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第4話 〜セノンの憂鬱〜

こんなはずじゃなかった。

宮廷魔道士のセノンは思った。


「……はぁ…」


小さくため息を吐くセノンの前方には女性に声をかけまくるレオン。


彼女の悩みは勇者に認定されたこの男だった。


ーーーー

2時間前


歓喜に湧く王宮。

勇者が現れたのだ。


謁見の間にて王と対峙するレオン。

聖剣を抜く時の快活さはない。


「…勇者レオンよ」

「は、はいぃ!」


緊張から変な声が出る。


「この500年、抜けることのなかった聖剣をよくぞ抜いた。ここにお主を聖剣の勇者と認め、魔王討伐の任を与える」


王からの言葉に全身から汗があふれる。

剣で戦ったことすらないのだ。

こんなド素人に何を求めているのか、酔狂だと言わざるを得ない。


「………はい…」


しかし、レオンはそう答えるしかない。

王に逆らえば命すらない可能性もあるのだから。


「今のままでは心許なかろう。十分な装備を整えるために金貨を与える」


その言葉に、王の側仕えが布袋を持ってきた。

ずっしりとした重み。

おそらく実家の商店で10年稼ぐのと同じくらい。


「そして、王宮から一人、魔道士を同行させよう。セノンよ」


「はい」


セノンと呼ばれた女性。

さらりとした白銀の髪が靡く。

隙間から見える尖った耳からエルフである事が分かる。

黒を基調としたタイトなワンピース。

切れ長の目から覗く琥珀色の瞳が美しさを際立たせていた。


「お姉さん、星を眺めながら僕と将来について語り合いませんか」


考える前に体が動いていた。

セノンの手を取り、瞳を見つめる。


「…は?」


しばしの沈黙。


「うっおほん! そしてもう一人」


王は見なかった事にした。


「本人の希望もあった。聖剣の巫女、エリシアも同行させよう」


エリシアがセノンの横に立つ。


「よろしくお願いします」


「結婚してください」


片膝をついたレオンがエリシアに手を伸ばしていた。


「まぁ、ご冗談を。フフフ」


笑顔でいなされていた。


ーーーーーー


そして今。


「何でこんな軽薄な男が勇者なのよ…はぁ」


セノンはまたため息を吐きながら、町の女性に声をかけまくるレオンに苛立ちを覚えていった。


何はともあれ、旅をするのであれば冒険者ギルドで登録すると何かと都合が良い為に、3人はギルドを目指していた。

その最中、美人と見れば声をかけまくっているレオンであった。


「アンタも良くあんなのに同行しようと思ったわね」


セノンが横を歩くエリシアに問いかける。


「あの方は誠実ですよ。あの行動も人を明るくしたいだけ……そういう色です。」


「色??」


セノンは意味深そうな言葉に首を傾げた。


「あぁ〜麗しいお姉様!あなたの下僕にしてください〜」


「誠実?……あれが?」


顔を引きつらせながらセノンが言う。


「………たぶん……」


二人が話している間にもレオンは様々な女性に声をかけていた。


「あぁ!もう!いいかげんにしろ!!この『変態勇者』!!」


セノンのケリが腰に命中し崩れ落ちるレオン。


「いってぇなぁ…変態勇者はねぇだろ。レオンって呼んでくれよ」


「アンタなんか『変態勇者』で十分だわ!」


二人の言い争いをエリシアは


『仲がいいことは素晴らしいです』


と手を叩きながら笑っていた。


ドンとレオンの背中に何かがぶつかる。


『おっと、ごめんよ…』


フードを被り、左目を眼帯で隠した男が過ぎ去っていく。


金貨の入った皮袋を持って。


ふと、腰付近に違和感があった。


「あっ!!? 腰袋がない! スラれた!!」


「え!!? なんで??」


「さっきの男性ですね・・・」


「すぐ追いかけないと!!」


ワタワタとしているレオンとセノンを横目に静かに去った男を凝視しているエリシア。


「勇者様、左の路地に入ってすぐを右に曲がって走ってください」


「え??」


「挟み撃ちにします」


「お、おぅ」


