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ようこそ全日本おたま学会

『鈴本 篤之』と名乗る神主は、移動する車の中でリカに学会の説明をしてくれた。


「全日本おたま学会は、全国にある津々海神社の神主約30名からなる学会です。月に1度集まり、各神社の情報交換や、好伊津々海神の伝承を研究しています」


「全国の神主さんが……!」


「青山さんは先ほど『おたま』とおっしゃいましたね。そして私たちの学会名も『おたま』です。偶然とは思えませんが、私たちの思う『おたま』と青山さんの『おたま』は同じものを指すのでしょうか」


鈴本は顎に手を当て、何かを迷っているようだった。


「青山さんは先ほど『料理をすくったらよいのでは』『以前はよく使っていた』と仰っていましたよね。青山さんの思う『おたま』について教えてはいただけませんか?」


そこまで発言を覚えられていたのであれば、言い逃れはできない。

鈴本は『おたま』を知っている。

核心に迫ろうとしている状況で、大切なのは信頼を得ることだった。


「……私の思う『おたま』は、調理器具です」


運転席で鈴本が息をのむ気配がした。


「私の思う『おたま』は、銀色のお椀に取っ手がついた形をしていて、主に汁物をよそうときに使います」


このまま協力を得られないだろうか。


「私は別の世界から来ていて、ある日目が覚めたらこの世界にいました。元いた世界では『おたま』は調理器具で、私は世界が変わる前の夜、シンクに浮かべたゴキブリをすくっておたまごと捨てたんです」


鈴本の反応を見るのが怖く、そのまま前を向いて話し続ける。


「目が覚めたら世界におたまがあふれていて、もしかしたらおたまの復讐かもしれないと思いました。……ファンタジーみたいで笑っちゃいますよね」


「どうにかして元の世界に戻って……私のおたまに謝りたいんです」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



おたまと似た好伊津々海神を祀っている神主の前でバツが悪かったのか、それとも鈴本の穏やかさに懺悔したい気持ちになったのか。

知らないうちに口から「謝りたい」という言葉が出ていた。


リカが心境の変化に驚いていると、鈴本は怒ることも茶化すこともなく

真剣なまなざしで口を開いた。


「そうであれば、きっと私たちは力になれます」


そこから会話はなく、30分ほど車を走らせた頃に目的の場所に到着した。

自分が作りだした静寂ではあったが、若干気まずかったリカは喜んで車から降りる。


周りを見渡すと、山中にある古い集落の端にいるようで、遠くに棚田が目に入った。

昭和初期に建てたと思われる大きな平屋に鈴本が向かっていく。


「ぼろい家でしょう。学会にはお金がないんです」


玄関で呼び鈴を鳴らし、なぜか嬉しそうな顔で鈴本が話す。

車内での真剣なまなざしから一転して、元の穏やかな顔だった。



ガラガラッ……!



「誰が貧乏だって……?」


扉から出てきた人物の迫力にリカは思わず後ずさる。

60代後半だろうか。くせ毛のグレーヘアをハーフアップに束ね、力強い太眉に鋭い眼光。袴を着た姿はさながら武将のようだ。率直に言って怖い。


「会長、お客様を怖がらせないでください。こちらがメールで連絡した青山さんです」


歴戦の猛者のような男性に向かって堂々と反論をする鈴本。

どうやらよく知る関係のようだ。


「突然お伺いしてすみません。青山リカと申します。本日はよろしくお願いします」


リカが急いで挨拶をすると、会長と呼ばれた男性は厳しい顔で「うむ」と言い残し室内へ消えていった。かなり威厳のあるお爺さんだ。


「会長がすみませんね。さあ、ぼろいですが中は広くて快適なんですよ。どうぞお入りください」


鈴本に案内されるまま中を進むと、確かに外から見るより中は広いようだった。

玄関を入って何度か右左折を繰り返すと、長い廊下といくつもの部屋が出現した。


廊下で数人とすれ違ったが、全国から集まるという学会の会員なのだろうか。

おじさんやお爺さんばかりかと思いきや、30代と思われる男女もいるようだ。


いくつかの部屋を通りすぎ、廊下の端にある部屋に辿り着いた。

つくりは他の部屋と同じだが、廊下の突きあたりに重厚な額縁に入れられた絵画があるせいか緊張感が漂っていた。


「ここは会長の部屋 兼 研究室になります。会長、入りますよ」



ドドドドッ



「!?今すごい音が聞こえたような」


不安になるリカをよそに、涼しい顔で鈴本はふすまを開けた。


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