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 夜、僕と宝来さんは、あの公園に来ていた。

 松波さんのお迎えだ。

 本来なら、僕たちは休み明け早番になるから引き継ぎをして別の人たちに頼むんだけど、今回は特別だ。

 約束したしね。未来の後輩くんを迎えに来るくらい手間でも何でもない。


 お試しで付き合うことになった宝来さんに対しては、なんだかぎこちない対応をしちゃう。

 普段通りの彼に、僕もそうすればいいと思うのに、変に意識しちゃってダメなんだ。


「来たぞ」


 あわあわとする僕に宝来さんの声がかかる。ハッとして見上げれば、苦笑しながら僕を見てた。


「意識してくれるのは有難いが、仕事だ」

「は、はい!」


 僕はコクコクと頷き、前を向く。

 しっかりしなきゃ。

 目の前の空間がゆらゆらと揺らぎをみせる。数秒もしない内に、人影が現れた。

 松波さん、回想の等々力始さんと、羽田百合子さんだ。等々力さんは、僕と同じくらいの身長にぴょんぴょん跳ねた髪が特徴的な男の子。

 羽田さんは、メガネをかけた知的女史的な感じの……ちょっぴり怖い印象の人だ。


「兄貴!シロ!」


 松波さんが笑顔で僕たちの名前を呼び、後ろを振り返った。


「ありがとうございました!」

「仕事ですから、礼には及びませんわ」

「衝撃的だったけど、面白いもんが見られたから、ぼく的にはナイス翔太、だよ」

「なんだよ、それ」

「あとはよろしくお願い致しますわ」

「承知した」

「始さん、行きますわよ」


 宝来さんの返事にひとつ頷くと、仲良く笑い合っている等々力さんに声を掛けた。


「じゃあな、翔太。回収に就職するんなら会うこともあるだろうし、またな」

「おう!またな」


 等々力さんと随分仲良くなったようだ。年齢的にも変わらないように見えるし、気が合うのかな?


 二人が転移で消えたあと、松波さんは改めて僕たちを見た。


「お待たせしました」

「吹っ切れた顔をしてるな」

「はい。親父やお袋と膝を割って話しをすることが出来ました。兄貴やシロのお陰です。あの時、後悔しないかって聞いてもらえなかったら、決断できなかった。感謝してます」

「殴られたの?」

「しっかりぐーでな。痛かった……けど、なんか沁みた。俺、もっと素直になってれば良かったなって……妙にグレちまって反抗的な態度ばっかとってた。何言われても、ウザッとしか思わなかった。……親父泣いてて……俺、それ見て後悔した」


 何かを堪えるように歯を食い縛り、松波さんは顔を俯かせた。


「でも!だからこそ、俺頑張る。……回収で、兄貴やシロのように、その魂に寄り添えるように頑張るよ」


 決意を秘めたその目がとても頼もしい。


「うん」

「現世での絆を断ち切ります」


 宝来さんの言葉に、松波さんは迷いなく頷いた。




 休み明け、出勤した僕はキョロキョロと辺りを見渡し、宝来さんの姿を探し、姿が見えなくて少しホッとする。


 昨日は、掃除を遅くまでしてくれた後、ご飯を食べて帰って行った。


 お試し恋人って存在にどうしても慣れない。普段通りって思うけど、普段通りがどうだったか分からなくて困っている状態だ。


「シロ!」


 部長に手招きされ、僕は首を捻りながらデスクへと向かった。


「来て早々で悪いが、備品庫へ行ってくれ」

「備品庫……ですか?」

「ああ。今日、宝来は休みだ。相棒のお前には備品庫で葛城の手伝いをして貰う」

「え……?」


 葛城さんは、森さんの次に偉い人だ。森さんは今、夜勤だから昼間は葛城さんがメインで入っているのだろう。

 でも………僕は、部長に言われた意味が良く分からなくて、眉間に皺を寄せた。


「宝来さん、今日休みなんですか?」

「ああ、そうだ」

「どうしてですか?」

「月に一回の決まりごとだ。理由は本人に聞け」


 部長は話は終わりだと、僕から顔を逸らし書類に目を移した。

 忙しなく書類を確認して振り分けて行くその様子を目で追いながら、頭の中では全く違うことを考えていた。


 部長は月に一回の決まりごとだと言った。なら、突然じゃないってことだ。どうして宝来さんは教えてくれなかったんだろう。


 昨日だって、ひたすら掃除に没頭してたけど、話しをする機会なんていくらでも合ったのに。

 それに、帰り際には「また明日」って言って帰って行った。休むなんてひと言も言ってなかった。


「……シロ?」


 名を呼ばれ、僕は呆然としたまま部長に目を向ける。


「何をぼんやりしてるんだ?私は葛城の元へ行けと言ったはずたが」

「あっ、すみません」


 訝しむ部長に頭を下げて、僕は慌てて備品庫へと向かった。


 確かに姿が見えなくてホッとした。どうすればいいのか分からなくて困ってた。

 でも――会いたくないって思った訳じゃないのにな。


 備品庫に向かいながらも、僕は宝来さんのことばかり考えてしまっていた。

 でも今は何も考えるなって、自分を戒めた。

 教えてくれなかったことに、僕はかなりショックを受けているみたいだった。


「キャァーー、シロちゃん。来たわね。待ってたのよ」


 備品庫の扉を開けた僕を出迎えてくれたのは葛城さん。野太い声と厳つい顔をした男の人だ。

 でも、仕草と口調は女の人。可愛い物が大好きだと言う葛城さんは、僕を愛玩動物のように可愛がってくれる。


「もう、全然会えないから拗ねてたのよ?森さんばっかシロちゃんを担当して、絞め殺してやろうとかと思っちゃった」


 そんな物騒なことを言いながら、葛城さんは僕をカウンターの中へと入れてくれた。いつもは外から見る中の様子を、僕はキョロキョロと観察する。

 壁一面にある戸棚に、積み上げられた段ボール。端には色別されたカゴがいくつも置かれていた。


 思ったより広い部屋の中の真ん中に、大きめのテーブル。そこには色の違うタグが沢山置いてあった。


「これって?」


 緑のタグを指差す僕に、葛城さんは「仕分けに使うのよ」とニコリと笑った。


「物が溢れているから分からなくなってしまわないようにね、例えばこれ」


 そう言って僕が指差したタグを手に持つ。


「これは備品庫内で管理してる武器や道具をメンテする際に使われるの。こうやって貼り付けて、あそこにある緑のカゴの中に入れておくとね、あら不思議。早い物で翌日。遅くても一週間後にはメンテが完了した商品が、こっちのオレンジのカゴに置かれているの」


 備品庫の七不思議のひとつよと、葛城さんが笑った。


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