月光のカラースペクトルと夜釣りについて
ここ数年で各地の漁港に設置されている常夜灯が、白熱灯や蛍光灯からLEDへと次々に取り換えられている。SDGsの取り組みが始まる以前から各地で行われてきたことで、時代の潮流を鑑みれば当然のことだ。文句を言うつもりなど毛頭ないが、私には思うところがあった。あるいは釣り人にとって不利な環境へとシフトしつつあるのかもしれない。
「月光の話じゃないの?」と思われただろうか。もちろん月光に関連した話題も語ろうと考えている。それは“釣り”というよりも“生物の進化”に紐づいた内容になるだろうが、釣り人であれば、なんとなく程度の知識でも蓄えておいて損はない。月光と常夜灯、どちらも夜間の貴重な光源だが、明るいとか暗いとかで語るより、紫外線の視座に立つべきだと私は考えている。
本編に入る前にあらかじめ断っておくが、以下に記述することは、低学歴、低収入、低身長の3低を極めた賎民である私が、実践サンプルに乏しい浅はかな私見に基づき、先人の偉大なる研究の威を借りて、犬畜生にも劣る分際で賢しげに人語を操った結果に生じた詭弁という名の汚物である。エビデンスレベル最下層の児戯とも言える。そのことを留意してから読み進めていただきたい。
今回は夜の釣魚の代表として、アジ、メバル、アオリイカを例に挙げて話を進めたい。アオリイカが「私は魚ではない」とか真顔で主張している気がするが黙れ。
まずは夜の海をイメージしてみよう。遠目には月光が波間でキラキラと反射して美しく、常夜灯の下に立って足元を覗けば、表層を小魚が右往左往して実にかわいらしい――なんて私は思わない。いつも淡泊な感想を抱いている。
「暗い。見えん。もっと光を!(ゲーテ)」
そうやってルアーを投げ続けて、ふと疑問に思ったわけだ。陸地がこんなにも暗いのなら、海中はもっと暗いはずだ。それだというのに魚たちはルアーにしっかり反応している。よくよく考えてみれば、私たち人間からすれば驚嘆に値するサーチ能力だ。果たして彼らは、どうやって獲物を見つけているのだろう?
「スペクトルが関係しているんですね!!」
正解だけど、いったん置いとこう。ほかにも知っておくべき能力を彼らは有している。
魚のサーチ能力として最も有名なものは“側線”という部位だ。体の側面、エラ付近から尻尾まで繋がっているラインである。あれは単なる模様ではなくセンサーになっていて、水圧や水流を感知している。自身の付近に何かが通過したりすれば、それを敏感に感知できる。人間で例えるなら、風圧や気配を感じるようなものだろう。イカには側線はないが、もとより奴らは鱗も何もない、つまるところ全裸野郎、バーバリーマンを超越した存在なので敏感に決まっている。
2つ目は聴覚だ。魚にも当然耳はある。私はその昔、川でフナ釣りをしている父親の傍らで大きめの石を拾い、たゆたっているウキを目掛けて投げ込んでいた。「漁場荒らし」とあだ名され恐れられたものだ。近くで大きな音がすれば、魚が瞬く間に散ってしまうのは想像に易い。側線でも振動を感じ取っているのだろうが、少なからず耳からの情報も活用しているのは間違いないだろう。ちなみにイカにも耳はある。エンペラの話ではなく、しっかり聴力を持っている。その聴覚器官がどこに付いているのか知らないが、イカの寿命を測定するのに耳石を利用しているらしいので、どこかにあるはずだ。
3つ目は嗅覚だ。唐突にサメの話で申し訳ないが、彼らは1/100万に薄めた血液でも嗅ぎ取れるほど嗅覚が鋭敏らしい。「豊海おさかなミュージアム」にそう書いてあった。
「ほんとに? 計算まったく覚えてないけどマイクロmolとか使うやつですか? 1L中に血液の分子いくつあるの?」とか思わなくもないが、そう書いてあったからそうなんだろう。自分のウンコのにおいで気絶しそう。まあサメの嗅覚が異常なだけかもしれないが、魚全般の嗅覚はあなどるべきではない。現に撒き餌で遠くから魚を寄せたりするわけだし、それなりに機能しているのは事実だ。まいどイカ単体で説明しなければいけないのが面倒だが、奴らにも嗅覚器官はある。ジェット噴射する管(漏斗)の付近。
そしてようやく目の話に入る、と見せかけて、不必要かもしれないが念のため、簡潔に光のスペクトルについて説明をさせてもらう。
雨上がりに虹を見たことは誰しもあると思うが、紫から赤までのグラデーションになっている。大気中に水蒸気が豊富に存在するとき、その中を太陽光が通過すると光が振動数ごとに分解され、虹を形成する。最も振動数が多いのが紫で、少ないのが赤。ひとことに“光”といっても、実態としては、さまざまな色の集合体なのだ。
ただし、目に見えない色も存在する。目で認識できる範囲の外の色だから“紫外線”や“赤外線”と呼ばれている。肌を焼いたり肉を焼いたり、目には見えなくても、日常生活の中でエネルギーとして実感できているはずだ。
さて本題。目に見えない色――とは書いたが、あくまで人間の話だ。アジ、メバル、アオリイカは、青系統の色を主として、紫外線まで見えているのである。まあ魚全般が紫外線まで見えてるっぽいけどね。ただし、色として認識しているかは私の勉強不足ゆえに定かではない。おそらく明るさとして認識しているものと思われるが、そのあたりは各自で調査していただきたい。
(余談だが、4色型色覚といって、紫外線が見えている人間もいるらしい)
