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忘鬼の謂れ〜鬼と戦い続けた男  作者: 吾瑠多萬
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【決戦】合流

この物語はフィクションです。



玉記と天鷲を加え、実穂高と水師は馬を急がせて居た。途中行った霊視では、津根鹿(つねか)の様子が芳しく無いという事をわかっていた


水師の勘はいつも正しく目指す人物へと導いた。だが今日は少し彼に戸惑いが見える。馬を止め、降りる

「どうしたのだ、水師」

「はあ、何というか勘が優れませぬ。二つの方向が気になります」

水師は二つの方角を示した

実は、その場所は逸彦達一行の場所と、彼らを追って移動する人物がいる方向だ

水師は改めて今目指す逸彦や宮立や、西渡(さえど)を思った。一人ずつ思い浮かべて、その感覚が示す方向を確認した。それから、芙伽を観て見た。西渡と芙伽の時に示す方角は同じだった。だが西渡が逸彦らと別行動取っているとは考えにくい

「おそらくこの方角で逸彦達と合流できると思うが、あっちは芙伽かと…」

「何だ、奴等我らを追っているのか」

「断定できないがそうかも、ただ」

水師は言葉を切って実穂高の耳元に口を寄せた

「西渡は芙伽と何らか関わりが…」

「まさか」

実穂高は水師を見返した。水師は頷く

「どの様なものかまで判りませぬ」

「ううむ、何処か落ち着いた場所で確かめたいが、急いだ方が良いのか…」


「麻呂は急いだ方が良いと思うぞ」

天鷲が言った

「その女の事、一行に早く伝えた方が良いだろう」

「確かに」

水師は再び馬に乗ると、目指す方角へ走り始めた


数日の後、駿河国へと入り、富士郡に入ると水師は馬を止めた

「どうやらこの辺りの旅籠のようですぞ」

水師は馬を降りると、玉記に馬を任せ近くの露店に入る。店先で何やら店主と話していたが、急に笑い出すと礼を言って出て来た

「居場所がわかりましたぞ。参りましょう」

玉記から馬を返してもらい跨ると歩き出す


「どうやってわかった」

「さあな。風貌でも言ったのではないか」

天鷲と玉記が話していると

「風呂だ」

実穂高が言った

「風呂?」

「二人は風呂好きなのだ。さしずめ風呂が良い旅籠でも聞いたのだろう。行けばわかる」

二人は顔を見合わせたが、何も言わなかった



「逸彦殿!」

水師の声がした。旅籠の前の通りにいた逸彦と佐織の翁は振り返ると向こうで亜麻色の馬上から手を振る水師を見つけた

「来たのか」

逸彦の顔が安堵に顔が緩む。だがすぐにその目は実穂高を探す。水師の後ろには三頭の馬が続いた。白い馬に乗っている実穂高を見つけると、無意識のうちに口元が笑みで綻ぶ。何故己はこんなに喜んでいるのだ。実穂高も華やかな笑顔でこちらを見ている。つい目を逸らしてしまう。もっと素直になりたいと思って居たのに

残りの二方は赤い栗毛の馬に乗る玉記と、あの黒鹿毛の馬上に居るのは誰だ。胸に何かが込み上げ、広がる


四人は近寄って来る。実穂高は愛馬から飛び降り、一瞬逸彦の方へ駆け寄ろうとした

だが直ぐに津根鹿の様子がおかしい事を思い出し、二人に尋ねた


「津根鹿の様子はどうだ」

実穂高が津根鹿の不良を察知していた事を感心する

佐織の翁が山越えの前から体調が悪いと伝える。今は旅籠の部屋で寝かせ、逸彦と佐織の翁は買い出しに街に出ていた。二人が買い物から帰り、丁度旅籠へ入ろうとした時に水師が声を掛けたのだった



逸彦は内なる声であるコウの言葉を実穂高に伝えねばと思った。

「コウが言っていた。京で起こった事と連動していると。何があった」

実穂高は逸彦を振り返った。

「他にも何か聞いたか」

「見えにくくなる、充分気をつけろと」

「それだけか」

「それだけだ」

「見えにくくなる…それが光か…」

実穂高は呟いた。四人と二人は旅籠に入る。そこへ声を聞きつけた他の仲間が合流する。各々挨拶をすると、実穂高は宿泊の件は水師に任せ、直ぐに寝かされている津根鹿の部屋に行った


