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あと、数話で終わります。

最後、少し間隔開けました。


よろしくお願いします。

「どうしてって、惚れてるからとしか言いようがないな」


 宝来さんが困った顔で笑った。

 この人は、僕が記憶を取り戻していることを知らない。そして、宝来さんが僕にしてくれたことを、僕が知ってることも知らないんだ。

 だから、詳しくは話せなくて曖昧なことしか言えないのだと思った。


 僕は宝来さんの本心が知りたかった。でも、隠したまま話を続けていては、話が上滑りしてしまうように思えた。

 ――話そう。僕の記憶が戻ったことを。


 僕は立ち上がり、宝来さんのクローゼットへと向かう。

 この前、宝来さんはこの中からあの子を出していたから。きっともうひとりの子もいるはずだ。


「――シロ?!」


 宝来さんの呼び止める声が聞こえたけど、無視したまま僕は中を探った。吊り下げられた洋服の後ろに棚が設えられていて、その上に僕の探していた子と、茶色い子が仲良くお座りしている。

 二体とも手に取ると、僕は胸に抱き締めた。


 ソファに座る宝来さんへと目を向けると、振り返りじっと探るように僕を見ている。


「この子は僕ですよね」

「……あ、ああ」


 躊躇する素振りを見せながらも、宝来さんは頷いた。


「………僕を悪霊に引き合わせたのも、ぬいぐるみを見せたのも、()()()ですよね」


 宝来さんの眉がピクリと上がる。


「……ああ、そうだ」

「どうしてですか?僕を恨んでいたから?忘れていることが許せなかった?」

「違う。そうじゃない。……確かに思い出して欲しかったが、恨んでいる訳じゃない。ただ……俺との出会いを思い出して欲しかっただけだ」

「あんな最悪な出会いを?」

「それでもだ。お前を苦しめることになると分かっていた。それでも、思い出して欲しかったんだ」


 宝来さんが、窺うように僕を見る。


「思い出したのか?」


 僕はその言葉に頷いた。


「そうか。思い出したのか」


 宝来さんに手招きされて、僕は隣に座り目の前のテーブルに二匹を並べた。

 薄汚れているけど、汚らしさはない。きっと洗ってくれたんだ。破れてほつれてしまった箇所も、取れてしまった目も、千切れかけた尻尾も全部全部、不恰好ながらも綺麗になっていて。僕と違い、大事にされてるこの子を見て、いいなって思ったんだ。でも……羨ましがる必要はなかった。

 だって、この子は僕なのだから。僕はそっと、ぬいぐるみの頭を撫でた。


「何が聞きたい?」

「僕は宝来さんが思っていること全部、知りたいです。どうして、宝来さんを襲った僕を助けてくれたのか、どうして僕に優しくしてくれるのか、どうして僕を好きになってくれたのか、全部教えて下さい」


 宝来さんは目を丸くしながら苦笑した。


「そんなに俺がシロに惚れたのが不思議か?」

「はい」


 だって、それだけのことを僕はした。


 そうだな。何から話そうかと、宝来さんは思い出すかのように目を細める。


「俺はな……シロがあの辺りに住み着いて居ることを知っていたんだ。そこで、ぬいぐるみの中に入り込み、自分をぬいぐるみだと信じ込んでいることも知っていた」


 僕はその言葉に目を見開いた。


「……知っていた?」

「ああ。知っていて……放置した。当時、討伐に所属していた俺は、巡回中に彷徨う魂の存在を感じた。だが、場所を捕らえる前に、その魂は僅かな気配だけを残して消えた。当時バディを組んでた向井には感知ができないくらいの微細な気配――それがお前だ」