アジ、メバル、アオリイカ。彼らは全身のサイズに比して眼球が非常に大きい。それが意味するところは当然、ほかの感覚器官にも増して目に頼るところが大きい、ということである。
今さら白状するが、私はアオリイカ以外にさほど興味はない。したがってアジやメバルの視力なんて、紫外線を見ていること以外はさほど知らない。申し訳ない。アオリイカの情報のみになってしまうが、どうやら0.6以上もの視力を有しているようだ。釣り具メーカーでおなじみ「YAMASHITA」の誰かが言ってたと思う。いや、「イカ先生のアオリイカ学」に書いてあったのかもしれないし、「新訂 アオリイカの秘密にせまる」だったかもしれない。
どうやって測ったんだ? 知らんけど、少なくとも私より見えている。恐るべし閉眼目。時代遅れのピンホールアイよわよわスカベンジャーオウムガイ君なんて敵じゃないね。明治時代のカメラと現代のデジカメを比較するようなものだ。しかもアオリイカには盲点がない。視神経と網膜の位置関係でそうなっている。もしや暗黒の海中から、のこのこ港にやってきた間抜けヅラの私を何万という群れで監視しているのか? だとすると、いつか海中に引きずり込んで食ってやろうと息巻いているに違いない。上等だやってみろ、殺される前に貴様らの産卵床を破壊してやる!! そして私の遺骸をオウムガイ君がむさぼってパワーアップし、憎きアオリイカに天の裁きを――。
すまん、ふざけすぎた。話を戻す。
ともかく、まあまあ遠くまで見えて、おまけに紫外線まで感知しているのである。とどのつまり、私たち人間の目では暗いと感じても、彼らの目には案外明るく映っているのだ。
「質問です! 目が良いといっても夜ですよ? ほんとに見えてるんですか?」
そう、そこなんですよ。ということで資料のリンクを貼りたいと思います。
https://1023world.net/blog/moonlight-spectrum 「1.023world」様
アドレスに「ムーンライト・スペクトラム」って入ってるのがド直球ですね。こちらの資料、大変参考になりました。この場にて厚く御礼申し上げます。
このサイトで注目してもらいたいのは、一番下の画像。グラフ上部に「Moon Spectrum[0M/-3M]」と書かれているものだ。水深0mと3mの地点に置ける、月光の色相グラフである。一部実測でなくシミュレートだが、資料としては十分すぎる。素晴らしい。最高。
説明に移る。まず勘違いしてはいけない点で、グラフだけを見たら月光も太陽光と同じくらい青の光を放っているように思えるかもしれないが、太陽光の明るさは10万ルクスくらい、対して月光は1/4ルクス程度なので、そもそもまるっきり明るさが違う。あくまで照射された光の色分布だという点は念頭に置いておこう。
グラフで水深0mと3m地点を比較すると、550nm付近より高い周波数帯が、ごっそり減衰している。これは海水が赤系統の色を吸収する性質を持っているからだ。海の蒼さの所以である。翻って、青系統の色は、ほとんど減衰していない。400nm以下の紫外線領域も、おおむね0m地点をトレースしている。
海中で明暗を判別するには、とにかく青系統に特化した目を獲得する必要がありそうだ。すなわち、アジもメバルもアオリイカも、そういう風に進化してきたのである。可視範囲が紫外線にまで及んでいるのも、減衰しづらい色だからというのが理由だ。イカ専用ルアーで「蓄光タイプ、490nmで発光します。アオリイカが最も見やすい色!!」とうたっている商品があったりもする。グラフに照らせば超納得。ちなみに人間の目はというと、550nm付近で最大のセンシティビティを示す。グラフの「Moon 0m」を見ると、青に比べて随分と光量が低いことがわかる。人間は夜目だと魚たちには適わないらしい。もう一つちなみに、深場に生息している魚の場合、体色が赤い方が有利だとされている。青い光ばかりが届く場所で青色をしていると、よく反射して目立ってしょうがないからだ。ただし「赤い(暗い)ヤツはたぶん飯だ!」とか思ってるメバルなんかは赤いヤツしか食わない時があるらしい。魚の気持ちになってルアー選びをしないと、いつか失敗する。
「質問です! さんざん紫外線を強調してたくせに重要なのは青じゃねえかよッ! あと常夜灯のくだりはなんだったんですかこのハゲッ!!」
うるせぇ。紫外線はこっちの世界のコンセントレーションなんだよ(意味不明)
意訳すると、紫外線や常夜灯というのは、私の釣りメソッドに深く関係している、ということだ。さっきメバルの話でも触れたが、「とにかく青だ、青で攻めろ!!」という思考は諸刃の剣だと私は思う。ちなみにコンセント云々はマンガ「BLACK LAGOON」に出てくるセリフ。いまだに意味わからん。
さて、残るは釣り関連の話だけだ。この記事だが、執筆開始の時点で明確に読者(一個人)を想定していたので、もうその人物は十分に満足しているかと思われたり思われなかったり。ぶっちゃけ“月光のカラースペクトルと海模様”について書けばいいだけだったのに、ずいぶんと余計な情報まで差し挟んだから、きっと食傷を起こしていることだろう。原稿用紙11枚分だぜ? 南無。
これ以上の加筆に需要があるのか甚だ疑問なので、このあたりで一旦〆ようと思う。半ばタイトル詐欺だったことは詫びよう。要望があったら、どこかにコメントでも残しておいてもらえれば少しずつでも更新するので、よろしく頼む。疲れた。