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「僕は何をすればいいですか?」
「今日は、私だけだから補佐をして貰えると助かるわ」
「……僕に出来るでしょうか」
「難しいことは何もないのよ?必要なアイテムを出してくれればいいだけだから」
僕は沢山の戸棚を不安げに見つめた。物がどこにあるのか分からない僕には、一番難しい仕事のように思える。
「大丈夫」
僕の不安を見透かした葛城さんが安心させるように微笑む。
「ここでも七不思議のひとつが発動するから、シロちゃんは何も心配することはないのよ?」
そう言ってにっと唇を引き上げた葛城さんが言うには、必要なアイテムが入っている棚は、その場所がまるで主張するかのように仄かな光を帯びるらしい。
洋服はハンガーの部分が光りを放ち、その場所を教えてくれるのだと説明してくれた。
へぇと関心する僕に「だから新人さんが入っても、小一時間もすれば慣れるの」と締めくくる。
「朝の忙しい時間を過ぎれば、シロちゃんもベテランさんよ」
「頑張ります」
「よろしくね」
洋服が入っている部屋は右側奥の扉。武器庫は左側だと説明を受けていると、回収係の先輩が入って来た。
「おっ?今日はシロ、こっちか」
「はい。宝来さんが休みなので」
「ああ、月に一回の休みの日だろ?」
相棒の、しかもお試しとは言え、恋人の僕が知らない話を他の人たちが当然のように知っている。その不快感にイライラした。
でも、僕は気取られたくなくて無理やり笑顔を作った。
「どうしてだか知ってますか?」
僕の問いに先輩は首を傾げ、隣に立つ相棒へと視線を向けた。
「お前、知ってるか?」
「いや、知らないな」
理由までは聞かされていないらしい。そのことに少しホッとした。
朝の忙しい時間を終え、すっかり仕事にも慣れた僕は、椅子に座り葛城さんに淹れて貰ったコーヒーを飲んでいた。
「シロちゃん、武器庫に行って、槍と刀を取ってきて」
「はい」
立ち上がり、僕は左側の部屋へと入った。様々な武器が所狭しとと並べられている部屋の端っこと、真ん中辺りがほのかに光っている。
僕は最初に槍を手に取り、刀が置かれている場所へと向かった。
刀を見ると宝来さんを思い出す。刀身を真剣に見つめる瞳や、青白い光りを放ちながら、舞うように刀を振り下ろすその姿を思い出すだけで、ドキドキと胸が高鳴った。でも、今日のことを思い出しシュンと落ち込む。
どうしてなのかな
浮かぶのは、今日何回も胸を過ぎった疑問の言葉。ずっと一緒にいて、告白までされたのに教えて貰えなかった理由はなんなのか。
考えても詮無いことだと思うのに、どうしても考えてしまう。でも、果てしなく落ち込みそうになった僕は、ブンブンと頭を振ってモヤモヤとした気持ちを振り払った。
「仕事しなきゃ」
考えるのはあとだ。分からないことを思い悩んでも答えなんて出ないのだから。
僕は刀を手にし、二つの武器を抱えて部屋を出た。
「あれ、シロさん?」
葛城さんに武器を渡した僕は、かけられた声に振り返る。
そこには銀縁眼鏡をかけた酷薄そうな男性――綾さんがいた。
『そろそろ手伝ってもらえませんかねぇ!』と、叫んでいた姿が思い出される。
「今日は、こちらですか?」
眼鏡をくいっと上に上げる姿がさまになってるな。
「あ、はい。宝来さんが休みなので」
「そうですか」
「あ、あのっ!」
「はい?」
「この前は、本当にごめんなさい。緊急事態だったのに、僕が余計なことを話しかけたばかりに、綾さんに負担をかけてしまって」
「?……ああ、あれですか。シロさんは何も悪くありませんよ。なので、気に病まなくて大丈夫です。あの時は、あのうすらバ――相棒の向井のチョンボです。向井はよく鍛錬だと嘯いて、わたしに仕事を押し付けて、サボろうとばかりするんですよ。ですので――いい加減ブチ切れて爆発したって感じですかね」
ニコリと笑う笑顔が怖いと思うのは、気のせいなのかな。
「言葉遣い……違うんですね?」
「はっはっはっ」
突然笑い出す綾さんに一歩後ずさる。
「えと?」
ホントに怖いかも。
ビビる僕に近寄ると「忘れて下さい。いいですね」と、真剣な顔で迫られコクコクと頷いた。
「こらっ綾くん。シロちゃんに近付き過ぎ。離れた離れた」
そんな僕たちの間に割って入り、葛城さんは綾さんを引き離す。
正直、助かった。
「お触りも、もちろん禁止だからね」
「触りませんよ。わたしだって、命は惜しい」
「そ?ならいいのよ。――それで?何が欲しいの?」
「武器を……メンテに出してるものは、まだ仕上がってないですよね」
「ちょっと待ってね」
葛城さんは、帳面を取り出すと何枚かめくり確認する。
「そうね。かなり耐久が下がっていたみたいだから、その分時間も掛かっているようね。仕上がりは………四日後かしらね」
今、めくっている帳面も七不思議のひとつらしい。個人持ち込みのメンテナンス品の管理を、自動で行う。
色とりどりにあったタグの内、緑が備品庫のメンテナンス品。
ピンクが個人の品だ。
(カゴの色もそれに合わせている。個人の仕上がりを入れるカゴは青だ)
もちろん、備品庫用の帳面も存在している。
「向井くんのスパルタも、困ったものよね」
「あれは、そんなんじゃないですよ。自分がサボりたいだけです」
「あら、そんな風に思われてたら、向井くんも報われないわ。あの子、綾くんをかなり気に入ってて、目をかけているのよ?久しぶりに使える新人が来たよって、綾くんが討伐に入った時、嬉しそうに言ってたんだから」
「え」
「かなり無茶振りをする子だけど、出来ないことはさせないはずよ。その辺りの見極めは得意だからね。綾くんなら出来ると思ってやってるのよ。まあ、大変だとは思うけど、頑張りなさい」
綾さんは、照れくさそうな顔をしながら頷いた。




