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 僕の家のベットはシングルで、ひとりで寝るには十分な広さなんだけど、ふたりだとかなり狭い。ましてや、宝来さんは190を超える長身で、ガッチリ体型だ。狭いなんてもんじゃない。


 そんなベットの中で、僕は宝来さんに抱き締められ、ピッタリと密着した状態で眠る羽目になった。布団の予備なんてないし、床には服が散乱しているから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 宝来さんの腕の中は、安心出来ると僕の体や心は学んだらしいから、かなりドキドキするけど、イヤな訳じゃない。


 でも、宝来さんは辛いんじゃないかなって思うんだ。どう見ても、ベットから足ははみ出しているし、掛け布団は僕がほとんど被っている。

 大きな体をちまっとさせているさまは、何だか物悲しくもあった。


「宝来さん宝来さん、僕、下で寝ますよ?」

「気にするな。大丈夫だ」


 何度目かになるセリフを口にする僕に、宝来さんも同じ言葉を返してくる。

 いや、だから大丈夫に見えないから言ってんだけど、とは言えなかった。だって、顔を向けた僕に、宝来さんの目が、これ以上何か言ったら承知しないぞって、伝えて来ていたから。


 それに、こうやって温もりを分け与えてくれる寝方は本当は嬉しかったから、何も言えなかったんだ。


 しばらくすると、宝来さんの寝息が聞こえてきた。この体勢で寝られたんだ。凄いなって思いながら、僕は身動ぎした。ほんの少し顔を上げて宝来さんの顔を除き込む。


「まつ毛長い」


 鋭い目が閉じられているだけで、宝来さんを纏う雰囲気が柔らかくなっていた。精悍な面立ちは変わらないのに、不思議に思う。

 僕はそっと手を伸ばし、宝来さんの頬に触れた。少しザリザリしたところはあったけど、滑らかな肌が心地良かった。


 耳をそばだてて宝来さんの気配を探る。規則正しい穏やかな寝息に勇気を貰い、僕の行動はどんどん大胆になって行った。

 頬に触れていた手を髪の毛に伸ばす。

 銀色に光るサラサラの髪に触れてみたいと思ってたんだ。頭を撫でて、耳に触れ、唇を突いた。弾力のある唇をムニムニと弄っていると、いつの間にか目を覚ましていた宝来さんに手を掴まれた。


「あっ……」

「あっじゃねーよ。何、人の顔で遊んでるんだ」


 ジロリと睨まれ首を竦めた。


「ごめんなさい」

「たくっ、誘われてんのかと思ったら」


 僕が悪さをしないように抱き込みながら、宝来さんが小さく呟く。聞き取れなくて、え?と聞き返す僕に「いいから寝ろ」と言って、教えてはくれなかったけど。


 僕は宝来さんの腕の中でモゾモゾと体を動かし、寝やすい位置を確保すると、大人しく目を閉じた。

 何だか幸せな夢が見られそうな、そんな気がした。


 その日見た夢はとっても変な夢だった。

 僕はものすごくワガママな王子様になって、家来の宝来さんに無理難題を押し付けるんだ。でも、宝来さんはスーパー家来だから、どんな難しいこともいとも簡単にやり遂げてみせる。


 僕が地団駄踏んで悔しがる様子を、ほんの少し意地悪な顔してスーパー家来の宝来さんが見てる。

 だから僕は、これだったら無理だろってのを必死に考えて宝来さんに言ったんだ。


『僕を誰よりも愛せ。そして、お前が今付き合っている辰と別れるんだ』


 言いながら、きっと無理だって言われるに違いないって僕は思ってたのに、宝来さんは『かしこまりました』って頭を下げた。


『ずっと、お前だけを愛してやるよ』


 そして宝来さんは本当に辰さんと別れて、僕だけを愛してくれた。僕はこれが夢だと分かっていて、夢の中の僕をいいなって、羨ましく思ったんだ。


 僕も宝来さんに、僕だけを愛して貰いたい。


「……いいな」

「何がいいんだ?」


 呟きに質問が返って来て、僕は驚きで一気に覚醒した。

 パッと目を開ければ、そこにはさっきまで僕の夢に登場していた宝来さんがいた。


 少し身を起こし、僕に覆い被さるようにして僕を見ていた。


「あ、えと……?」

「今、いいなって言ったろ?」


 僕は宝来さんを直視出来ずに、視線を彷徨わせた。

 何であんな夢なんて見たんだろう。夢の中で自分が宝来さんに言ったことを、一字一句違えずに覚えている。

 こういう時に限って覚えているとかイヤになる。


 熱の篭った目で見つめる宝来さんを、直ぐにでも思い出すことが出来る。

 羨ましいと思った自分が恥ずかしい。宝来さんに愛されていいなって思っただなんて、言える訳がない。


「えと、宝来さんが……」

「俺が出てきたのか?」

「うん……宝来さんが、美味しそうなホットケーキを独り占めしてたから、いいなって……」


 だから、咄嗟に思いついた嘘で誤魔化した。


「らしいな」


 そう言ってクククと笑う宝来さんにホッとしながらも、僕は「らしいって何がですか?宝来さんが、食い意地が張っているのがですか?」って憎まれ口を叩いてた。


「食い意地が張ってるのは、俺じゃなくてシロだろ」


 ほっぺたをムニッと摘まれて僕はムッと唇を尖らせた。宝来さんの笑顔に、何だか甘く漂う雰囲気にドキドキしながら。


 僕のこの、胸の中にある宝来さんへの気持ちは何だろう。

 ドキドキしたり、ワクワクしたり、時々痛みを伴ったり、忙しなく動く感情の意味が分からない。


 いいなって思った。

 宝来さんに愛される、僕でない僕を羨ましく思った。――僕は宝来さんに愛されたいのだろうか。でも、愛や恋など儚いものに囚われたくないって気持ちもある。囚われたらダメなんだ。

 だから、この想いに名前を付けてはいけない。


 知らないフリでいなくちゃ。



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