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二話連続で投稿します。
①です。
宝来さんと、正式に付き合い始めて半年が経った。
このところの僕の悩みは、僕の魅力不足に付いてだ。
宝来さんと僕は恋人同士だ。キスはする。二人っきりでいる時は、スキンシップも激しい。抱き締めたり抱き締め返したり、所謂、蜜月だと思う。
でも、それ以上の行為には及ばない。休みの前の日はお泊りだってしている。もちろん一緒のベッドに寝ているのに、おやすみのキスをして終わりだ。
別に、どうしてもしたいって訳じゃない。でも、普通の成人男子が恋人と一緒のベッドに寝ているのに、何もして来ないとは如何なものか。
これはどう考えても、僕に魅力がないからだとしか思えない。それで、冒頭の悩みになる。
「シロちゃん、尻尾が百面相をしてるけど」
ホント器用だよねと、背後から声をかけられて、僕は勢いよく振り向いた。
ーー救世主だ。
「辰さん!」
僕は立ち上がり、びっくりしている辰さんの腕を掴むとグイグイと引っ張った。宝来さんは部長に呼ばれて席を外している。だから、チャンスは今しかないんだ。
「な、何?どうしたの。えらい積極的だけど。マサに嫌気がさして、俺に乗り換える気になった?」
「なりません」
そこはキッパリと否定して、僕は辰さんを空いている部屋へと押し込んだ。
「乗り換える気じゃないならどうしたの?」
「男をその気にさせるテクニックを教えて下さい」
「…………俺に聞くの?」
「辰さんにしか聞けません。百戦錬磨の辰さんに、教えを請いたいです」
「百戦錬磨じゃないし……教えを請いたいと言われても」
「辰さんしか頼る人がいないんです」
困った顔をして、渋る辰さんに縋り付く。
「お願いします」
「……マサは手を出さない?」
「はい。……僕が子供っぽいから、その気にならないんだと思うんです。でも、どうすればいいのか分からなくて」
「でも、仲良いよね。そのことが原因でギクシャクしちゃうならともかく、そうじゃないなら焦る必要はないんじゃない?」
「でも」
「それよりも、俺は自分の身を守りたいかな。ものすごくイヤな予感がするんだけど?」
「イヤな予感?何ですか?それ」
「んーー……ものすごく面倒なことになる予感?……あ、ごめん。電話だ」
辰さんはそう言うと、胸ポケットからスマホを取り出した。因みに、今日の辰さんは黒いスーツを着ている。リボンタイはまるで貴族のようで、華やかな容姿にすごく似合っている。
「あーー、予感的中だし」
表示されている画面を見て、肩を落とした辰さんは、出ない訳には行かないよな、俺痛いの嫌いなんだよなとか、ブツブツと呟きながら僕を恨めしそうに見た。
「……?どうしたんですか、辰さん」
キョトンと見返す僕に、少し引きつった笑いを見せたあと、大きく息を吐き出し電話に出た。
「はぁーい、辰でーーす。…………あーー、うるさいよ、君」
『辰!テメェ、今どこにいるんだ!』
辰さんの声に被さるように、怒鳴り付ける宝来さんの声が聞こえた。僕はギクリと肩を震わせ、辰さんに向かって首を振った。
――言わないで下さい。何とか誤魔化して。目で訴える僕に、それは無理だと、これまた態度で示し僕に電話を押し付けた。
『シロが一緒にいるよな?今すぐ場所を言え。そしたら、一発で許してやる』
地の底から響く声に僕は身を竦める。
「……宝来さん?」
『シロ!無事か』
呼びかける僕に、宝来さんが焦った声を出す。
「無事かって……。無事に決まっているでしょう?辰さんとは話をしていただけです」
『何の話だ?俺にすればいいだろう』
そんなことが出来るなら、とっくの昔にしてる。
『しかも、スマホの電源まで落として……どういうつもりだ』
「……電源?」
僕はポケットに手を突っ込んで、スマホを取り出した。真っ黒になっている画面を見て、あっと声を出す。
「電源落ちてます」
『……またか』
「ごめんなさい」
しおしおと萎れる僕に『今、どこにいるんだ』と、ほんの少し物言いを柔らかくした宝来さんが訊ねた。
「えと、まだ話が終わって……ちょっ、辰さん」
話の途中で電話を取り上げられ、僕は辰さんに文句を言った。
『お前のお姫様は、第1会議室に俺を拉致した。いいか?ここ大事だから二回言うぞ?俺を拉致したんだ。お前が手を出して来ないから、男を誘惑する手管を教えてくれって言われたんだけど』
お前ヘタレ過ぎだろと、笑う辰さんを、僕はサァーと血の気が引く思いで見ていた。
――なんでバラすんだ。この人は。
ガチャと音がして、横にある扉が勢い良く開いた。僕はひっと声を出し、体を竦める。僕の大事な尻尾が、ぶわっと膨らみぶるりと震えた。
「シロ!」
腕を掴まれ抱き寄せられる。
「言っとくが、俺は何もしてないからな。ゴタゴタに巻き込むなよ?」
宝来さんは辰さんを無言で睨み付け、僕の肩を抱いたまま部屋を出た。
「ほ、宝来さん?」
「仕事だ。部長が呼んでる」
「あ、うん」
僕の肩から手を放し、宝来さんはそれ以外、何も話さないまま先を歩く。
――怒っているのかな。電話口で感じた怒りは、今の宝来さんからは何も感じられなかった。
どう思ったかな。僕が悩んでいる内容を聞いて、こいつは、そんなにもやりたいのかって思われただろうか。
それは、ちょっと恥ずかしいかもしれない。悩んでいた内容が内容なだけに、居た堪れなさが半端ない。
「こら、シロ。どこに行くんだ」
考えごとをしていた僕は、思わず行き過ぎてしまい、宝来さんに腕を掴まれた。
「えっ?あ、ごめんなさい」
オフィスに入り部長のデスクへと向かう。
「遅いぞ。どこに行ってたんだ」
「申し訳ありません」
僕が頭を下げると、部長は資料を僕に手渡す。
「対象者は42歳。名前は東條晴臣。時刻はーー」
気持ちを切り替えなきゃ。――仕事だ。
〜松波くんがやって来た〜
「松波くん!」
「シロ!兄貴、久しぶりっす!」
・・・っす?
「漸く、配属になったっす!今、部長に挨拶して、このあとバディになる人と顔合わせだそうっす」
「・・・話し方変わった?」
「俺の教育係の人が、舎弟っぽいからこっちに変えた方がいいって・・・変すか?」
誰、そんなこと言った人。
「変ていうか、違和感?」
「前の方が良かった」
「がーん・・・元に戻すっす」
がーんて言う人初めて見たかも。
「松波!」
「あ、部長が呼んでるよ?」
「あ、はい!ーー行ってくるっす」
「うん。行ってらっしゃい」
僕と宝来さんは、手を振って部署を出て行く松波くんを見送った。
ーーうん。言葉遣いはもう手遅れかな。
喋り方が変わっててびっくりしたけど、賑やかになりそう。
「歓迎会したいね」
「そうだな」
後は、カオさんが戻ってきてくれれば最高かな。




