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少しだけ修正しました。

「俺たちに、あんたの死は関係ない」


 反論しようとする僕を手で制し、宝来さんが一歩前に出る。


「落ち着け」


 ポンと背中を叩き小さく呟いた。僕は握り締める手を緩め、深呼吸をする。


「あんたが死んだから、俺たちが来たんだ。人の死の時間は、病死だろうが事件や事故だろうが、生まれた時から決まっている。自殺という例外以外は定められた時間に狂いはない。あんたに定められた寿命が尽きた。だから、俺たちが来た。勘違いするな」

「そんなこと、そんなこと信じられる訳がないだろ!」

「ぼ、僕たちは、貴方を苦しめるために来た訳じゃない。一生懸命生きた貴方が、このあとも恙なく過ごせるようにサポートするために来たんです。――死神という存在が、この世でどう思われているか知ってます。理不尽に命を刈り取り、あの世に連れて行く者だって思ってるんですよね。でも、僕たちにはそんな力はないし、例えあってもそんなことはしない。こればっかりは、信じてもらうしかないけど、僕も彼も貴方に害を成す存在ではありません」


 ゆっくりを心掛けて、僕は東雲さんの目を見て話した。

 僕たちが何かしたんじゃないかと、疑っている彼の信用を得るのは難しいだろう。でも、信じて欲しいから、僕は僕たちのことを話すことにした。


「僕たちは回収と言って、この世で生を終えられた方の魂を、迷いなく逝けるようお手伝いをしています。その理由は色々です。事故や事件に巻き込まれたり、東雲さんのように病気で亡くなられる方もいます。年齢もまちまちです。幼いお子さんもいれば、年老いた方。まだまだ働き盛りの方や、学生さん。主婦の方と、本当に様々です。……皆さんが全て、ご自身の死に納得をされている訳ではなく、不条理な死に憤りを抱かれる方もいらっしゃいます。……僕の失態で悪霊になりかけた方もいました。――死は、全ての人に平等に与えられた権利です。でも、それによって失われてしまうものもあるとは思います。――生きたいと、強く願っていた貴方には、苦痛でしかないのかもしれない。でも、少しでも貴方の憂いをなくすためのお手伝いをします。僕はまだまだ未熟で、頼りないかもしれないけど、サポートをする人間は他にもいるし、ここにいる宝来はとても頼りになるんです。だからどうか、僕たちを信じて少しずつでもいいから、ご自身の死を受け入れて下さい」


 ジッと僕を見つめる目が揺らいだ。


「あんた……」


 言いかけて躊躇し、少しの間のあと、また口を開いた。


「あんたのそれは、本物なのか?」

「………え?」

「さっきから、話に合わせて耳が忙しなく動いてた。そのマント?の下には尻尾があるのか?そこも動いてるだろ?」

「え、えと……?」


 僕は戸惑いながらも頷いた。

 あ、あれ?僕、色々言ったけど……あれの返しが耳と尻尾の有無?


「おれにもそんな耳や尻尾が生えてくるのか?」

「え?」


 東雲さんに、耳や尻尾?


