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忘鬼の謂れ〜鬼と戦い続けた男  作者: 吾瑠多萬
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【決戦】焦点

この物語はフィクションです。

香が焚かれる部屋の中、深呼吸しながら、実穂高は己の中の那由に意識を向け、それにより深く入って行った

那由の人格と己は同じではない。那由は龍に角を返したのか。黒岩を封じたのは誰か。他の龍はいるのか、木であった宿世に訪れた青年は逸彦だったのか。知りたき事は沢山ある


那由に問いかける。那由の中の、逸彦が童の頃の記憶。どれも楽しく充実している。やんちゃな童に手を焼きながら、立派に育て上げ、切ない思いをしながらまた手放す。その結果鬼絡みで村を追われる事もあり、二度と会えぬ事も多かった。それでも尚逸彦を愛し、待つ。その繰り返し。だがどの生も、父となる男がいた様子がない。おや、と思う。逸彦を生んだ記憶は那由には無かった。その代わりに、桃の木の元で赤児を拾っていた。何だって。逸彦は木から直接生まれた子だったのか。那由は慈愛の化身だった。ただ育て、愛する為の人格。己が一切重荷とならぬように、逸彦が心残り無く旅立てるように手放す。実穂高は涙ぐんだ。それはどれ程の献身で、どれ程の愛だったのだろうか。立派に育つ筈だ。

黒岩を封じたのも那由だった。封じ続ける為にあの場所から離れられなかったという。だが肉体を媒体にしているが人格は那由ではなかった。何かもっと古いものだ。そうだ、あの木の…。木。それなら己ではないか。一体どう言う事なのだ。黒岩を逸彦に斬らせると那由は島から離れる

その後、政事に関わる為に陰陽師に関わった。だがけして表舞台には出ない。その時に童の瑞明と出会う。これはまた、とんでも無く純粋で実直で、確かに公家相手の商売は無理そうだ。笑ってしまう。


実穂高が気になっていた五行。五と言う数字と五芒星。これは帝が命じて入念に封印がされているようだ。世の流れを止める為に、不安定な五と言う数字内で循環するように神から借りた力を使って(ことわり)に干渉している。これを破るには今の己の力では及ばない。残りの龍が全て統合されないと世の歪みは直せまい。それに、そうなったとしても我にそんな力があるのか…



京での事が終わると、那由はその命を終える。光となって龍に取り込まれる。素晴らしい感覚がある。龍は木になった


那由が陰陽師だった時の意識と記憶から、残る龍と要素は光以外は火と風であるとわかった。その龍は何処に居るのだろう。直ぐには判りそうに無い。


あの宿世の巨木は何なのだろう

…しん…

…真中の木

世の真中(まなか)にあるもの

しんなる木、世の真中の木。それは己の事であろうか


あの木、古代からあるような巨木、根元に澄んだ湖を湛える。

そこを訪れる青年、よく見る。やはり逸彦のようだ。もっと中身が幼く純粋だ。まだ体験を経て居ないので、そのままに受け取るのだ

青年は木に触れて言う

()と結ばれ賜う」


実穂高は仰け反りそのまま横倒しに床に伏した。純粋にも程があるぞ、この青年。流石は逸彦の宿世だ。青年の言葉を観る


「婆が()を愛しと言う。()は今その意味を知った。

真に愛し者と結ばれるは至上の幸せと婆は言う。婆は爺と共にいて幸せと言うた。それを結びと言うのだと。この蔓払いながら()は思うた。たとえ此処に通うのみでも構わぬ。此処に来る事を()に許し乞う。吾は此処に来る度蔓を払おう」


心打たれる。そして木である己は、結ばれる事を承諾する返答をしている。木が己ならば、もう契り交わした事になっているではないか。


(なれ)(めい)を成し遂げたなら

そう致そう

その証を授ける”


実穂高にはその証が何なのかをよくわからなかった。だがかなり衝撃を受けた。これを逸彦は覚えていないのだな、前途多難だと独り言を言った。ただ、そのしんなる木が逸彦の宿世の青年を全てを尽くしても愛しているのが良くわかった。これは、(おん)討伐を完遂しなければならない


