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「そ、そんな……丁度空いてるからって適当に決めず、他の人もシャッフルして組み合わせればいいじゃないですか」
僕が不満の声を上げれば、部長は怪訝な顔をする。
「宝来じゃ不服か?」
その問いに答えられず、僕はぐっと言葉が喉に詰まった。
尻尾が思案するかのように、ゆうらりと揺らぐ。
「……ふ、不服って言うか……そうだ。宝来さんはどうなんですか」
僕達の遣り取りを、黙ったまま眺めている宝来さんに話を振った。
僕を嫌っているのは彼の方だ。だからきっと、嫌だとはっきり断るはずだって、僕は思ったんだ。
それはそれでヘコむ。けど仕方ない。相容れないものはどうしようもないのだから。
そんな風に思って見上げた先で、宝来さんは「俺はそれで構わない」と、チラリと僕の方を見遣りそう言った。
僕は宝来さんの言葉に目を瞠り、思わず「嘘だ!」と叫んでしまった。
だって、信じられない。僕は嫌われているのに。いつも、あんなに睨んできたじゃないか。
それとも……新手のイジメだろうか。
目障りな僕を闇に葬りたくて、バディを組むことを承諾したのだろうか。
僕は、宝来さんの真意を測りかねて、自分でも穿った見方だとは思ったけど、その疑惑を消すことが出来なかった。
「宝来はいいと言ってるぞ。シロ、お前もいいよな」
言外に面倒を掛けるなと、凄まれた僕はシブシブ頷くしかなかった。
「よし。決まりだな。――早速だが、仕事だ」
部長はニコリと笑ったあと、顔を引き締めると僕が握り締めていた診断書を奪い取り、代わりに別の用紙を握らせた。
「兼松弥生、17歳だ。時刻は午前10時30分20秒。死因は交通事故。交差点で居眠りのトラックにはねられ即死だ。一応、回想にも連絡を入れておけ。突然の事故死だ。未練もそれなりにあるだろうからな。回想に与えられる時間は48時間だ。今回の案件で待てるギリギリの猶予だ」
「分かりました」
回想係には時間が定められている。無期限にしてしまうと死者の魂が、アレもコレもと未練を思い出し、時間ばかりが掛かって業務に支障が出てしまうというのが理由だ。
こちらの都合で申し訳なく思うが、一日に対処しなければならない魂の数を考えれば、どうしても時間制限を設ける必要が出てきてしまう。
短い時間の中でも、回想の人たちは誠意を持って接しているから許して欲しい。
亡くなった魂の年齢や環境に合わせ、適当だろう時間をコンピューターが算出する。
今回は48時間。つまり2日間だ。
その間に、対象者には未練を断ち切るための行動をしてもらう。
「そのあと、近くにある総合病院へ回れ。本来は別の者の仕事だが、人手が足りない。相原トネ、85歳。時刻はーーーー」
僕は書類に目を通しながら、横目で宝来さんを窺うように見ていた。真剣に話を聞いている彼はドキリとするくらい男前だ。
そりゃモテるわなと、心の中で嘆息した。僕にはないものばかりを持つ宝来さんに対して、羨ましいとまでは思わないけど。(だって、僕もモテるからね)
部長は合計3つの案件を僕達に押し付けると、しっしっと猫の子を追い払うような仕草をした。僕と宝来さんは頭を下げて、備品庫へと向かった。
その間ずっと無言だ。一応、宝来さんの方が先輩なんだから、気を遣って話しかけるなり、もしくは愛想よくすればいいのに、ムスッと押し黙るものだから、話しかけるきっかけも掴めなかった。
そんな顔をするくらいなら断ればいいのに。
こんなんで仕事が滞りなく出来るのだろうか。
甚だ疑問だった。