実穂高は眠る津根鹿の傍らに座り身体に手をかざして目を閉じ、まんべんなく観た

芙伽(ふか)だな。何故津根鹿に関係あるのだ」

西渡(さえど)はその名を聞くとひくりと反応した。進み出て言った

「芙伽と聞こえたが」

「知って居るか」

西渡は頷く

「少し落ち着いてからだ。後で話してくれ」


実穂高は津根鹿の状態を把握したが、榮の時と似ていた。ただ津根鹿本人を狙ったものではなく、角を経由したものの様だった。霊障なので手立てがわからなかった


「霊障なのか。ワレはてっきり津根鹿殿が鬼化…ぐっ」

伏見が木ノ山の横腹を小突いた

皆もそうは思ったが黙っていた。誰も聞かなかったことにした


実穂高は皆に玉記と天鷲を簡単に紹介し、天鷲の従妹の榮殿が亡くなった事を話した。それから、その死因は霊障であり、巽と従者の新路の背後に芙伽という女がいるとわかったが、その者本人を見た事はないとも話した。津根鹿の体調が関わりあるなら、榮が亡くなった事だろうと言ったが、まだ津根鹿がそれに何故関わりあるのかは見当がつかなかった。

そして逸彦に寄ると、榮に鹿の角があった事、死と共にそれが芙伽に奪われた事、霊視して榮の龍は光に属するものだとわかったと伝えた


「光の龍の角が奪われるとどうなるのだ」

逸彦は言いながら、思い出した

「先だってコウが言った。見えにくくなるとは、もしや光の役割が遮られると、見えにくくなるのでは」

「もしやと思うが、霊視が見えにくいとか真実が見えにくいとかであろうか」

実穂高は考え込む


天鷲を振り返ると、尋ねた

「榮殿の死より、霊視しづらいという感覚はあるか」

天鷲は目を閉じて思う。その様子を見て、逸彦は思い当たる事があった。それは宿世源信(みなもとのまこと)の懐かしい癖だった。龍になっても目閉じて考えていた

(まこと)殿…」

「やはりそうか」

実穂高は小声で呟き口端を上げた。天鷲は言う

「霊視する対象にもよる。同じ事を調べるにもどの方向から見るかにもよる。気をつけて観れば躱せるのでは」

「流石。頼もしいの」

逸彦はこの二人のやり取りに心の底で嫉妬した。


天鷲は津根鹿の側に寄った。手をその額に当てる

「麻呂は今まで病など霊視した事もない。体調とかはわからぬが、この者の雰囲気、面影、榮と何か通ずるものがあると思うが、如何に」

「成る程、榮の縁者か。だが津根鹿と榮に接点は無かろう」

「宿世か、或いは龍か」

だが、光の龍はよく見えない。実穂高は榮の宿世、潔姫(きよひめ)の事を考えてみた。潔姫がやり残した事で榮が継いでいた役は一つは信との愛を再度表現する機会だった。他の役はどうなっているのだろう。地の龍も、おそらく水の龍も、本来の姿となって消えている。そして逸彦の母の角も、おそらくは龍に返し、その役を終えている事だろう。潔姫の成せなかった光の龍への力の返還と、龍が元の姿に戻る事は、中途になっているのか。


津根鹿の役を観る。津根鹿が、その役を持っていて、角を奪われた影響を受けたのだ


一時的だが、角との繋がりを閉じてみる。このやり方で良いのかわからないが、このまま芙伽の影響を受けて消耗されるよりも良い。角との繋がりが閉じると津根鹿は勘が狂うかも知れぬが、どちらにせよ、見えづらい状態だから、仕方ない。ただ本人が繋がりたいと思えば直ぐに繋がれるように設定しておく


