表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/58

54

二話連続で投稿します。

①です。

 


 宝来さんと、正式に付き合い始めて半年が経った。

 このところの僕の悩みは、僕の魅力不足に付いてだ。

 宝来さんと僕は恋人同士だ。キスはする。二人っきりでいる時は、スキンシップも激しい。抱き締めたり抱き締め返したり、所謂、蜜月だと思う。


 でも、それ以上の行為には及ばない。休みの前の日はお泊りだってしている。もちろん一緒のベッドに寝ているのに、おやすみのキスをして終わりだ。


 別に、どうしてもしたいって訳じゃない。でも、普通の成人男子が恋人と一緒のベッドに寝ているのに、何もして来ないとは如何なものか。


 これはどう考えても、僕に魅力がないからだとしか思えない。それで、冒頭の悩みになる。


「シロちゃん、尻尾が百面相をしてるけど」


 ホント器用だよねと、背後から声をかけられて、僕は勢いよく振り向いた。

 ーー救世主だ。


「辰さん!」


 僕は立ち上がり、びっくりしている辰さんの腕を掴むとグイグイと引っ張った。宝来さんは部長に呼ばれて席を外している。だから、チャンスは今しかないんだ。


「な、何?どうしたの。えらい積極的だけど。マサに嫌気がさして、俺に乗り換える気になった?」

「なりません」


 そこはキッパリと否定して、僕は辰さんを空いている部屋へと押し込んだ。


「乗り換える気じゃないならどうしたの?」

「男をその気にさせるテクニックを教えて下さい」

「…………俺に聞くの?」

「辰さんにしか聞けません。百戦錬磨の辰さんに、教えを請いたいです」

「百戦錬磨じゃないし……教えを請いたいと言われても」

「辰さんしか頼る人がいないんです」


 困った顔をして、渋る辰さんに縋り付く。


「お願いします」

「……マサは手を出さない?」

「はい。……僕が子供っぽいから、その気にならないんだと思うんです。でも、どうすればいいのか分からなくて」

「でも、仲良いよね。そのことが原因でギクシャクしちゃうならともかく、そうじゃないなら焦る必要はないんじゃない?」

「でも」

「それよりも、俺は自分の身を守りたいかな。ものすごくイヤな予感がするんだけど?」

「イヤな予感?何ですか?それ」

「んーー……ものすごく面倒なことになる予感?……あ、ごめん。電話だ」


 辰さんはそう言うと、胸ポケットからスマホを取り出した。因みに、今日の辰さんは黒いスーツを着ている。リボンタイはまるで貴族のようで、華やかな容姿にすごく似合っている。


「あーー、予感的中だし」


 表示されている画面を見て、肩を落とした辰さんは、出ない訳には行かないよな、俺痛いの嫌いなんだよなとか、ブツブツと呟きながら僕を恨めしそうに見た。


「……?どうしたんですか、辰さん」


 キョトンと見返す僕に、少し引きつった笑いを見せたあと、大きく息を吐き出し電話に出た。


「はぁーい、辰でーーす。…………あーー、うるさいよ、君」

『辰!テメェ、今どこにいるんだ!』


 辰さんの声に被さるように、怒鳴り付ける宝来さんの声が聞こえた。僕はギクリと肩を震わせ、辰さんに向かって首を振った。

 ――言わないで下さい。何とか誤魔化して。目で訴える僕に、それは無理だと、これまた態度で示し僕に電話を押し付けた。


『シロが一緒にいるよな?今すぐ場所を言え。そしたら、一発で許してやる』


 地の底から響く声に僕は身を竦める。


「……宝来さん?」

『シロ!無事か』


 呼びかける僕に、宝来さんが焦った声を出す。


「無事かって……。無事に決まっているでしょう?辰さんとは話をしていただけです」

『何の話だ?俺にすればいいだろう』


 そんなことが出来るなら、とっくの昔にしてる。


『しかも、スマホの電源まで落として……どういうつもりだ』

「……電源?」


 僕はポケットに手を突っ込んで、スマホを取り出した。真っ黒になっている画面を見て、あっと声を出す。


「電源落ちてます」

『……またか』

「ごめんなさい」


 しおしおと萎れる僕に『今、どこにいるんだ』と、ほんの少し物言いを柔らかくした宝来さんが訊ねた。


「えと、まだ話が終わって……ちょっ、辰さん」


 話の途中で電話を取り上げられ、僕は辰さんに文句を言った。


『お前のお姫様は、第1会議室に()()拉致した。いいか?ここ大事だから二回言うぞ?()()拉致したんだ。お前が手を出して来ないから、男を誘惑する手管を教えてくれって言われたんだけど』


 お前ヘタレ過ぎだろと、笑う辰さんを、僕はサァーと血の気が引く思いで見ていた。

 ――なんでバラすんだ。この人は。


 ガチャと音がして、横にある扉が勢い良く開いた。僕はひっと声を出し、体を竦める。僕の大事な尻尾が、ぶわっと膨らみぶるりと震えた。


「シロ!」


 腕を掴まれ抱き寄せられる。


「言っとくが、俺は何もしてないからな。ゴタゴタに巻き込むなよ?」


 宝来さんは辰さんを無言で睨み付け、僕の肩を抱いたまま部屋を出た。


「ほ、宝来さん?」

「仕事だ。部長が呼んでる」

「あ、うん」


 僕の肩から手を放し、宝来さんはそれ以外、何も話さないまま先を歩く。

 ――怒っているのかな。電話口で感じた怒りは、今の宝来さんからは何も感じられなかった。

 どう思ったかな。僕が悩んでいる内容を聞いて、こいつは、そんなにもやりたいのかって思われただろうか。


 それは、ちょっと恥ずかしいかもしれない。悩んでいた内容が内容なだけに、居た堪れなさが半端ない。


「こら、シロ。どこに行くんだ」


 考えごとをしていた僕は、思わず行き過ぎてしまい、宝来さんに腕を掴まれた。


「えっ?あ、ごめんなさい」


 オフィスに入り部長のデスクへと向かう。


「遅いぞ。どこに行ってたんだ」

「申し訳ありません」


 僕が頭を下げると、部長は資料を僕に手渡す。


「対象者は42歳。名前は東條晴臣。時刻はーー」


 気持ちを切り替えなきゃ。――仕事だ。


〜松波くんがやって来た〜


「松波くん!」

「シロ!兄貴、久しぶりっす!」


・・・っす?


「漸く、配属になったっす!今、部長に挨拶して、このあとバディになる人と顔合わせだそうっす」

「・・・話し方変わった?」

「俺の教育係の人が、舎弟っぽいからこっちに変えた方がいいって・・・変すか?」


誰、そんなこと言った人。


「変ていうか、違和感?」

「前の方が良かった」

「がーん・・・元に戻すっす」


がーんて言う人初めて見たかも。


「松波!」

「あ、部長が呼んでるよ?」

「あ、はい!ーー行ってくるっす」

「うん。行ってらっしゃい」


僕と宝来さんは、手を振って部署を出て行く松波くんを見送った。

ーーうん。言葉遣いはもう手遅れかな。

喋り方が変わっててびっくりしたけど、賑やかになりそう。


「歓迎会したいね」

「そうだな」


後は、カオさんが戻ってきてくれれば最高かな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