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「森さん!」

「よう、シロ、宝来さんもお疲れさん」

「森さんも夜勤に入ったんですか?」

「ああ。今日からな」


 ニッと笑い手招きされる。僕は首を捻りながら森さんの傍まで行くと、森さんはバサリと二着の服をカウンターに置いた。


「……これは?」

「今日、入荷したばっかの新作。俺の一押しだ」


 得意げな森さんをキョトンと見つめる。


「……えと、それで?」


 言わんとしている意味が分からなくて、首を傾げれば「きっとシロに似合うと思ってな、隠しておいたんだ」と笑った。


「こっちは宝来さんの服です。形は違いますが、同じ柄で作られた衣装になります。スーツもいいけど、きっとこれも似合うと思いますよ?」

「……神父?」

「そう」

「でも、神父は前からあったよね?」

「あれとは違うタイプの物だ。俺が直接見て決めた。とっておきだ。着るよな?絶対着るよな?」


 怖いくらいに詰め寄られて僕は後ずさった。思わずコクコクと頷いてしまう。

 でも、ひとりは絶対嫌だから、宝来さんへと視線を向けた。


「宝来さんも着ますよね?」

「……いや、俺はスーツでいい」

「着ますよね?ね?」


 必死な僕に戸惑いながらも、宝来さんは「いや……」と言葉を濁した。


「僕とお揃いで着て下さい」

「……お揃い?」

「はい」


 頷く僕に思案する素振りを見せたあと、宝来さんは「分かった」と頷き、カウンターに置かれていた服を取り上げ試着室へと入っていった。


「さすがシロ」


 何がさすがだか分からなかったけど、僕は残された服を手に取り、もう一つある試着室へと向かった。


 僕の服は黒いシルクのシャツに黒のズボン。黒のリボンタイ。

 その上に、死神を彷彿させる体を覆い尽くす大きなマント。顔まで隠れそうなフード。

 首から掲げる銀のロザリオが唯一神父らしさを醸し出している。

 黒い生地には薔薇の透かしが入っていて重苦しさを軽減していた。


「黒魔術でもしてそうだよね」


 肌触りは良い。着心地も満点だ。

 ただ、似合うかと言うと……微妙だ。

 好みの問題だとは思うけど、鏡に映った僕は服に着られた不健康そうな男にしか見えなくて……森さんには悪いけど違う服がいいなって思った。


 試着室を出ると、既に服を着替え終えた宝来さんが、刀を抜き刀身を見つめていた。

 宝来さんの服は、つばの高い立襟に足首近くまである長衣。嵌められボタンは銀。宝来さんの髪の色とマッチして、強烈なアクセントになっている。その上から羽織るマントは僕のものより幾分か裾が絞られ、宝来さんのストイックな雰囲気を更に高めていた。

 透かしで入った薔薇の花も、模様は同じなのに何だか全然違うものに見えた。


 華やかさの中にある厳かさ。背徳的で禁欲的で――淫らだ。


 無茶苦茶カッコイイんだけどね。

 僕とは全然違う。

 ――脱いでこようかな。


「森さん……僕この服似合わないと思う」

「ん?そんなことないぞ。――宝来さんもそう思いますよね」


 声を掛けられ、宝来さんがチラリと鋭い目を向ける。僕はビクリと体を震わせ固まった。


 森さんのバカ!どうして宝来さんに話を振るのさ。


 上から下までじっと眺められて、益々動けなくなる。


 宝来さんとのあまりの違いに、羞恥さえ覚えてしまった。


「……あ、あの」


 何とか声を絞り出すけど、声が掠れてしまう。そんな僕を見てフッと笑った。あの笑顔よりも数十倍も優しい目をして。


 そんな顔を見せられて、思わずカァーッと顔を赤くしてしまうのは仕方ないよね?

 しかも「似合ってる」なんて満足気に言われたら、そりゃ尻尾だってブンブン振りたくるよ。


 ――チョロいなって、思われたかな。



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