「……僕」

「お前も知っていると思うが、器を持たない魂はやがて闇落ちして悪霊化してしまう。放っておけば、生きている人間も巻き込んで大変な事態になる。気のせいならそれでいい。だがもし――そう思うと居ても立っても居られなくてな。同時期に、その街で自殺者が出て対象者が行方不明になる騒ぎが起こったのもあって、彷徨くことに疑問を持つ者は居なかった。休みの日にも時間を見繕ってその場所を重点的に探すようにした。何度か訪れる内に、その魂の存在を感じ取れるようになった。お前は……幸せそうだったよ。愉しげに声を上げて笑っていた。直ぐにでも魂を回収しなければいけないのに、どうしてもその場所から引き離すことが出来なかった。探っていく内に、その魂がぬいぐるみの中に入り込んでいるのが分かった。小さな子供にぞんざいに扱われても、嬉しそうにしていたのが、印象的だった」


 僕は当時のことを思い出す。癇癪を起こして投げ付けられても、乱暴に扱われても『ごめんね。大好きだよ』と言われるだけで、何もかもを許せた。


「俺は、その魂が求めているのが、その子からの愛情だけだと気付いた。もし失くしてしまったらどうなるのか想像が付いたのに、自分の弱さに負けた」

「……弱さ?」


 それは、宝来さんには一番似つかわしくない言葉だった。


「討伐って仕事は、魂を消滅させるのが生業だ。浄化ならまだ救いがある。だが、消滅は何も生み出さない。性に合っていたし、辞めようとも思わなかったが……やはり時折しんどくなるんだよ。人の業に当てられて、気持ちがささくれ立つ時もある。そんな時に、シロの穏やかな波動を感じて癒されていたんだ」

「僕が宝来さんを癒していたんですか?」

「ああ。今も癒されてるぞ。シロの笑顔を見るだけで、幸せな気分になれる」


 僕は恥ずかしげもなくそんなセリフを吐く宝来さんを睨んだ。


「何で睨むんだ」

「宝来さんがそんなことを言うからです」

「本当のことだ。――話を戻すぞ。しばらく仕事が忙しくて行けなかった。あの雨の日、久しぶりに行った先でお前の苦しげな声が聞こえた。声を辿ってたどり着いた先に、闇落ちしたお前を見つけたんだ」


 叩きつける雨の音が聞こえたような気がして、僕はぺたりと耳を倒した。あの時僕は、悲しみに囚われて何も見えなくなっていた。救いを求めていたはずなのに、差し伸べられた手を振り払ったんだ。


「どうして消滅させなかったんですか?宝来さんなら出来たはずでしょ?」

「出来るはずがない。お前が悪霊化したのは俺のせいだ。どうなるか分かっていたのに、色んな理由を付けて放置していたせいで、お前を苦しめる結果になった」

「違う。宝来さんは悪くない」


 僕は大きくかぶりを振った。あの場所から無理やり引き離されていたら、僕はどうなっていたか分からない。回収の仕事の時にはあんな偉そうなことを言うくせに、僕はきっと納得出来ずにごねていたはずだ。







ぬいぐるみ✖︎2(おまけ)


「この子を縫い直してくれたのは、宝来さんですか?」

「ああ。上手くいかなくて不恰好になってしまった。綿を入れ替えて縫い直したあと、手洗いして乾かしたんだが、汚れが染み付いてしまったみたいでこんな色になったんだ」

「この子を見た時、凄く羨ましかった。僕もこんな風に大事にされたかったなって思ったんです」

「あの時・・・記憶を封じて悪かったな」

「本当ですよ。揺さぶったくせに封じるなんて、どうしてそんなことをしたんですか?」

「ぬいぐるみを見せれば何かしらの反応があるだろうとは思ったが、想定以上の反応だったから慌てた。本当に悪かった。反省している」

「今度、またホットケーキを作って下さい。それで許してあげます」

「ああ、いくらでも」

「約束ですよ?・・・所で、どうして二体もいるんですか?」

「一体じゃ寂しいかと思ってな。仲間がいた方が楽しいだろ?」

「僕と宝来さんみたいですね」

「そうか?・・・そうだな。一緒に飾っとくか」


宝来ニマニマ。シロブンブン(尻尾)


ありがとうございました。

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