25
シロの回想シーンは、◆◆◆にします。
仕事のと、分けることにしました。
◆◆◆
「ーーちゃん。シロはどうするの?」
お母さんが僕を持ち上げて男の子に訊ねた。
「捨てていいよ」
男の子はチラリと僕に視線を向けたあと、興味なさそうに言った。
「汚いし、ボロボロだし、もういらないや」
僕が汚れているのも、ボロボロなのも全部君のせいなのに、そんな酷いことを言うの?
僕を大好きって言って抱き締めてくれたよね?尻尾がふさふさで可愛いって褒めてくれたのに、もういらないって言うの?
「あんなに気に入ってたのに。仕方ないわね。じゃあ、捨てるわよ?」
お母さんの言葉が胸に突き刺さった。簡単に捨てるなんて言わないでよ。
僕はぬいぐるみだから、心がないって思ってるの?何を言われても、何をされても何も感じないと思ってるの?
大好きだったのに。
やっと僕の居場所を見つけたと思ったのに、
――僕はまた捨てられるんだ。
ザァーザァーと冷たい雨の音が聞こえてた。袋に入れられて、ゴミの隙間から袋越しに暗い景色を見ていた。
悲しくて、切なくて涙なんて出ないはずなのに、僕はずっと泣いてたんだ。
雨の音がうるさくてイライラした。あったかい毛皮に包まれているはずなのに寒くて、心が千切れそうなくらい悲しかった。
「――シロ!」
誰かが僕を呼んでいる。
「――シロ!シロ!目を覚ませ。過去に囚われるな!」
悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうで、あの日僕は僕であることを放棄したんだ。
「シロ!」
「――っ」
体を強く揺さぶられて、僕はハッとしたように目を開けた。
ガバリと起き上がり、詰めていた息を吐き出した。
「大丈夫か?」
「………僕は……」
「シロ、俺が分かるか?」
僕は覗き込まれて、目の焦点を宝来さんに合わせた。
真剣な眼差しに小さく頷く。
「……宝来さん……」
「そうだ。お前は誰だ?」
僕?僕は……
「……シロ」
「大丈夫そうだな」
宝来さんがホッとしたように笑った。
「えと……僕は……」
どうしてベッドに寝ていたんだろう?お風呂に入っている宝来さんを待ってたよね?
問い掛ける視線を向ければ宝来さんが答えてくれた。
「俺を待っている間に眠ってたようだな。ひどくうなされてたみたいだから、起こしたんだ。嫌な夢でもみたか?」
嫌な夢?………見たような気がするけど、何だかぼんやりとして良く分からない。
小さな人に嫌なことを言われて、すごく悲しかった――ような気がする。
僕は………何を言われたんだっけ?
そこにあったはずなのに、何かにすっぽりと覆われて見えなくなってしまったかのように、ひどく曖昧だ。
「………たぶん?」
「覚えてないなら無理に思い出す必要はない」
どこかホッとした顔で宝来さんが笑った。
「あ……」
「あ?」
「宝来さんが笑った」
僕の言葉に宝来さんが眉をピクリと動かした。
「俺だって笑う」
少し拗ねた声に僕はクスリと笑った。
「うん、そうだね。今日は特に良く笑ってる」
「普段、あんまり笑わないか?」
「うん。こーんな顔してたり、こーんな顔してる」
僕は自分の目元を指で吊り上げて顰めっ面をして見せると、宝来さんは自分の顔を手で摩った。
「俺はいつもそんな顔をしてるのか」
「うん」
「……そうか。あまり意識してなかったんだが、気をつけるようにする」
その殊勝な言葉に僕は目を丸くした。少し落ち込んだ様子が意外だった。だって、まさか宝来さんがそんなことを気にするなんて思わなかったから。
意外な宝来さんがおかしくて、嬉しくて僕はクスクスと笑ってしまう。
「おかしいか?」
戸惑いを含んだ声にううんと首を振った。
でも僕は笑うのを止められなかったから、宝来さんは複雑な顔をしていたけどね。
「僕、お風呂に入って来ます」
僕が起き上がると、宝来さんは僕の肩を抱き寄せ、そのままベットに横になる。必然的に僕は宝来さんの隣に密着した状態で横になった。
ドキリと鼓動が跳ねた。
「え……宝来さん?」
「今日はこのまま寝ろ。風呂は起きてから入ればいい」
「で、でも」
僕が戸惑った顔で見上げると、宝来さんは電気を消す。僕の後頭部に手を回し自分の胸元に引き寄せた。
僕の体は宝来さんの体にすっぽりと抱き竦められ、僕の体が緊張に強張り、耳と尻尾がピンと立つのが分かった。
背中に回った逞しい腕と顔に密着する胸元に、どうしたらいいのか分からない。心臓があり得ないくらい騒ぎ出して頭の中はパニック寸前だ。
「ぼ、ぼぼぼ僕、向こうで寝ます」
「客用の布団なんてないから、ここで寝ろ」
「だ、だったら、もう少し離れて下さい」
宝来さんは身動ぎする僕を難なく押さえつけ、更に強く抱き締める。
「このままだ。先生も言ってたろ?くっ付いていた方がお互いの魂が安定するって」
「先生が言ってたのは、一緒に居た方が、ですよね?」
「似たようなもんだ」
全然違うから。
「いいから寝ろ」
頭をぐしゃりと撫で回されて、耳の付け根を優しく揉み込まれた。それだけで、僕の体から力が抜ける。
こんな状態じゃ、落ち着いて寝られる訳がないって思ってたのに、宝来さんの温もりが僕に馴染み始める頃には僕は睡魔に襲われていた。
宝来さんの腕の中は暖かくて、すごくすごく安心出来たんだ。
眠りかけた僕の耳に「悪かったな」って、声が聞こえた。
今回の案件のことを言ってるのかなって思って、宝来さんは悪くないよって言った僕の頭を、宝来さんは優しく撫でてくれた。




