6
備品庫は、死神の衣装、武器、その他のアイテム諸々を管理し、貸し出す場所だ。
武器には相性があるから、討伐係や浄化係の人達は専用の武器を購入しているらしいけど、レンタルの方が整備もタダだし、面倒がなくていいので大抵の人はレンタルで補っている。
洋服にしてもそうだ。何十種類もある中から、その時の気分に合わせて決められる。
しかも、定期的に新作なんかも入荷しているから、オシャレにうるさい人もここを利用しているんだ。
まあ、半分以上コスプレなんだけどね。
「宝来さんはスーツですね。シロはどうする?いつものでいいか?」
備品庫のチーフ、森さんはそう言うと、宝来さんから僕に視線を移した。
僕がバディを組んでいたカオさんは、着物にハマっていて衣装も全て和装だった。僕は拘りが一切なかったから、和装繋がりで狩衣や袴を着用していたんだけど………。
「狩衣なら、新作が入ったぞ?色はもちろん黒だが、金の縁が入って模様は桜の花だ。中々艶やかで綺麗だぞ?」
「……艶やか……」
ボソリと呟く声が聞こえ、僕は隣に立つ男へと視線を向けた。宝来さんは前を向いたままで、僕をチラとも見ない。
気のせいなのかな?と、僕は首を傾げながら「僕がそんなの着ても似合わないから」と、断った。
艶やかな服なんて、色気のある辰さんなら似合うかもしれないけど、僕には無縁だ。
「じゃあ……これも新作なんだが、天使と妖精の服も入荷したぞ?この服には天使の輪っかと、妖精の羽がそれぞれオプションでつく」
いや、そんなオプションとか要らないし。大体、衣装の色は黒と決まっているのに、天使とか妖精とかおかしいとは思わないのだろうか。
「天使の輪っかと、妖精の羽」
小さな呟きに、僕はもう一度宝来さんへと目を向けた。今度は僕の顔を真剣な眼差しで凝視していた。
なんとなくだけど、僕は彼が何を想像しているのか予想がついた。
想像なんてしなくていいから。
「……いいんじゃないか?」
ボソリと呟かれた声に、僕は顔を引きつらせ、一歩後ずさる。
尻尾がビクリと震え逆立つのが分かった。
何がいいのかは聞きたくない。
怯える僕に、宝来さんはいやと呟き顔を背けた。
僕はおかしな態度を取る宝来さんを、無視することにした。
「シンプルなのはありませんか?」
「シンプル?」
「はい。上はシンプルな黒のコートを羽織るので、中は拘らなくても大丈夫です」
「……シンプルなコートねえ」
「ダメですか?」
「ダメって言うか、シロはふんわりとした感じの方が似合うからな。相棒がスーツだからって合わせるのは止めておいた方がいいぞ」
そう言って森さんが持って来てくれたのは、裾の大きく広がったコート。
「ハイネックのダボっとしたセーターにジーンズはどうだ?」
「どうだって言われても……」
僕は自分の姿を見下ろした。今まさに森さんが口にした格好だ。色味はクリーム色に青って取り合わせだけど。
「あと……神父に坊さんと、チャイナドレス。ゴスロリにメイド……も、似合いそうだがスカートはいやだよな?」
「いやです」
「だよな。……執事の衣装もあるぞ?死神らしくマントでも羽織るか?」
色んな衣装を勧めてくれるけど、いまいちピンと来なくて、僕はうーんと唸った。
「あとは変わり種で、マリンルック、甲冑、忍者にアラブの衣装だろ?腰ばき一枚の鬼グッズもあるぞ」
宝来さんが「腰ばき一枚…」と、呆然とした顔で呟いた。
僕はそんな彼をジト目で睨み付ける。
「想像しなくていいです」
「案外似合うんじゃないか?」
「似合いません」
筋肉ムキムキの宝来さんなら似合いそうだけど、貧相な僕には無理だ。
てか、着ないから。
「もちろん、ツノ二本付きだ」
そんなオプション要らないってば。
散々悩んだ結果、僕はハイネックのセーターにジーンズを選んだ。その上に、裾がふんわりと広がった丈の長いコートを羽織る。
死神の衣装は、とても不思議だ。着用する人に合わせて、服がサイズを合わせてくれる。だからピッタリとフィットして、とても着心地が良いんだ。
――回収係が仕事をする際の必須アイテムは、全部で3つある。
正確な時刻を刻む腕時計。
連絡を取るための通信機器。
そして武器だ。
通信機器は耳に嵌めるタイプの物で、雫を逆さにした形をしている。小さなボタンを押すと、マイクが飛び出し会話が出来るようになっていた。
他の部署の番号は登録してあるから、部署名を伝えるだけで接続してくれる便利アイテムだ。
「チャンネルは2ね。それで繋がるから合わせて」
森さんの声に頷き、僕は2の番号を選択する。無線のように周波数を合わせると、宝来さんとの会話が可能になる。はぐれてしまった時には重宝するんだ。
「テストして」
「ーー聞こえるか?」
宝来さんの低くて艶のある声が耳元で聞こえて、僕はゾクリと鳥肌を立てた。
「き、聞こえます」
平静を装うつもりが、噛んでしまった。何だか負けた気がして悔しい。
「武器は何にする?」
「俺は刀をお願いします」
「あ……僕は鎌にします」
「シロがいつも使ってる鎌はメンテに出してるから、今は大きいのしかないぞ?」
僕が普段愛用しているのは、銀の長い鎖の先に小振りな刃がついたタイプの物だ。森さんが出してくれたのは、柄と刃が長くて僕の身長を軽くこえていた。
「……使い辛そう」
僕が躊躇すると、森さんがそうだよなと頷いた。討伐係じゃないから、武器を使って戦う訳ではない。
でも仕事には必要だから、出来れば使いがってのいい小振りな武器がいいのだけど。
「ヌンチャクもあるぞ」
ジャラと音を鳴らしながら取り出した得物に、僕は首を振った。
使えないから。下手したら僕が回収されちゃう。
「……鎌でいいです」
宝来さんが選んだ刀や、あとは鞭に弓矢に鉄砲、薙刀や杖なんてのもあるけど、僕は鎌を選んだ。
回収は宝来さんに丸投げしちゃおうと、勝手なことを思いながら、僕は鎌を受け取った。
宝来さんは刀を手にすると、それを鞘からスラリと抜き去り、刀身を見つめた。途端に、ピンと空気が張り詰める。僕の耳と尻尾が緊張でプルプルと震えた。
宝来さんの醸し出す雰囲気と、その目の鋭さに体が痺れる。
やっぱりこの人は伝説になるだけのことはある。
むちゃくちゃ格好いい。
そんな風に思いながら、僕は宝来さんに見惚れていた。