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二です。
最終話です。
お付き合い頂きありがとうございました。
僕は今、状況を把握出来ないまま、宝来さんに連れられて、宝来さんの部屋に来ていた。
仕事が終わり、外で一緒に食事をしたあと駅で別れる。
次の日が仕事の場合のいつものパターンを無視し、宝来さんは僕を部屋へと連れて来た。
ソファで居心地悪く座る僕の隣に腰を下ろし、おもむろに、で?と問いかけられた。
「え?」
「え?……じゃないよな。辰が言ってたことは本当か?」
じっと見据えられ、僕はそろりと視線を逸らした。何も聞いて来ないから、スルーされたと思っていたのに。
「何で、辰なんだ?俺に直接聞けばいいだろーが。二人の間のことに、他人を巻き込むな」
「何て聞けばいいんですか」
宝来さんの言い方にカチンときた僕は、ケンカ腰に宝来さんへと食ってかかる。
「僕に魅力がないから、その気にはなれませんか?って聞けばいいんですか?それとも、ガキみたいな僕には食指が動きませんか?って聞けば良かったですか?」
「あのなぁ、シロ」
「僕は!……僕なりに真剣に悩んでいたんです。でも、宝来さんに直接聞ける訳がないじゃないですか」
そうだ。なんて肯定されたら僕は立ち直れなくなるくらい落ち込む。
大体、宝来さんも悪いんだ。
『スケベな俺は嫌いか?お前にいやらしいことをしたら、軽蔑するか?』
あんなことを言っておきながら、僕に何もしてこないんだから。僕は大丈夫だって、ちゃんと言ったのに。
「お前に手を出さないのは、シロに魅力がないからだとか、子供っぽいとか、そんな理由じゃない」
「じゃあ、何ですか?」
「大切だからだ。俺は、お前を大事にしたいんだ。そりゃ、したいさ。惚れた奴が無防備に傍に居るんだ。手を伸ばせば届く場所にいる。俺は……必死になって、無の境地になろうとして頑張ってたんだぞ?」
だから何さ。
「そんな俺の気も知らないで、辰なんかを頼りやがって」
「僕が悪いんですか?」
「ああ、お前が悪いね」
僕が悪いと断定されて、ムッとして宝来さんを睨み付けた。
「お前が可愛すぎるのが良くない」
「……は?」
「あちこちで狙われやがって、一瞬たりとも気が抜けない」
――あれ?なんか、話が変わってる?宝来さんはなんの話をしているの?
「狙われるって……僕がですか?」
「そうだ」
「……僕は何に狙われてるんですか?」
もしかしたら、記憶が戻っていることがバレたのかな。気を付けているつもりだったけど、どこかでボロが出たのかもしれない。
僕は緊張しながら、宝来さんを見た。
「悪い虫だ」
「……悪い、虫?」
僕の頭の中で、ハエがブンブンと飛び回った。
「髪の毛が黒くて長いのだろ?背が高いのから、色々だ。狙われ過ぎなんだよ」
それはハエじゃないよね?髪の毛が生えたハエとか、普通に怖いから。
僕は長い髪の毛を翻すハエを想像して顔を引き攣らせた。
「な、何の話をしてるんですか。ハエは髪を生やしたりしませんよ!」
「ハエ?」
「ハエです」
涙目になって頷く僕を、宝来さんが手を伸ばし抱き締めた。そうだな。ハエみたいなもんだなと、呟きながら。
「……抱いてもいいのか?イヤじゃないか?」
話が軌道修正されて、元に戻った。僕も、もうハエは懲り懲りだから頷いた。
「どうして僕がイヤがると思うんですか?僕、宝来さんが好きだって言いましたよね?」
「いや……焦って迫るのは、追い詰めるだけじゃないかと思ってな」
「僕がいいって言ってるのに?」
そりゃ、僕には経験がないよ?でも、どうするのかくらいは知ってる。
怖くないかって言えば、ちょっぴり怖いけど、宝来さんが好きだから平気だ。
「だって、大好きだから」
「…………」
僕の言葉に宝来さんが黙り込んだ。
真顔が怖い。僕、なんか変なこと言ったかな。
宝来さんは、ヴぅーと唸り声を上げるとヒョイと、僕を抱き上げた。その乱暴な所作に驚き、思わずしがみ付く僕をベットまで運び、そっと降ろしてくれた。
「煽ったのはお前だからな。止めてやれないからな」
僕は手を伸ばし、僕に覆い被さってくる宝来さんに抱き着いた。
「……止めなくていいよ。僕をいっぱい愛して」
寂しさを忘れさせて。
虚しさを忘れさせて。
幸せな思いで心をいっぱいにしたいから、僕を愛して下さい。
「これ以上煽んな。理性が飛ぶ」
宝来さんの目が獰猛な光を宿す。僕を求めてくれてるんだと思うだけで、心が震えた。
「宝来さんが好き。宝来さんが………」
大好きって言葉は、宝来さんの口の中に消えていった。
朝の光で目を覚ます。隣には見慣れた顔。ちょっぴり厳つくて、でもカッコいい宝来さん。
最初は何考えているか全然分からないし、会話も成り立たないしで、どうなることかと思ったけど、不思議だね。今はこんなにも好き。
きっと、これからも色々あって、もしかしたら喧嘩だってするかもしれない。でも何があってもこの人は僕を見捨てないって思えるから。
僕に唯一の居場所を作ってくれた宝来さん。
ぬいぐるみになっても得られなかった幸せを、この人が齎してくれた。この先もずっとずっと一緒にいるために、僕は僕の出来ることを全力で頑張るんだ。
んっと、小さく声を上げて宝来さんが僕を抱き締めた。そんな些細なことが嬉しくて、僕も宝来さんに抱き付く。
今日は仕事だから早く起きて支度しなきゃって思いながら、僕は目を閉じた。
本編終了しました。
ありがとうございました。
番外編を時々投稿する予定です。




