第3話 〜勇者は女好き!?〜
ルーメリア大陸はかつて、光に満ちていた。
王国は栄え、人々は神々に感謝を捧げながら穏やかに暮らしていた。
だが、その繁栄は永遠ではなかった。
突如として現れた〈魔王〉が世界を蹂躙したのである。
その力は大陸の理をも歪め、城を焼き、森を枯らし、海を黒く濁らせた。
国は滅び、街は廃墟と化し、世界は衰退の闇へと沈んでいった。
―それから、500年。
人々はもはや過去の栄華を知らない。
彼らが語り継ぐのは、ただ「魔王への恐怖」と「勇者の伝説」のみ。
「また、1つ国が消えた…」
「魔王討伐に軍力を集めれば、魔物の群れがすべてを飲み込んでしまう…」
アルディア王国、王宮内の一室に近隣諸国の王たちが集まっていた。ひと月前に魔王討伐を試みて、ひそかに軍事力を集結していたカンヌ王国が、魔王軍の侵攻により、世界地図から姿を消したのだった。
「大きな街は焼かれ、人々は散り散りとなる…」
「町も国も大きくならん…このままでは人が生きられぬ魔界となってしまうぞ」
「頼みの綱は、神話で語られる勇者のみか…」
「世界が終焉を迎える時、光と闇、二柱の神に選ばれし〈勇者〉が現れん。
その手に握る〈聖剣〉こそ、魔王を討ち滅ぼす唯一の光なり。そして、世界は託される。」
「少なくともこの500年で勇者の神託は無いぞ。」
「……今は神に祈るしかないのかのぅ……」
アルディア国王の一言に一帯が静寂に包まれた。
誰もその真実を知らぬ。
勇者の伝説は神話の残響か、それとも未来への約束か。
ただ人々は祈る――
再び〈神に選ばれし者〉が現れ、この終わらぬ闇を断ち切ることを。
ーーーーーー
そして今
王の前に立つ少年は、どこにでもいる村の若者にしか見えなかった。
到底、騎士や勇者と認識される背格好ではない。
(こんな少年に世界を託せというのか?)
疑惑の目が向けられる。
「……神託が下ったのじゃ。翠色の双眼を持つ者、レオンが勇者であると」
「……え?」
なんの説明もないままに王宮へ連れてこられたレオンは寝耳に水であった。
誰もが疑念を持った。
これまで誰も引き抜くことができなかった聖剣。選ばれるのは屈強な戦士のような者だと考えていた。
それが16、7の少年。
コレなら王宮騎士団の末席のほうが強いだろう。
「あ、あの…どういう…、」
「聖剣の試練に行くが良い。話はそれからじゃ」
そして聖堂まで連れて行かれたのだった。
ーーーーーーー
レオンは硬直していた。
目が覚めるような美少女が立っていた。
薄く緑掛かった白い巫女服。
晴天のような碧眼とエメラルドのように澄んだ翠眼の虹彩異色。
「お待ちしていました」
巫女服の少女ーーーエリシアである。
「こちらへ」
エリシアの声に、我を忘れていたレオンは慌ててついていく。
「…この聖剣をお抜きください。そうすれば貴方は勇者として聖剣に認められるでしょう」
聖剣の前に跪くエリシア。
(俺が勇者だって?ありえないぞ………ちょっと待てよ?勇者になれたらこの子とお近づきになれるんじゃないか?)
一つ可能性に気づくとレオンの欲望は膨れ上がっていく。
(聖剣で魔王倒したら人生バラ色の贅沢し放題??
女の子も選び放題でハーレムも夢じゃないよな??
誰からも崇拝されて、俺の国だって作れるんじゃね??)
「ぐフフフ・・・・ムフフフフ・・」
「?? いかがされましたか?」
周囲から奇異の目を向けられるレオン。
(おっと、つい声が漏れてたみたいだ・・・俄然やる気が出てきた!!)
「い、いや、なんでも」
剣の柄に埋まった翠の宝珠が光を放っているようにも見えた。
「や、やってやるぜ!」
固唾を飲み込む音が聖堂に響く。
おそるおそる柄に手を伸ばし、右手で柄を握りしめた。
聖剣の刀身と柄の宝玉が力強く光り輝く。
光が収まる。
レオンが意を決し、右手に力を篭めた。
見た目の重厚さが嘘のように軽く、音もなく聖剣が台座から抜けた。
「本当かよ・・・」
引き抜いた本人が一番驚き、声も出ない。
高々と持ち上げた聖剣はまるで自分の体の一部であるかのようだった。
エリシアは深く目を瞑り、片膝を付き両手を胸の前で組んだ。
「主よ…長きに渡る荒廃した世界に新たな光をお与えいただき、感謝いたします。我らの前に新たな勇者が現れました。魔王を挫き、人々へ希望を与えてくださいますように…」
エリシアの祈りが静寂した聖堂に動きを与えた。
「…勇者だ…」
「……勇者が現れた……」
「「「うおおおーーー!!」」」
聖剣を抜く試練を目の当たりにした司祭や騎士たちはこの歴史的瞬間に気分が高揚していた。まさに奇跡に立ち会ったのだ。
「お、俺に任せな!さっさと魔王を倒して、ハーレム生活を送るぜ!!」
「「「「え?」」」」
「ん? あれ? なんかまちがった? 俺?」
聖堂は再度、静寂に包まれた。
剣が抜けた驚きで呆けていたレオンは、周りのボルテージの上がり具合に当てられ、つい先程思い描いた欲望を口にしてしまった。
「……俗物勇者だ……」
誰の言葉だったかはわからない。
囁かれた言葉に一帯はザワついた。
レオンは後頭部から背中にかけて嫌な冷や汗をかくことになったのだった。
その時、エリシアにはレオンが持つ本質、心の色が見えていた。
澄んだ晴天のような色は純粋さを表していた。
「…この方は……きっと面白い勇者様ですね」
エリシアの笑みが溢れるのだった。




