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 振り返る僕に、辰さんがニヤニヤ笑いを向ける。意地の悪い顔が憎たらしい。


「僕に直接関係のない話だから何とも思わないです」

「じゃあ、関係あったら?」


 関係があったら?僕は辰さんの意図が掴めずに眉を顰めた。


「自分の恋人が嫉妬深い奴だったらって話」


 僕の恋人が?


「ーー居たことがないので分かりません」

「えっ?ないの?」


 目を丸くする辰さんに、僕はため息を吐き出した。


「忘れているようですが、僕はぬいぐるみだったんです。恋人なんて出来るはずがないでしょ」

「あーー……そこは、ほれ、想像で?」


 ほれ、想像でって言われても……。僕は辰さんから視線を逸らし、さっきからずっと黙ったままでいる宝来さんを見上げた。

 嫉妬深いらしい宝来さんが僕の恋人と仮定して……素直に嬉しいと思うのは間違っているのだろうか。だって、自分の好きな人が自分に対して、執着や独占欲を露わにしてくれているってことだよね?


 嫉妬しているイコール、自分だけを見て欲しいって方式は成り立たないのかな。

 僕は今まで、誰からも嫉妬って感情をぶつけられたことがないから、そんな風に思ってしまうのかな。

 移ろいやすい愛情しか向けられたことがないから、憧れているのだろうか。


 僕は考えれば考えるほど分からなくなってしまった。


 考え込む僕を、宝来さんが見下ろした。視線がかち合い、僕はビクッと体を震わせる。


「シロちゃん、そんなに怯えなくても大丈夫だから。いきなり襲い掛かったりしないから」


 辰さんに目を向ければ、ね?と笑う。


「別に……怯えてる訳じゃないです」

「……そう?その割には、耳が倒れてるけど?」


 指摘されて、僕は両手で耳を隠した。


「見ないで下さい。エッチ」

「俺がエッチなら、マサを凝視してたシロはドスケベだな」

「違います」


 僕はドスケベってなんだと思いながら、ふんっと鼻を鳴らして前を向いた。丁度僕の番になったから、コインを入れてA定食を頼んだ。


「俺がエッチで、シロはドスケベ。マサはむっつりスケベか。ーーーーよくぞ、揃った。だな」


 辰さんが楽しげに僕の後ろを付いてくる。そのまた後ろを宝来さんが歩く。どうでもいいけど、もの凄く注目を浴びている。

 まぁ、浴びてるのは、女装がやたらと似合う辰さんと、スーツ姿のイケメンの二人だけどね。


 出来れば離れて欲しい。叶うなら他人のフリをしたいと思う僕は間違っていないよね。


「離れて歩いて下さい。話しかけないで」

「あんまりな言い草に、温和な俺も怒っちゃうぞ」

「僕は昔から目立ったり、注目を浴びたりするのが嫌いなんです」

「……昔から?ぬいぐるみなのに?」


 ……え?僕は辰さんのツッコミに目を瞬いた。僕は今、なんて言った?僕はぬいぐるみで、もちろん子供達の注目を浴びていた……と、思う。

 僕は気付いたら男の子に抱き締められていて、その子の家にいたからそれ以前の記憶は曖昧なんだ。


 だからと言って知りたいとも思わない。僕はほんの少しだけモヤっとする気持ちを振り払い「辰さんは知らないんだろうけど」と、振り返った。


「ぬいぐるみにも色々タイプがあるんですよ。人と同じでね」


 尻尾がゆらゆらと揺れる。どうだ参ったかと、得意げに見上げれば半笑いで返された。

 何だよと、挑戦的な目で僕は辰さんを見返した。


「辰、シロに構うな」


 見兼ねた宝来さんが助け舟を出してくれる。


「シロも相手にするな」


 その言葉にムッとする。恋人を放置した宝来さんのせいなのに……と、僕はじとりとした目を宝来さんに向けた。


「だったら、痴話喧嘩に巻き込まないで下さい。迷惑です」

「……は?」


 目を丸くする宝来さんが何だか面白いと思いながら、僕は怒った素ぶりで空いてる席へと向かった。


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