第2話 ~神託の巫女 エリシア~
「もうすぐ雨が降りますね」
先程まで晴れ渡った空に、ぽつりと雨が落ちた。
神の声を聞くことのできる少女——エリシア。
彼女は幼い頃から教会で育てられた。
誰にも望まれず、この世界に置き去りにされた存在——のはずだった。
ある日、教会の門の前に置かれていた籠。
その中で泣いていた赤子がエリシアだった。
幼い頃から不思議なことが多かった。
彼女が語ったことは、必ず現実になる。
やがて彼女の言葉は、
地震や火事といった災厄までも言い当てるようになった。
神の声が聞こえると分かったのは、
彼女が十歳になる頃だった。
大人たちは誰も疑わなかった。
これまでの出来事もあったが、
もう一つ理由があった。
エリシアの瞳。
澄んだアクアマリンのような碧。
新緑のエメラルドのような翠。
左右で色の違う虹彩異色の瞳。
それは、かつて魔王を討ち滅ぼした勇者の伝説に記された
「神に愛された瞳」と同じだった。
十三歳になる頃には、
彼女は魔王を打ち倒す唯一の武器——聖剣の巫女として、多くの民から崇められていた。
そして、この日。
聖剣にはめ込まれた翠色の宝石が淡く光輝いていた。
「勇者の神託か?」
神官たちにざわつきが広がる。
白い石柱の立ち並ぶ聖堂で、ステンドグラスから差し込む虹色の光が中央に祀られた聖剣を照らす。
その前でエリシアが膝をつく。
両手を組んで深く目を瞑る。
その瞬間、頭の中に声が響く。
『時は満ちた——勇者を迎えよ』
高く、それでいて落ち着いた女性の声。
女神ルミナスの神託であった。
『この世に生きる全てのものに平穏と安らぎを』
聖剣を照らす光が強くなる。
『かの地は西端…翠の双眼を携える少年』
聖堂が光に満ちる。
神官たちはその眩しさに顔を隠すものが多かった。
『ロキのレオンに聖剣を』
光が収まり視界が広がる。
「……神託が下りました。」
「「おぉ!!」」
ザワつく聖堂。
「勇者が現れます……西端の町ロキ。
翠色の瞳を持つ少年……名は、レオン」
その情報はすぐ王宮に届けられた。
王は静かに目を瞑った。
「…勇者の神託か」
「直ぐに兵を向かわせるのだ!!」
歴史は——慌ただしく動き出した。




