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第10話 〜地下への扉〜

嬉しさと恥ずかしさの日々を過ごしながら、王宮での調査を始めて20日ほどが経った。


「・・・できたわ!!」


床や壁、至る所に魔術式や魔方陣が描かれている。


「セノン!解読できたのか!??」


≪私は、覗きをしました≫という首掛け看板を下げたレオンが近づいてきた。


その声にほかの面々もセノンのもとへ寄ってきた。


「えぇ! あっ!そこは踏まないでよ!」


魔方陣が描かれた場所を指さすセノン。


「地下室の開放に必要な王宮全体の魔法術式が崩壊とともに無くなっていたから、ほとんどオリジナルになっちゃったけど・・・これで開くはずよ」


よく見ると、床と壁に80を超える魔方陣が連なっている。


「まずこの、魔方陣が第一層結界を開いて、これがその状態を維持するわ!何個もトラップが仕掛けられているから八層から繰り上げ開放しなきゃいけないのが厄介だけど、それはあの壁が全体の魔力補充を行いながら成立してくれるわ!でも、このままじゃ21層で崩壊が始まっちゃうからこの魔術式で維持するってわけ!あとは・・・」


「セノン!セノン!! え~と、説明してくれるのはうれしいんだけど・・・」


「チンプンカンプンだぞ」


セノンはあたりを見渡した。


自分が作った魔術式の結晶体を細かく説明したかったが、理解できるものは皆無だったのだ。


「え~と、ごめん。つい研究所の感覚で・・・まぁいいわ!早速発動するわよ!」


セノンから表情が消えた。


纏ったローブが風に揺れるように、重さを失ったかのごとくひらめく。


「在りし光よ、我が掌に来たりて窓となれ――」


──第一鍵。


青白い糸が床を這い、魔方陣に触れるたび「チリリ」と硝子の割れる音が響く。

エリシアは祈るようにセノンの様子を見ていた。

「流転する力よ、軸に従い巡れ――」


──第二鍵。


八つの光が連なり、小さな鍵の形を取った。

ゴクリ!

誰の喉の音だったのか…皆が固唾を飲んだ。

「石の息を貸せ、古き者の記憶と共に――」


──第三鍵。


空気が粘りを帯び、圧力に耐えるように震える。


「水の鏡、火の煌めき――」


──第四鍵。


残炭が紅くはね、火と水の調和が結ばれる。


「虚構の鎖を編み直せ――」


──第五鍵。


カインの影が濃く伸び、一瞬周囲が闇に沈む。


「影の縫合、光の裁断――」


──第六鍵。


闇を裂くように光が迸った。


「我が名を以て鍵となれ――」


──第七鍵。


蒼い糸が一斉に輝き、八方の陣を結び付けていく。


「八つの鍵、八方より来たりて一つとなる――時を貫き、戸を裂け!!」


──第八鍵。


セノンの最後の声が響いた瞬間、床の中央に白銀の裂け目が走った。


そこからひんやりとした風が吹き出し、煤けた布と紙の匂い、そして呪いの臭気が混じり合った。


だが、その奥に確かに「入口」が覗いていた。


「一気に開くわ! 皆、離れて! 衝撃に備えてね!」


セノンの額に汗がにじむ。


彼女の声はいつもより鋭く、精密な詠唱が乱れれば崩壊の予兆となる。


レオンはセノンの一歩前へ出ると、肩を震わせながらも一番危険な術者であるセノンの盾となる覚悟を固めた。


「!?? …ふふ、いい度胸じゃない!」


熱を帯びた汗がセノンの額から頬を伝う。


そんな笑みを浮かべた彼女の顔を美しいとレオンは思った。


「はは、世紀の一瞬を特等席で見たいんでね」

ガクガクと震える足を見ながら再びセノンは笑みをこぼした。


「さぁ!!いくわよ!!」


《オクターキー!! 解錠!!》


バキン、ピキピキ…バリーン!!


ドゴォーン!!


複数枚のガラスが割れるような音の後、爆発のような大きな音と衝撃がレオンたちを襲った。


セノンを背にしながら何とか衝撃に耐えたレオン。


土煙が少しずつ晴れてくる。


「レオン様!!セノン!」


ガイダルとカインに守られていたエリシアが二人の元へ走り寄って来た。


少し遅れてガイダルたちも合流した頃にはすっかり土煙はなくなり、地下へ続く階段が現れていた。


「これが……」


「早速行ってみるか!?」


突如として糸がぷつりと切れたように、セノンの身体がぐらりと揺れ、床に崩れ落ちた。


ドサッ


「!??セノン!!」


「......はぁ......はぁ......ふふふ......はぁ...こんな、厳重な封印......初めてよ。おかげで魔力がすっからかんだわ......」


疲れきって指一つ動かすことも困難な様子だった。


「もう、びっくりしました。どこか怪我をしてしまったかと思いました〜」


エリシアが安堵の息をつき、胸を撫で下ろす。


ガイダルは腕を組み直し、低く笑った。


「やれやれ……派手にやってくれたのぅ。だが見事だぞい」


カインは黙ったまま、ほんの少し口元を緩める。


「……さすが、だな」


セノンは顔を逸らし、力なく笑う。


「べ、別に……どうってことないわよ……」


その耳が真っ赤に染まっていることを、誰も口にはしなかった。


動けないセノンを部屋に運び、地下の探索は明日となった。


ーーーーーーー

夜、エリシアはベッドの中で考えていた。


いつも守られてばかりの自分。


今日もそうだった。


勇者を助けたくて旅に同行したハズなのに…自分には何ができているのだろうかと。


「眠れないの?」


隣のベッドから声が聞こえた。


毎日一生懸命に解読を進め、ついに進む道を開いたセノン。


「…セノンはすごいです」


「えっ?な、何よ突然…」


「私は、勇者様のお力になりたくてこの旅に付いてきました。幼い頃からいずれ現れる勇者の助けになるようにと、そう育てられました」


「………」


「でも、私自身に力がなくて、いつも助けられてばかりです。セノンはいつも道を切り開いて、みんなの力になっています……私は…」


「あたしは、好き勝手に生きてるだけよ!ただやりたい様にやってるだけ。誰かの為とか、自己犠牲なんか考えてないわ。それに、エリシアにはエリシアにしかできない事があるわ!」


「私にしかできない事?」


「そうよ。昔から研究のために色々旅をしたけど、こんなに楽しい旅は初めてだわ!エリシアが一緒だからね!!」


屈託なく笑うセノン。


その心の色はとても澄んでいた。


それは嘘偽りない確かな証拠だった。


「私も…セノンと旅ができてとても楽しいです!」


頬を伝う一筋の涙。


その夜は不思議と温かい気持ちに包まれた。


「私にしかできない事……」


エリシアは小さく呟き、目を閉じた。


胸の奥に、まだ名前のない灯がともっていた。


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