「いや、あんたの隣の……宝来って言ったか。そいつには生えてないもんな。あんただけか」

「え、えと、僕以外見たことないです。……ぼ、僕は元々ぬいぐるみだったので、その影響…なのかな?」


 ぬいぐるみになりたくて、ぬいぐるみの中に入り込んだ僕は、きっとこの子の気持ちと体が一体化したのだと思う。

 それか………僕の思い込みの結果か。たぶん、それが正解なんだろうな。


「あんた……シロっつったか。ぬいぐるみだったのか?」

「はい」


 正確には違うけど、それはきっと言っちゃいけないことだから。


「そうか……あの世ってのは、何でもアリなんだな」

「え、そんなことはないですよ?ちゃんと定められた法もあるし、生活していくには働かなきゃダメだし、現世とあまり変わりはないです」


 僕たちのような特殊な職業があるだけだ。


「でも、元はぬいぐるみだったヤツに会ったことないぞ?まあ、変なヤツはいっぱい居たがな」


 それはそうかも?僕も、僕みたいな人を見かけたことがない。

 それは、現世でもあの世でも、だけど。


「それにしても、働かなきゃ駄目なのか。世知辛い話だな」

「生活するには、やっぱりお金がいるので」

「こっちでの金を持っていくことは?」

「無理です……使えないので」


 現世のお金と、あの世で使うお金は似て非なるもの。

 先ず持ち込めないから、どうしようもないのだけど。


「そうか……まあ、治療費や入院費で飛んでったから、金はないんだけどな。保険金は息子に入るようにしてるし……ヤバいな。親父たちに何も残してねーや」

「東雲さん…?」


 東雲さんの纏う雰囲気が、少し変わったような気がした。


「悪かったな」

「え?」

「シロが殺したんだろって言って」

「あ……」


 僕はぶんぶんと、首を振った。


「お前さんが、さっき必死になって話してる時、連動するように動く耳が目に入ってな。それ見てたら、なんか気が抜けた。正直、そっちに意識が持ってかれて、シロの話はあんまり聞いてないんだが」


 なんか、ひどい。僕、頑張ったのに。


「余命宣告された。色々治療は試してみるが、厳しいだろうと、最初に医師からは言われてた。でも最善を尽くすから、お互いに諦めず頑張りましょうって………生きたかった。生きのびて息子に会いに行きたかった。父ちゃん頑張って治療して、病気に打ち勝ったんだって、自慢したかった。それが――希望が見えて、覆されて………八つ当たりだ。大人として、ダメダメだよな」

「そ、そんなことないです!」


 僕が必死になって否定すると「まあ、聞いてくれ」と、東雲さんが僕を制した。


「納得……と、まではいかないが……情けないけどな。でも、何となく理解はした。仕方ないって、諦めにも近いのかもしれない。でも、まあ、シロのこと、そのシロを守ろうと、おれを警戒してる宝来のこと。少しだけ信じてもいいかなって思った」

「東雲さん」


 嬉しい。少しでもいい。信じてもらえるなら。


「サポートしてくれるんだろ?」

「はい!」

「どんなことしてくれんだ?」

「それは――」

「やり残したことがあるなら聞く。時間は50時間。二日と二時間だ。その間に未練があるなら、それを叶える。ただし、犯罪以外だ」


 説明しようとした僕を押し退け、宝来さんが説明したんだけど……なんだろ、ちょっと怖い。


「怖いボディガードだな。威圧してこなくたって、なにもしねーよ」


 東雲さんは苦笑をし、そうだなと、考え込む。


「――息子に、会いたいんだが、会えるか?」


 少し躊躇しながらも話し出した。


「息子が二歳の時、離婚した。今は……七歳か。入院する際、連絡はしたんだ。でも、元妻が再婚しててな、新しい旦那に遠慮してか、断られた。二歳の時から二、三回しか会ってないからな。あいつももう記憶にないから、今更会って混乱させるなって、後付けのように言われてな。おれも強く言えなくて、諦めたんだが……叶うなら、息子に会いたい。父親だって名乗るつもりはない。どっかの知らないおっちゃんでいいんだ。一目だけでもいい。会えるか?」

「もちろんです」


 僕が頷けば、東雲さんはそうかと、本当に嬉しそうに笑った。


 優しいお父さんの顔をしていた。


 僕は回想に連絡を取り、彼らに引き継いだ。東雲さんの魂の回収は、僕たちは夜勤になり、担当が変わってしまうと告げると、仕方ないなって、笑ってた。

 僕たちが良いって言ってくれるなら調整するって言ったんだけど「無理はするな」と、逆に諌められた。(宝来さんは、行かなくていいって、なぜか嫌がってたけど)

 僕たちの代わりを担当する人には、しっかりと引き継ぎをするからって伝えて、僕たちは別れた。


 最後に、東雲さんが宝来さんに耳打ちして、二人で少し話してたけど、たぶんそれは僕は聞かない方がいい話で………だから、僕は聞こえなかったフリをした。

 ニヤける顔や、ふりふりと揺れる尻尾も必死に誤魔化した。


 高性能な耳が、たまたま拾っただけだし………バレてないよね?





二人が何を話したかは想像で。

宝来が威嚇する様子を見て、ついつい言ってしまった東雲さんに、宝来が惚気ました。


ただ、本人に惚気てる自覚はありません。

通常営業です。


ありがとうございました。

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