結末
知り合い伝手に彼らが私を探していると聞いた。
領地経営は私を追い出した後に彼が引き継いでいたが上手くいってないらしい。
手引書などは置いてきたし別に人員をゴッソリ引き抜いた訳でもないのに、何故か彼が引き継いでからは目に見えて領地は衰退し治安も悪化の一途を辿っているようだ。
領地の民には振りまわす形になってしまって申し訳ないが、最低限の知識を得る場所や法などは整備した。
細いが道は作ったので後は自分達で切り拓いて欲しい。
残してきた有能な者達も今の伯爵家に見切りをつけ、他領からの引き抜きに応える者が増えているようだ。
知恵をつけ始めた領民からは日々投書での不満を訴えられ、更に領民が続々と他の領へ移住する事態になっているらしい。
…そして、そんな評判の悪さは遠い地にまで届いてきている。
噂では、近々国からの監査も入るらしい。きっと監査内容によっては領主の交代も検討されるだろう。
パーティーにてあそこまで堂々と連れてきた彼女も、結局彼の両親には全く認められなかったようだ。
彼女は日に日にヒステリーを起こすようになり、周りに当たり散らし更に醜聞は広がっている。そして、彼がそんな彼女にうんざりしている様子も一緒に広まっている。
そもそも伯爵家を継ぐには“貴族の妻”が必須条件な事は知っていた筈なのに、何故先に養子縁組を済ませるか、せめて養子先を確保していなかったのか…
こんな大騒ぎの醜聞が広まってしまった後では身分に関係なく何処も関わりたくと思うのは当然だろうに。
我が国の法律により、平民は貴族当主の正妻になる事は不可能だ。
同じクラスメートだった私へと声をかけてきた理由も“両親の納得する結婚相手”というだけでなく、当主となる為に“貴族の子女”という身分があったからだったはずなのに。
一応、養子縁組等の抜け道だって存在するし、当主以外だったなら平民を正妻にしても問題はなかった。
…彼が当主を諦めるか、彼女が優秀な成績を収めて何処か彼の両親が納得する貴族へと養子縁組を出来ていたなら、そもそも私に声を掛ける必要もなかったのだ。
結局、彼は当主の座を諦める事も出来ず彼女には彼の両親が認めるような貴族の家の養子になれる程の才覚もなかったので、私へと声をかけてきた…
最初に私へと話していたように、婚姻後何かの成果を上げたり、彼女の養子先を探したりする事も出来たのに…彼らはそれもしなかった。
…そんな彼らのために領地経営で代わりに成果を上げたり彼女の養子先を選んだりしようとしていたのだが、全てが無駄な労力だった…。
領地経営では、伯爵家として後々に成功すれば彼の名で失敗すれば私の名でと考えていたのだけど…彼に自分の名前を使うように言われたせいでうっかり私の名声だけが広がってしまった。
彼女についても“私自身が子供を産んで貰う為に選んだ女性”と言えば世間体もどうにかなると思っていたのに、周りに私の悪口を垂れ流していたせいでそれも出来なくなった。
自分達では何もせず、私の準備したモノは結局自分達で全て台無しにしてしまったのだ。
さすがにもう付き合い切れなかった。
とりあえず最後に領地への貢献を置き土産にして伯爵家から去ろうと思っていたのに最後の最後まで彼らはやらかした。
私は当初の契約通り伯爵家には二度と戻るつもりはない。
平民だろうと実力次第でのし上がれる基礎と前例は作った。
今後は…全てを懸けて、ずっと好きだった平民で商人の彼と新しい未来を開拓していく予定だ。
それにしても…
本当に…あいつらアホだな…
ここまでお読み頂きありがとうございます。
他にも『聖女な過去(前世)は黒歴史?』も新作として書き始めましたのでファンタジーっぽいものに興味がある方はぜひ読んで頂けると嬉しいです。
少しでも皆様のお暇つぶしになれたら嬉しいです。