休憩:町田とリカ
(疲れたときは町田に限る)
リカは1週間後の祠訪問に備え、昼は仕事・夜は勉強の日々を過ごしていた。
終業後に勉強なんてしたことがなかったが、もっとお玉が生きていた時代を知りたかったのだ。
そんなリカが会社でいつになくシリアスな顔をしていたのに気づいたのか、
町田が外でのランチに誘ってくれた。
「最近難しい顔してるけど大丈夫なのか?」
目の前の中華を食べながら町田が話を切り出す。
町田は急にアメリカ式ハイタッチを求めてきたり、リカを勝手に「マイベストフレンド」呼ばわりしてくるおちゃらけた男だが、その実いいやつだ。
「最近夜に勉強してるのよ。好伊津々海神って知ってる?このボールペンのモチーフになった神様」
町田は「勉強??????」と信じられない様子である。
まあリカとしても、町田が勉強している姿は想像ができない。
でも否定的なことを言わないのはやっぱりいいやつだ。
近頃1人でおたまについて調べることが多かったから、久しぶりに誰かと気兼ねなく話せた気がして、リカはだんだん楽しくなってきた。
「好伊津々海神はね、お椀に棒がついたような姿をしていて、気まぐれに農耕地を飛び回っていたの。好伊津々海神が空中で踊った田畑ではおいしい作物が取れて、人々と一緒に収穫を喜んでいたのよ。人との距離が近くてかわいいでしょう」
頬を染め饒舌に語るリカをみて町田はきょとんとした顔をしている。
「おお……元気そうでなによりだ。最近怖い顔をしてたけど、辛いことがあったわけじゃないんだな。それはよかった」
にかっと笑うこの男は、これでモテているらしい。
おちゃらけている上にボロボロな事務処理に何度ブチ切れたか分からないが、憎めない同期だった。
「というか、このボールペンの形っていろんなところにあるよな?駅とか道とか。
全部同じ神様がモチーフってこと?それってすごくないか?」
リカの語る姿を見て「好伊津々海神」に興味を持ったのか、町田から次々と質問が飛んでくる。
「好伊津々海神について考える」という意味では、結局いつもと変わらないお昼休みになってしまったが、なぜかリカの気持ちはすっきりとしていた。
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『同僚も一緒に行っていいですか?』
迷いながら、リカは鈴本にメールを送信した。予想以上に町田が好伊津々海神に興味を持ったのだ。リカも1人で決戦に臨むよりは、町田がいてくれたほうが心強い気がした。
別世界から来たリカはまだしも、学会の目的を考えると町田は断られてしまうかもしれないと思ったが、鈴本からは条件付きで「OK」の返事をもらうことができた。
『同僚の方が好伊津々海神を慕われている旨、承知しました。特別に同行を可能としますが、お玉のことは伏せた状態でお願いします』
お玉が逃げ隠れた洞窟については、『好伊津々海神が拠点にしていた場所で、今はここに眠っている』ということにするらしい。
純粋に興味を持ってくれた町田を利用するようで胸が痛いが、一緒に来てほしかった。
町田に誘いのLINEを飛ばすと、2つ返事で「OK」が返ってきた。
鈴本に倣い、包満月柄の何かを町田にプレゼントしよう。
決戦を前に、リカの心臓はドキドキしていた。