表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/58

35

「これは何の真似ですか。離して下さい」


 キッと睨み付けて怒りを露わにする僕に「抱っこだ」と、平然と返す宝来さんの気が知れない。


「離して下さい」

「暴れるな。あんまり暴れると、不可抗力で尻尾を掴んじまうぞ」


 バタバタと手と足を動かしていた僕は、その言葉にピタリと動きを止めた。


「……脅しですか?」

「そういうこともあるかもしれないって言っただけだ」


 シレッと答える宝来さんを、胡乱な目で見た。


「ずっと、誤解を解きたいと思ってたんだ」

「誤解?……さっきも言ってましたね」

「ああ、辰とのことだ。俺と奴は付き合ってなんかいない。ただの仕事仲間だ。まあ、時たま飲みには行くがな。それだけの間柄だ」

「でも」


 あんなに仲良かったのに?


「でも、なんだ」

「……二人で良く戯れてたじゃないですか」

「なんだ、その理由は。気は合うからな。話もするし、それなりに仲良くもするさ。でも、奴にキスしたいとも思わないし、こうやって膝に乗せたいとも思わないぞ?」

「………」

「俺が好きなのはシロだけだ。もちろん、恋愛の意味で惚れてる」


 恋愛の意味で……。僕は宝来さんの顔が見れなくて俯いた。


「シロ?」

「ぼ、僕は、僕は……ぬいぐるみだから、そういう感情は良く分かりません」


 宝来さんの気持ちを、素直に嬉しいと思う僕と、ダメだ騙されるなと、騒ぎ立てる僕が頭の中でせめぎ合っていた。

 シャボン玉のように綺麗だけれども、直ぐに弾けて飛んでしまうような儚い気持ちに囚われるなと、切々と訴えてくる。


 結局――最後には捨てられてしまうのだから。


 ぬいぐるみである僕を大好きだと言ってくれた彼は、新しい仲間に夢中になって、僕をおもちゃ箱の奥深くに仕舞い込んだ。

 小さな人は子供だったからしょうがない。なんて思えない。

 だって、僕は悲しかったから。

 だから、恋や愛なんていらない。そんな移ろいやすく、あやふやな思いなんて僕には必要ないんだ。


「尻尾は素直なんだがな」


 ボソリと呟かれた言葉に顔を上げる。見てみろと促されて、僕が目を向けると尻尾が嬉しそうに左右に揺れていた。


「こ、これは……」

「これは?」


 訊ね返されて、僕は視線を彷徨わせた。

 裏切り者の尻尾の動きを止めたくて、僕は尻尾を掴み抱き抱えた。


「こ、壊れてるんです。さ、最近、僕の言うことを聞いてくれなくて、困っているんです」

「ほう?」

「だ、たから、尻尾のことは気にしないで下さい」


 今見たことは忘れさって欲しい。


「何を怖がってるんだ?」

「怖がってなんていません」


 プルプルと頭を振って否定するけど、本当は怖い。だから宝来さんの気持ちを、素直に受け入れることが出来ない。


「じゃあ、お試しで付き合うか」

「……お試し?」

「ああ。その間に、俺はシロを口説き落とすから、お前は俺が信用に足る男かどうか見定めればいい」


 宝来さんは、僕の心の中にある不安を見透かしたようにそう言った。この人は知っているのだろうか。僕も知らない僕自身のことを。


 じっと窺う目で宝来さんを見る。この人が何を知っているのか、僕を本当はどうしたいのか分からなかったから。

 警戒心も露わな僕に宝来さんは、まるで安心させるかのように微笑み、頭を撫でてくれる。


「シロ……俺はお買い得だぞ?料理も掃除も得意だ。お前の好きなホットケーキもオムライスもハンバーグだって、好きなだけ作ってやる」


 宝来さんが料理上手なのは、本当だ。まだ、半分しか食べてないけど、オムライスも美味しかった。


「好きなだけ甘やかしてやる。寂しい時は傍にいてやる。絶対にひとりにしない。だから、俺を選べ」


 僕の心を包み込むような眼差しと、優しい手の温もりに僕の頑なな気持ちが解れていく。

 ダメだって警告する声がだんだんと小さくなって、聞こえなくなってしまった頃、シロと、甘やかな声に名を呼ばれ、僕は小さく頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