それから、木はその意識の一部を鳶に移し、青年を導き、見守る。その後は鳶からの視点だ

その青年の行った鬼退治は壮絶だった。当時は鬼化するまで数日かかり、とある村で鬼化する兆候のある者を引き連れ離れ島に移った村長(むらおさ)は、青年と共に仲間だった鬼を斬って行く。遂に村長は己が鬼化する時が訪れると悟り、青年に人であるうちに斬ってくれと頼むのだ。青年は泣きながら村長を斬る。村長は宿世で那津達家族を守り抜き、やはり自らが鬼化して逸彦に斬られた宮地家の当主であり、現在の宮立の太方だ。生き様がそっくりだ。この事はまだ逸彦は思い出して居ない。辛すぎるのだろう

最期は逸彦が思い出した通り、女に爺と婆と太刀を奪われて、死んでいる

鳶となった木である意識の己も、哀しみ、苦しんでる。彼を愛元へ還すと鳶に入った意識は消える


涙が止まらない。逸彦はこの時の事をなぞりながら、時代を繰り返している。どれ程辛く苦しかったのだろう、逸彦であると言う事を覚え続けて居るのは。それでも愛と神の為に(めい)を全うする事に全てを賭けている。誰にも真似できない、尊い生き方だ。それを本人はそう受け取っていない


その間にも(おん)は増え、関わった者が鬼化するのは仕方ないとしても、それを広げようとする反命の力の一つは逸彦が黒岩を斬る事でようやく止まった。陰陽師と仏教が鬼への恐れで火付けして、信仰や依存を促す事が、無意識のうちに鬼に力を与えていたが、それも逸彦と瑞明と龍によって無害化したようである。

残っているのは、黒岩から芙伽に移った反命の大元と、天皇に残る帝の世を終わらせぬ為に留まろうとする意思。今の帝は無自覚だろうが、恐らくそれは帝位と共に引き継がれていたのだろう。

待て、そう言えば巽は、先帝の血を引いていると聞いた。もしや彼奴も、その意識を根底に持っているのか…。それであの態度なのか。


「水師」

実穂高は水師を呼んだ。

「お呼びですか」

すぐに水師が部屋に入る。この様子を見るとそろそろ呼ばれると察して控えていたのだろう。相変わらず凄い勘である。流石は那由が手ずから育てただけの事はある


「その後、芙伽(ふか)の居所を感じるか」

「我等の後を付いて来るのかと警戒しておりましたが、途中からその感じも消えました。その意図が解りかね、気味悪く思います」

「であるな」


実穂高は目を閉じ、巽と最後に会った時に残した式神を確認した。巽は京に居て特に動きは無いようだ。新路(しんじ)はどうか…宮には居ない。何処へ行ったのだろうか

「新路は京を出ている様子だ。芙伽と一緒に動く事はあるだろうか。そうだとして、芙伽は式神を見破るか?」

二人は顔を見合わせた。式神があれば二人を同時に見る事が出来るが、それを見破られ術を解かれたならば、此方から相手を知る手掛かりは無い。水師の特技は目指す者の方角や機会がわかるもので、相手が何をしているのか、何を考えているのかをわかる訳でも無い


今のうちに新路に付けた式神を確認せねば


新路は道を歩いている。誰かと話している。女だ。


新路の心は鬼討伐が終わったのちに逸彦も含め討伐に参加したものは皆生きては帰さぬ気だ。何故だ。それが帝への忠誠だと思っている。

新路は芙伽とはそこまでは目的が同じなので、同調し、女を利用していると思っている。だがその心は既に女に支配されている。利用しているつもりが利用されている。女は恐らく鬼を残したままで終わらせたい。そうでなくても…


