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評価ありがとうございます。
すごく嬉しかったです。
よろしくお願いします。
「現世での絆を断ち切ります」
宝来さんが厳かに宣言する。それだけで、空気が澄み渡るようだ。
刀を横向きにし、正面に構えると鞘から抜き放つ――と同時に、青白い光が宙に舞う。今回は、まるで場を清めるかのように、あたり一面に降り注いだ。
――霧雨みたい。
両手を伸ばし光が手の中に落ちてくるさまを眺める。
僕はあまり激しく降る雨が得意じゃないんだけど、優しさすら感じる霧雨は大好きだ。
この場に居る全ての人を、まるで包み込むかのように舞い散る光に、そして宝来さんの凛とした横顔に見惚れた。
「かっけー」
松波さんが目をキラキラさせて、宝来さんを見る。
その言葉に僕はうんうんと頷いた。
そうだよ。宝来さんはカッコいいんだ。
僕は、僕が褒められた訳じゃないのに、自慢気に胸を張った。
「兄貴って呼んでいいですか?」
「は?」
「いいですよね」
鞘を持つ手を両手で掴み「俺、兄貴みたいになりたい!」と、ニコニコと笑いながらそう言った。
「どうすればなれますか?」
「どうすればって……」
戸惑いを色濃くした宝来さんに代わり、僕は勢い込んで松波さんに訊ねる。
「え、松波さん、回収に来てくれるんですか?」
万年人手不足の回収に、新人ゲットのチャンス!かもしれない。
「…回収?」
「うん。僕たちは魂の回収をお仕事でしてるんだ。だから、回収に来れば、宝来さんがいるよ?」
宝来さんに会いたいでしょ?
――おいで?
「その回収ってとこに行けば、兄貴と一緒に仕事が出来る?」
「あ、それは……」
僕はチラリと宝来さんを見上げる。
耳をふにゃんと倒して「宝来さんのバディは僕だから………」と、むにゃむにゃと語尾をぼかした。
僕はイヤだけど、宝来さんがどう思っているのか分からなくて、顔を俯けてしまう。
宝来さんは凄い人だからどこでも引く手あまただ。そりゃ、僕だって仕事を頑張ってる。でも、僕より優秀な人は沢山いるんだ。
僕は僕に自信が持てないから、どうしても言い切れない。
「仕事は二人一組で行う。俺のバディはシロだ。それ以外の奴と組むつもりはない。悪いが、他を当たれ」
キッパリハッキリとそう告げてくれた宝来さんを、ハッとしたように見上げれば、しょうがないヤツだなって言いたげな顔で笑っていた。
「そっかー。でも、同じ回収に行けば兄貴に絡む機会もあるだろうしな。――うし!俺回収に行く。行きます!」
「ホントに?」
「おう!男に二言はねえ!あ――でも、死神ってそんな簡単になれんの?」
「うん。大丈夫だよ。討伐浄化は色々制限があって難しいけど、回収は人事の人と話して誓約書を交わせば、すぐになれるよ。研修期間が半年あるんだけど、その間に色々教わるんだ」
「俺も直ぐになれる?」
「もちろん!あの世に行ったら、一番最初に施設みたいな所に連れて行かれるんだけど、そこで生活する上での諸注意を受けたあと、仕事の斡旋をされるから、その時に回収になりますって言ってくれれば大丈夫だよ。一応、寮もあるから最初はそこで暮らせばお金も貯まるし、朝と夜はご飯も出る。昼間は社内の食堂が安くて美味しいよ。光熱費は実質タダ。寮費はかかるけど、外で部屋借りるより、かなり割安になるからお得なんだ。こういった服も武器も貸し出してくれるから、日々の細々とした物や、服とかを買うだけですむんだ」
お得だよ?
まあ、回収だけに言える話しじゃないけど、それは言わなくていいよね。
彼は回収希望なんだ。
「……シロ必死すぎ」
「あ……」
「なんか、深夜にやってる通販見てるみたいだった」
前のめりになってた体を元に戻す。
「ごめん。実は……回収ってあんまり人気がなくて、入っても直ぐに辞めちゃうんだ。亡くなった人と最初に話しをしなきゃいけないでしょ?結構キツイことを言う人もいて……しかも、人手不足で仕事もかなりハードだから、ひどい時は業務時間中、休憩すらない場合もあるんだ。……回収に来たいって言ってくれる人を、どうしても逃したくなくて勢い込んじゃった」
「お前、正直すぎ」
「え?」
「んなの、黙ってりゃいいのに。なんも知らない俺にバカ正直に言っちゃうとか、どんだけ人が良いんだよ」
「だって、思ったのと違う!って、言われても困るし」
「ま、そうだわな。でも心配すんなし。俺、兄貴のストーカーになるから」
「「ストーカー?」」
宝来さんと僕の声がハモる。
「まあ、四六時中って訳にはいかないだろうけど、兄貴に付き纏って自分磨きをするつもりです」
「迷惑だ」
心底イヤそうな顔をする宝来さんに「まあ、冗談ですけどね」と、にへらと笑う。
「俺、好き勝手やってたから親父にはいつも怒鳴られて、お袋には泣かれて、最後は親不孝なことしちゃって……思い残すことはないのかって言われて親のことなんて全く思い浮かばなかった。――最低じゃん。だから、死んだあとくらい、マシに生きたい。まあ、死んでるんだけどさ。誰かの助けになりたい。兄貴が居るから回収に行くってのは、キッカケに過ぎないけど、俺が役に立つことがあるなら、回収の仕事をしたいって思うよ。こう見えて、割と根性もあるから、ハードな仕事もこなしてやるよ」
ニッて笑う松波さんが、とても頼もしい。
「うん。待ってる」
僕は嬉しくてうんうんって何度も頷いた。
「あ、でもそれじゃ、ご両親に会いに行かなくていいの?会いたがってるんじゃない?」
「……いいんだ。俺こんなんだし、会っても憎まれ口しか言えないから……いいんだ」
「後悔しないか?」
気遣うように訊ねた宝来さんに、松波さんの瞳が揺れた。
「慌てる必要はない。短いが共に過ごす時間はあるぞ」
「うーん……」
松波さんは、視線を彷徨わせ暫く悩んだあと、はにかんだように笑った。
「じゃあ、お願いします。親父に殴られてきます。俺なりの親孝行してきます」
その目は真っ直ぐで決意に満ちていた。
何も思い浮かばないって、自虐してた松波さんとは別人みたいに。
宝来さんが、そんな松波さんに頷くと、刀を鞘に戻した。
「シロ」
「はい」
僕は頷き回想に連絡をする。
「これから、お前の手助けをするヤツを呼ぶ。――しっかり、殴られてこい」
「はい!」
「連絡が取れました。――松波さん、また迎えに来ますね。親孝行頑張って下さい」
「ありがとう」
松波さんは、僕の言葉に照れくさそうに笑った。
ありがとうございました。




