員の登録と、用心棒の依頼をお願いしたいのです」
「ちょ、ちょっとエリシア!!」
純真とはこういうことなのだろうか。
なんでも素直に屈託なく話をするエリシアにため息をつく一同。
聖剣の勇者の信託はすべての町で広まっている。
しかし、聖剣が抜かれたのは今朝だ。
昼過ぎのこの時間に勇者の人相が広まっているわけがないし、聖剣が抜かれた事実を知るものも少なかった。
「は、はぁ」
唖然となる一同。
カランカラン!
先ほど聞いたドアベルがまた鳴った。
「すまないがギルド便を頼む!」
急いで入ってきたのは王宮近衛騎士筆頭のギルサンダーだ。
先程、王宮でも見かけた気がした。
ギルサンダーはそのままもう一つの受付に向かってきた。
「国王様からの書簡だ。ギルドマスターから、すべてのギルドへ通達を頼む。聖剣の勇者が現れた。魔王討伐に出立されるはずだ。ギルドのサポートを頼みたい」
タイミングが良すぎる来客に、更に唖然となるギルド内。
「ん? おぉ、勇者殿。 もう出立されるのですかな。ご武運を。巫女様、何卒ご無理をなさらぬよう」
深々と頭を下げるギルサンダー。
「では、頼んだぞ」
書簡を託し、颯爽と出て行った。
大量に書簡を運んでいたようで、まだまだ行くところが多いようだ。
「ほ、本物の勇者だ・・・」
誰のつぶやきか、静寂を切り裂いたようにギルド内が大騒ぎとなった。
「あ、あんた勇者だったのか??」
カインが狼狽えながら指をさす。
「あれ? 言ってなかったか?」
「それなのにハーレムだの、金持ちだの言ってたのか?」
「おぅ!! 魔王ぶっ倒したら、もうモテモテだろ! 金だってがっぽがっぽだろうしな! 俺の夢は楽して好き勝手生きながら女に囲まれていたいんだ!!」
「いや、面白そうだってついてきたけどよ、勇者がそんな俗物でいいのか?」
「いいんだよ。 世界のため~とか、すべての命が~とか実際目に見えない物のためより、目に見えるものとか、自分のための方が頑張れるだろ?」
「はぁ、またそんなことを・・・」
セノンが頭に手をやり大きくため息を吐いた。
「「「「ぷっ・・・わーーはっはっはっは!!」」」」
ギルドは突然笑いに包まれた。
「あんたいいな!! そこまでハッキリしてるとこっちも気持ちがいいぜ!!」
顔に傷がある屈強な男がレオンの背中をたたきながら話しかけてきた。
「うふふ、とてもいい色ですわ。」
喧噪の中、エリシアの声はかき消えていた。
「用心棒を探してるんだよな?わしが引き受けてもいいぞい!」
「え?ほ、ほんとか?」
「あぁ、わしはこの城下最強の戦士じゃい。名はガイダル」
「お、おう!よろしくな!」
「ただし!」
「え?」
「あんたがわしに勝てたらな! 勇者様よ」
ーーー
場所が変わって、ギルド裏手の訓練場。
観客はギルド員から町人まで雪崩れ込み、物見高い群衆で埋め尽くされていた。
「勇者様と城下最強の男が戦うんだってよ!」
「どっちが勝つか賭けるか?」
酒と掛け声で、試合前から祭りのような空気だ。
その中央に立つのは、身の丈二メートルを超す大男。
その立ち姿だけで、周囲の空気が一段重くなる。
分厚い胸板、丸太のような腕。背には人間を半分に叩き割れそうな戦斧を担いでいる。
――城下最強の男、ガイダル。
対してレオン。
白いシャツに胸当て、緊張で手汗がべっとり。
握った聖剣がすべり落ちそうで必死に持ち直す。
「……おいおい、ほんとにやるのか?冗談でしょ?」
観客席から失笑が漏れる。
ガイダルは鼻で笑った。
「勇者の実力がどんなもんか試させてもらうぞ――その聖剣とやらの力も見せてくれ!」
「いやいやいや!体格差ありすぎだろ!」
レオンは即座に両手を振った。
「むしろ俺は“平和的解決”を希望してる!ね?ビールでも奢るから――」
「さあ!行くぞぉ!!」
ゴウン、と地面が震えるほどの音を立て、戦斧が振り下ろされた。
「ひぃぃぃぃ!!」
レオンは転がるように避け、砂埃にまみれる。
観客席から爆笑が巻き起こる。
「勇者様、土下座で必殺回避!」
「かっこわりぃ!」
「くそっ、笑ってんじゃねぇ!俺だって好きで転がってんじゃねぇぞ!」
砂を吐きながら立ち上がった瞬間、再び戦斧が唸りを上げる。
横薙ぎ。
何とか体を低くして躱し、距離を取るために広場の反対側へ走る。
「逃げてては勝てんぞぉ!!」
「うるせー! 戦略的撤退だ!!」(マジでやべぇぞ)
「ムン!」
ガイダルの強い踏み込みで広がった距離を一気に詰められる。
「なっ!!? そんなの反則だろ!!」
振りかぶった斧が大きな空気を切り裂く音と共に振り下ろされる。
咄嗟に前へ構えた聖剣で受けるもガイダルのパワーに吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がっていく。
壁にぶつかりようやく止まったかと思うと、目の前に巨大な盾が迫って来る。
視界を塞いでいた盾が引かれると、斧を振り下ろすガイダルの姿が見えた。
「や、やば……これ死ぬやつだ……!」
体は動かせないのに、振り下ろされる斧はとてもゆっくりに見えた。
そのときだった。
――声が聞こえた。
(怯えるな。剣を握れ。お前は選ばれし者だ)
「えっ!?誰!?どこから!?」
何故か周りを見渡す余裕があった。見上げると、ガイダルは止まっていた。
いや、時間が止まったように全てが動かない。
自分だけが時間の流れから取り残されたようだった。
いや、違う。自分以外にも動いている人がいた。
紺のコートに、甲冑を着けた騎士。細身だが体つきはしっかりしている。銀色の長髪を襟で纏めている、威厳たっぷりのオッサンだった。
男はレオンを見下ろし、わずかに目を細めた。
そして小さく一言。
「戦い方を教えてやる」
そう言ってレオンに手をかざした。
次の瞬間、レオンの意識が暗転した。
――気づけば大きな湖の真ん中にいた。
波紋一つない湖の上、水は掬えるのに沈むことがない。
不思議な世界に立っていた。
目の前には、先程の騎士が佇んでいた。




