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トネさんの魂を回収したあと、もう一件回って、午前の業務が終了した。食事をするために、宝来さんと二人で食堂に向かう。
会話は未だない。
でも、備品庫に向かっていた時に感じた重苦しい雰囲気はなくなっていた。それは、僕の中で宝来さんに対するイメージが変わったせいかもしれない。
あの、一番最初の案件での僕のミスに対して、宝来さんが言ってくれた言葉が僕の彼への見方を変えた。
朝はどうなることかと思ったけどね。だって、本当に無理だと思っていたから。
このまま仲良くなれれば、もしかしたら僕も城戸くんのように回想へ口を利いて貰えるかもしれない。そんな打算的なことを考えながら、食券機の列に並んでいると「もの凄い勢いで尻尾が揺れてる」と、聞き覚えのある声が背後から響き、僕の体に腕が回った。
僕はチラリと背後を見遣り「纏わりつかないで下さい」と、冷たく言い放ってやった。
「シロちゃん、冷たい」
辰さんが泣き真似をしながら僕から腕を外す。
「大体、僕の尻尾はコートに隠れて見えないはずです。揺れてるかどうかなんて分からないでしょう」
午後は待機だけど、いつ仕事が割り振られるか分からないから、着替えはしてない。武器はさすがに危険だから返却したけど。
因みに辰さんは、何故か女物の着物を纏っていた。黒地に赤い牡丹が艶やかだ。似合ってはいる。妙な色気を感じてドキドキした。
でも、辰さんに女装趣味があるなんて初めて知った。
辰さんの女装姿を突っ込むべきか、スルーすべきかで悩む僕の耳に、不穏な言葉が届いた。
「そのコートの上からでも分かるくらい、激しかったよ?思わず捕まえたくなっちゃった」
僕はピクリと耳を震わせる。両の手をわきわきと動かす辰さんからジリジリと後ずさった。
尻尾は僕の急所だ。そんなところを掴まれるなんて冗談じゃない。
後ずさる僕の背中が、前に並ぶ宝来さんとぶつかった。そのままの姿勢で背後を見上げれば、憎々しげな顔をして、宝来さんは辰さんを睨んでいた。
その顔にビビった僕は、宝来さんとも距離を取ろうと、カニ歩きのように横へとズレる。
そんな僕をチラリと見下ろし、宝来さんが僕を前へと押しやった。
「先に行け」
戦闘能力ゼロの僕には辰さんの撃退は無理。盾になってくれようとする宝来さんのお言葉に甘えて、遠慮なく移動した。
「マサ、嫉妬も大概にしないと、可愛げがないぞ」
「お前が余計な真似をしなければいいだけだ」
「愛だねー」
「だからなんだ」
僕は耳をピクピクと動かしながら、聞き耳を立てる。まぁ、普通に会話しているからそんなことをしなくても聞こえるんだけどね。
会話の内容から察するに、どうやら二人が付き合っているって噂は本当らしい。僕にまで嫉妬するのはどうかと思うけど、恋人同士のイチャコラ会話に水を差すのも悪いよね。
今回は見逃して上げることにした。
僕は空気の読める大人だ。
「シロ、こんな嫉妬深い男、どう思う?」
なのに、辰さんは懲りもせず僕に話を振ってきた。こういうのを当て馬って言うのだろうか。
面倒なのは御免被りたい。だって、宝来さんと僕はバディを組み始めたばかりだ。
まだまだ手探りの状態なのに、仕事に支障が出たらどうするのさ。
ありがとうございました。
夜にもう一話投稿する予定です。