1
人は死んだら天国か地獄に行くんだって思ってるよね。
でも、本当は少し違うんだ。
魂は死神に回収されたあと、就職先が斡旋されるんだ。死んだあとも働くのかと、誰もが驚くけど、生きて行くためには働かなきゃだよね?ーーーまあ、死んでるんだけど。
仕事先が決まるまでは、収容施設で生活をすることになる。衣食住は保障されてるけど、その分借金も嵩むから出来るだけ早く就職先を見つける方が、今後のためなんだ。
天国や地獄に行ったあとだって、そこでの生活が待っている。
転生はランダムに行われるから、もしかしたら直ぐに転生出来る人も居るかもしれないけど、多くの人は転生待ちの状態になる。
お腹は普通に空くし、着るものだって、暮らす家だって必要だ。それらを維持するためには、やっぱりお金が必要だ。
この世は就職難らしいけど、あの世の世界ではどの仕事も人手がなくてとても困っているんだ。
まぁ、人気が高いところでは、競争率が高くてあぶれる人が出て来るけど、それはどこの世でも同じだと思う。
現代は戦争が頻繁に行われている訳ではないのに、死にゆく人が増えてしまっていて、それを処理する人員が足りない。
死神になりたがる人はいる。でも、一番人手が必要な部署ほど、面白くなさそうだからとか、面倒くさそうだとか言って嫌厭されてしまう。
人が入って来ないから人手が足りない。入って来ても過酷な労働に嫌気がさして直ぐに辞めてしまうから人手が足りない。
ベテランさんの中にも、深刻な人手不足に悲鳴を上げて、遂には離職を考える人も出始めて、完全に悪循環と課していた。
かくいう僕も死神だ。
部署は回収。
とっても大事な仕事なのに、万年人手不足のとばっちりをモロに受けている。最悪だね。
死神の部署は大きく分けて全部で4つ。
浄化、討伐、回想、回収。
一番人気は浄化と討伐なんだけど、悪霊化した魂を相手にするこの2つの部署だけは、適性が必要なんだ。
それと、戦闘能力と特殊な技能。
訓練また訓練で、かなりハード。
そして彼等は、何があっても冷静でいられるか。
物事を客観的に捉えることが出来るか。
臆することはないか。が、常に求められる。
下手を打てば悪霊に飲み込まれてしまう恐れのある危険な部署なんだ。
なのに、一番人気は何故なのか。
浄化、討伐の名前の響きが良いのか。
僕にはさっぱり分からない。
回収と回想は名前が何となく似てるけど、仕事内容は全然違う。
回想は、未練を残して死んでしまった人の心残りを、一緒になって取り除いて上げるんだ。
この仕事も大変だ。
亡くなった人に寄り添って、決められた期間内に心残りを消化してあげなきゃいけない。
しんどい仕事だと思う。
好きな物を好きなだけ食べたいとか、好きだった人に告白したいとか、最後に自分の子や親に会いたいとか心残りは千差万別だ。
でも、どんな心残りもその人にとってはとても大切なものだから、一生懸命寄り添って支えるんだ。
死ぬってことは、今まで営まれていた日常に、自分が存在しなくなってしまうってことだから、一度は自分の死を受け入れた人も、やっぱり無理ってなっちゃうんだ。
そりゃそうだよね。
死にたくて死んだ訳じゃない。まだまだやりたいことも一杯あって、やり残したことも、一つだけじゃなく沢山あるはずなんだ。
この先もずっと未来は変わりなく続いていくと思っていたのに、それが突然絶たれるんだから。
それに――残された人たちの気持ちを思うだけで、辛くなるよね。
皆んな帰りたい。死にたくないって、泣くんだ。
そんな彼らを宥めるのも、回想の仕事。
僕は本当のことを言うと、この部署を希望していた。誰かの役に立つ仕事がしたかったから。
でも残念ながら、僕が配属されたのは回収だったんだ。
この仕事は、文字通り魂の回収を行う。
楽でいいと思われがちだけど、決してそんなことはないと、声を大にして叫んでおく。
かなり忙しくて、プライベートを充実させたい人には向かないし、中々厄介な仕事だったりもするんだ。
何せ、死んで間もない魂を相手にするのだから。
今も、唯一の後輩、城戸くんから『辞める』と報告を受けていた。
彼は凄く頑張っていたから、僕はかなりビックリした。
おかげで、僕の自慢の尖った耳と、フサフサの尻尾がピンと立ってしまったじゃないか。