レオンはエリシアに言われた通りに路地を進んでいった。

エリシアとセノンはまっすぐに走って犯人を追った。


「もう見えないわ・・・」


「こっちです。 行きますよ」


数百メートル進んだところで、エリシアはセノンの手を引き左の路地に入った。


すぐの角を左に曲がると、フードの男と対峙しているレオンと遭遇した。


「え? なんで?? なんでわかったの??」


セノンの疑問を横目に、こちらに向かってきたフードの男。女性の方が突破しやすいと考えたのだろう。


「残念です。 もう術式は出来上がっていますよ」


フードの男の足元に青い魔方陣が浮かび上がる。


魔方陣の中から魔力の鎖が伸びあがり男をからめとっていく。


「私、補助魔法と神聖魔法が得意なんです」


にっこりと笑うエリシア。


「お金を奪った後に、全力で走り、見えなくなったところで裏路地から初めの地点に戻る・・・よい計画でしたね」


「なんで分かった………」


「あなたはとても正直ですね。 色が澄んでいます」


「色?」


エリシアが話しているとレオンが走り寄ってきた。


「ふぅ、返してもらうぜ」


レオンは男が握っていた腰袋を取り返し、男のフードを剥ぎ取った。


褐色の肌に灰色の瞳が印象的だった。


「この魔力・・・あなたハーフエルフね!!」


セノンが顔をしかめて言った。


捕らえられた彼の名はカイン。


人間からもエルフからも迫害され、荒んだ暮らしの末にスリへ手を染めていたのだった。


鎖に絡め取られたフードの男カインは、鋭い灰色の瞳でこちらを睨みつけていた。


褐色の肌、精悍な顔立ち。だがその奥には、敵意と共に深い諦めが漂っている。


「……ふん、殺せ…俺を人間の町に渡しても、石を投げられて終わりだ」


吐き捨てるような言葉に、セノンは眉をひそめた。


「……やっぱり、厄介ね。ハーフエルフは…」


その声は冷たく、警戒と嫌悪を隠そうとしない。


「おい!」


「……ハーフエルフは厄災をもたらすのよ…エルフの掟なのよ…」


レオンが慌てて口を挟むが、セノンの一言には重みがあった。


しかし、彼も盗まれた腰袋を抱きしめながら、どうしたらいいのか分からない様子だ。


そんな中、エリシアが一歩前に進み、鎖に縛られた青年をじっと見つめた。


「……色は濁っていません」


「?……なんのことだ?」


「あなたの心は傷ついていて、憎しみで覆われている。けれど――その奥は澄んでいます。

本当は、誰かを傷つけたいわけじゃないでしょう?」


カインの肩がわずかに揺れる。


「……やめろ」


「事実です。あなたは盗みをした。けれど、それは生き延びるため。絶望の中でも、まだ――人を斬ることは選んでいない」


セノンが鋭く言い放つ。


「甘いわ!そうやって見逃したら、また同じことを繰り返すわよ!」


エリシアは首を振る。


「違います。彼は、もう繰り返しません」


二人の視線が火花を散らす。


沈黙を破ったのは、レオンだった。


「……だったら、俺たちが見張りゃいいじゃねぇか」


「ちょっ!? 何言ってんのよ変態勇者!」


セノンが声を上げる。


「確かに盗まれたのは腹立つ。でも、こいつ……なんか放っとけねぇんだよ。だったら仲間にして、俺らと一緒に冒険してさ――」


ニヤリと笑って、胸を張る。


「俺の“ハーレムと大金持ち”の夢を手伝え!」


一瞬の間。


カインはぽかんとした顔をしてから、吹き出すように笑った。


「……くだらねぇ……でも、なんか本気っぽいな、お前。……しょうがねえ…着いてってやるよ」


その笑みは、ほんの少しだけ救われた者の顔だった。


エリシアが穏やかに頷く。


セノンは額に手を当て、深いため息をつく。


「はぁ……あんたたち……私は反対よ!!でもまぁ、”変態勇者様”の考えに従うしかないわね。でも、私が必ず監視するから!変な真似したら即、まる焦げにしてやるわ!」


こうして、四人目の仲間として、ハーフエルフのカインが勇者一行に加わったのだった。


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