津根鹿は急に顔色が良くなり、目をはっきりと開けた

「不思議だ。急に楽になった」

起き上がると実穂高らを見つけた

「これは実穂高様、水師殿。合流されたのですね。我はそんなに長く寝ていたのでしょうか」

「良かった。今施したものは応急なのだが、感覚が以前と違うであろう」

「違う。少し膜がかかったような感じです。己の身体ではないかのようだ。だが動ける」

皆安堵した

「差し当たってだがこれで動けよう、全回復とは行かないが、それで今は我慢してくれ」

実穂高は言い、西渡(さえど)の方を見た

「それで西渡殿、話してもらえるか。他の者が居ない方が良ければそうするが」

西渡は頷いた


二人は部屋の中の皆から少し離れた所へ移動したが、その時実穂高は逸彦の袖を掴んだ

「逸彦殿も来たれ」

何故己が呼ばれたのかわからないが頼ってもらえて嬉しい

二人の前で西渡は話す

「先日逸彦殿にも話したが、亡くなった妻だ」

「死んだのではないのか。何故今出て来るのだ」

逸彦は訊く

「死んだのだ、確かに。だが我はその死を受け入れず、もっと生きて欲しいと願ったのだ。それから、…遺体が無くなった」

「死者が蘇ったのか」

「わからぬが、その辺りは実穂高様に相談した通りだ」

「周辺で亡くなった筈の妻見かけた者が沢山いると言うので供養し、祈祷したぞ、その時妻の名は早萌(はやも)だったな」


西渡は躊躇いながら言った

「実は…蘇った妻に我も会うた。生前と違う名を名告ったのだ、自ら芙伽と」

「初めて聞くぞ、何故言わぬ」

実穂高が言う

「亡骸に他の誰かが取り憑いて動かしたという事か…」


逸彦に向いた

「それでだな、逸彦殿、浜の黒岩を斬ったな」

「占い中に降りて来た声が言うた。芙伽という女は最初の鬼だと。黒岩に触れ続けて、人の姿ながら鬼になった者だと。それ以上に広がらぬように結界を張ったのは我なのだとその声は言うた。逸彦殿、その岩とは何処か。結界を張ったのは(なれ)の母君の那由であろうか」

「それは宿世で確かに我が斬った。那由の口から結界張ったと聞いたが、身体は那由でも他の人格かも知れぬ。岩は隠岐の島後島」

実穂高は西渡に訊く

「汝かその妻は隠岐島に赴いた事はあるか」

「ありませぬ」

「では、憑依した女の意識が昔隠岐島にいたことがあると言う事か」

実穂高は考え込む。


突然、逸彦は頭がぐらぐらし始めた。何か知っているような気がする。思い出した方が良い。だが思い出したくない

心の中に考えた事も無い程の強い憎悪と、恐怖と、罪の意識が突然呼び起こされた

思い出したくない

逸彦は頭を抑えた。急に酷く頭が痛くなった。吐き気もする。こんな事は初めてだ。その身体を西渡と実穂高が支える。目の前が真っ暗になった。



鞘の金具が触れ合って鳴る音がする。それを持って遠ざかる誰かの足音、それは女だ

女に爺も婆も、太刀も奪われてしまった

身体はどんどん冷えて寒気がする。ああ、己は(めい)成し遂げ得ず

愛しき声よ、()は約束を果たせぬ…

人物紹介、決戦


逸彦…鬼退治を使命とし、鳥に導かれながら旅をする。宿世の記憶をずっと受け継いで生まれ変わりを繰り返している。移動は常に、山も崖も谷も直線距離で駆けるか木々を伝って行けば良いと思っている。寝る時は木の上

コウ…逸彦の心の中で逸彦の疑問に答えたり、導いたりする内なる声。コウは逸彦の命であり、鬼と戦う時刃(やいば)を動かしている。宿世「コウと共に」で登場

実穂高…鬼討伐の責任者。陰陽師。実穂高は実名ではなく通称

水師(みずし)…実穂高の側付きであり弟子。目指す相手の居所をわかる特技がある (宿世 和御坊、瑞明「コウと共に」に登場)


玉記…実穂高の京での信頼できる友であり、実穂高と水師の剣術の師 (宿世 小野篁「流刑」。水の龍 天河「コウと共に」にて登場)

天鷲(あまわし)…玉記の友人。従妹 (さかえ)の病の事を実穂高に依頼する (宿世 源信(みなもとのまこと)「上京」。地の龍 金剛「コウと共に」にて登場)


実穂高が集めた討伐の面々

宮立 父 太方(ふとかた)…亡き妻の口寄せを依頼して実穂高と知り合う。(宿世 宮地家の御当主で那津の義父「護衛」、村長(むらおさ)「桃語る」に登場)

宮立 倅 細方(さざかた)…(宿世 宮地家の息子でご当主、那津の夫「護衛」に登場)

津根鹿(つねか) …妻子出産の祈祷で実穂高と知り合う(宿世 宮地家の孫で那津の長男「護衛」の最後に登場)

西渡(さえど)… 妻の死体が蘇って歩き回ったという件で霊を鎮める祈祷を依頼し、実穂高と知り合う(宿世 男「桃語る」で登場)

佐織の翁…婆の病の相談で実穂高と知り合う (宿世 翁「桃語る」に登場)


伏見…親不知子不知の海沿いの難所を通り抜けるのに困っていたところ通りかかった討伐の一行と合流。自分達の領地周辺の鬼調査をしていたが、以降行動を共にする(宿世 布師見「城」に登場)

木ノ山…伏見に仕える。話しぶりが大袈裟(宿世 木之下「城」に登場)


(さかえ) …天鷲の従妹で幼馴染み。頭に鹿のように枝分かれした龍角を持つ。霊障による病で亡くなる (宿世 源信の妹、潔姫の生まれ変わり)

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