女が振り返って此方を見たように思った

そしてふっつりと途絶えた。やはり見破られたか…

角を奪う為の霊障が出来る程だ致し方ない


「消えたな。破られた」

「仕方ありますまい。何かわかった事はありましたか」

実穂高は今見えた二人の心の内を話した。

水師も目を閉じて考え込んだ。

「残る手掛かりは、何故我は西渡殿を考えるとその先が芙伽へと向くのかと言う事ですが…」

「昔の妻の身体だからか。まだそれで芙伽の居る方向わかるのか」

「それがですな、今は西渡殿を考えても彼自身を示しまする」

実穂高は霊視する

「西渡殿が亡くなった早萌殿を忘れたいと思う事で、返って無意識に早萌殿を想い続けていた。それを我等に話し自覚した事で消えたようだな」

「あり得ますな」


「皆から聞いた我等と別れた後の事どう思う。礪波郡(となみぐん)まで(おん)は殆ど会わなかった。それなのに、深瀬郷、甲斐国と、集団で現れた。これは如何なる事か」

「我も不思議に思いまする。鬼の総数は減っている、されどそれは一部地域に集合している」

「逸彦が言った光遮るは、芙伽が関わっていると思うか」

「それしか考えられますまい」

「反命の大元だ、鬼を率いる力を持つか…」


二人は黙した。想像を超える困難が控えていると思った

「鬼の総力を我等にぶつける気ではあるまいな」

水師は頷いた

「我が逆の立場でも、そうしますな」

我等の目的が鬼討伐である以上、どんな罠であろうと我等はそれと対峙することになる

逸彦を混じえ話した方が良いと思った

その事を水師に伝えると水師も同意した

「鬼について彼程詳しい者はあるまい」


人物紹介、決戦


逸彦…鬼退治を使命とし、鳥に導かれながら旅をする。宿世の記憶をずっと受け継いで生まれ変わりを繰り返している。移動は常に、山も崖も谷も直線距離で駆けるか木々を伝って行けば良いと思っている。寝る時は木の上

コウ…逸彦の心の中で逸彦の疑問に答えたり、導いたりする内なる声。コウは逸彦の命であり、鬼と戦う時刃(やいば)を動かしている。宿世「コウと共に」で登場

実穂高…鬼討伐の責任者。陰陽師。実穂高は実名ではなく通称

水師(みずし)…実穂高の側付きであり弟子。目指す相手の居所をわかる特技がある (宿世 和御坊、瑞明「コウと共に」に登場)


玉記…実穂高の京での信頼できる友であり、実穂高と水師の剣術の師 (宿世 小野篁「流刑」。水の龍 天河「コウと共に」にて登場)

天鷲(あまわし)…玉記の友人。従妹 (さかえ)の病の事を実穂高に依頼する (宿世 源信(みなもとのまこと)「上京」。地の龍 金剛「コウと共に」にて登場)


実穂高が集めた討伐の面々

宮立 父 太方(ふとかた)…亡き妻の口寄せを依頼して実穂高と知り合う。(宿世 宮地家の御当主で那津の義父「護衛」、村長(むらおさ)「桃語る」に登場)

宮立 倅 細方(さざかた)…(宿世 宮地家の息子でご当主、那津の夫「護衛」に登場)

津根鹿(つねか) …妻子出産の祈祷で実穂高と知り合う(宿世 宮地家の孫で那津の長男「護衛」の最後に登場)

西渡(さえど)… 妻の死体が蘇って歩き回ったという件で霊を鎮める祈祷を依頼し、実穂高と知り合う(宿世 男「桃語る」で登場)

佐織の翁…婆の病の相談で実穂高と知り合う (宿世 翁「桃語る」に登場)


伏見…親不知子不知の海沿いの難所を通り抜けるのに困っていたところ通りかかった討伐の一行と合流。自分達の領地周辺の鬼調査をしていたが、以降行動を共にする(宿世 布師見「城」に登場)

木ノ山…伏見に仕える。話しぶりが大袈裟(宿世 木之下「城」に登場)


(さかえ) …天鷲の従妹で幼馴染み。頭に鹿のように枝分かれした龍角を持つ。霊障による病で亡くなる (宿世 源信の妹、潔姫の生まれ変わり)

巽 右大臣…討伐の依頼主だが乗り気でない。ちなみに巽は本名ではなく通称

新路(しんじ)…巽の従者

芙伽(ふか)… 榮に霊障し、角を狙った女。


那由…逸彦の母役、育ての親の人格。宿世で何度も母だったが、隠岐の島で逸彦が黒岩を斬って以来生まれ変わっても巡り合わない。鹿のような枝分かれした角があるが、霊眼が開かないと見えない。愛の化身。「流刑」に登場

那津…那由の子供として暫く生まれて来ない時に、同じくらいの年齢で生まれた人格。商家の娘那津を嫁ぎ先まで護衛する「護衛」に登場

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