第1話 ~勇者は一般人!?~
第1章 ~旅立ち~
世界は幾度も滅びかけた。
——その度に救われている。
世界を滅ぼす存在がある。
——魔王。
そして必ず現れる存在。
——勇者。
それは伝説ではない。
歴史だった。
世界が絶望に沈む時、聖剣に選ばれた勇者が現れる。
そして平和が訪れる。
だが——
その「平和」は長く続かない。
やがてまた魔王が現れ、勇者が現れ、戦いは繰り返される。
誰も疑わなかった。
それが世界の理だと。
だが、ただ一人。
その「理」を知ってしまった男がいた。
かつて勇者だった男。
その名は——ゼノス。
ーーーーーー
玉座の間は静まり返っていた。
王城の奥深く。
魔王城。
巨大な黒い玉座に腰掛ける一人の男。
長い銀髪。
鋭い瞳。
黒い鎧。
だが、その姿は魔物とは程遠い。
むしろ——
騎士のようだった。
男は静かに呟く。
「また勇者が現れたか……」
玉座の間に響く低い声。
「愚かな」
その瞳に宿るのは怒りでも狂気でもない。
深い——悲しみだった。
「この世界は今、“平和”なのだ」
ゆっくりと立ち上がる魔王。
「人は争う」
一歩、歩く。
「人と人が争わぬためには、共通の敵が必要だ」
長いマントが床を擦る。
「私は、”悪”であることで、世界を守っている」
魔王ゼノスは玉座の間の窓から外を見た。
そこには広がる闇の大地。
だが、彼の視線はもっと遠くを見ていた。
人間の世界を。
「勇者よ……」
静かに目を閉じる。
「私を討ちに来たか」
そして、ゆっくりと呟いた。
「愚かだな」
その声には、どこか救いを求めるような響きがあった。
「自ら“平和”を捨てに来るとは」
魔王は知っている。
この戦いの結末を。
勇者は勝つ。
そして魔王は倒される。
だが——
それで終わりではない。
また魔王が生まれる。
また勇者が現れる。
戦いは終わらない。
永遠に。
「……だが」
ゼノスは静かに笑った。
「もし」
「もし、この輪廻を壊す勇者が現れるのなら」
その瞳に、わずかな光が宿る。
「その時は——」
魔王は静かに剣を握った。
「救ってみせろ」
闇の玉座の間に響く声。
「勇者よ」
そして世界は再び動き出す。
ーーーーーー
西の果ての町ロキ。
そこで一人の少年が、今日も怒鳴られていた。
「レオン!!
また女にちょっかい出したのかこのバカ息子!!」
「違ぇよ親父!!」
翠色の瞳をした少年。
商人の息子。
ただの一般人。
だが——
この少年こそが。
世界の運命を変える勇者になることをまだ誰も知らない——
ーーーーーー
白い石柱が立ち並ぶ聖堂。
ステンドグラスから差し込む光が、中央に祀|られた聖剣を照らしている。
その前で、ひとりの少女が静かに祈りを捧げていた。
腰まで伸びた金色の髪。
手を組み、深く目を閉じている。
次の瞬間。
聖剣にはめ込まれたエメラルドが強く発光し、聖堂全体を白く染めた。
眩い光が聖堂を包む。
ざわめく神官たち。
やがて少女はゆっくりと目を開いた。
「……神託が下りました」
美しい声が聖堂に響く。
「勇者が現れます……西端の町ロキ。
翠色の瞳を持つ少年……名は——」
ーーーーーー
西端の町ロキ。
町の片隅で、人だかりができている場所があった。
「そこのお姉さん!今日は大根が大安売りだよ!!」
元気な声が響く。
「今ならエールも一本つけちゃうよ!!」
「付けるわけねえだろ!」
ゴン!
拳骨が少年の頭に落ちた。
「いってぇ!!親父なにすんだよ!?」
「レオン!適当なこと言ってねえで、さっさと配達行ってこい!」
翠色の瞳をした少年——レオンは、店主である父に怒鳴られながら、渋々と酒の配達に向かったのだった。
その時、レオンは気付いていなかった。自分を取り巻く世界が変わろうとしていることに。
ーーーーーーー
「きゃっ!! ど、泥棒よ!」
荷車で酒樽を運んでいる途中、突然聞こえる女性の声。
振り向けばパンを抱えて走る男の姿があった。
女性が買ったパンを盗んだのだろう。
荷車をおいて走ってくる男の前に立つレオン。
「!!? どけ!ガキィ!!」
走るスピードを緩めない男。
右手にはナイフ。
左手にはパン。
男がナイフを突こうとした瞬間、半歩身体を引いて足を掛ける。
ズザァ!!
盛大に顔面から転ぶ男をレオンは取り押さえたのだった。
「盗んじゃだめだろ」
家の店にも頻繁に泥棒が入るが、その都度撃退、捕縛しているレオンはいなし方がうまかった。
パンを無事取り戻した女性は礼を言って帰っていった。
因みに、パンを渡すときに女性イチコロスマイル(レオンが勝手にそう思っている)を見せたがなにも響かなかったようだ。
「はぁ、さっさと行くか…」
捕まえた男を冒険者ギルドに引き渡し、酒ダルを酒場に届けるのだった。
店に戻ると人だかりができていた。
中には王宮騎士団のマークが入った甲冑を着た騎士たちもいた。
「なんの騒ぎだよ?」
店の前まで戻って父に声をかけるレオン。
「レオン!おまえ、何をやらかしたんだ!?
まさかまたあちこちの女にちょっかい出したんじゃねぇだろうな!?」
ものすごい剣幕で言い寄る父。
「え?」
「翠色の瞳……レオンだな?」
騎士の一人がレオンの肩に手を置いた。
「王都まで来ていただこう」
「え??」
何のことか分からないまま、
レオンは王都へと連行されることになった。
ーーその日。
平凡な商人の息子レオンの人生は終わった。
そして、
勇者レオンの物語が始まる。
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初投稿です。
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