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忘鬼の謂れ〜鬼と戦い続けた男  作者: 吾瑠多萬
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【決戦】むかい

この物語はフィクションです。


午後に、榮の病の様子を見に天鷲の邸に訪れた。

そこで天鷲とも種々(くさぐさ)話した。天鷲は実穂高の内面の気高さに惹かれ、その聡明さに感心した。実穂高も天鷲の霊眼が曇っていない事を確認し、内面の誠実さにおいても信頼できる人柄として、この出会いを嬉しく思った。


天鷲は尋ねた

「玉記殿に聞いたが、今実穂高殿は鬼討伐をされている最中(さなか)とか」

「そうだ、それ故遅くなり済まなかった」

「それは充分である。玉記殿にその話で訪ねる時に、鬼退治の逸彦殿という方と共にお越しと聞いた」

天鷲は従姉妹殿の今の状態に関わらず、目は好奇心を隠せない

「逸彦殿に興味があるのか」

天鷲は頷く

「逸彦殿の話を聞きたい。どのような御仁なのだ」

実穂高は逸彦の話をした。逸彦が宿世の事を覚えているとは言わなかったが、差し障り無いと思われる事は話した

「玉記が、ほぼ言葉を交わしていないのに、その雰囲気に圧倒され、懐かしくもあり、心の奥の何かを揺り動かすと話した。その後会う度その話だ。余程の事だろう。我も強く関心がある。お会いする事はできぬだろうか、…我らも討伐に加わるとか」

そういう流れになるのか。実穂高は感心する。神の計らいは時として此方の考えなど超える。逸彦には二人に会い解決したき心があり、恐らくこの二人にもそうなのだ。愛は必ず彼らを巡り逢わせるだろう

「…考えておく。ただ汝らにも危険が及ぶ事あるので、麻呂にも少し躊躇がある」

「わかり申した」

「また榮殿の様子を見に来る故、その時にご返答致す」


実穂高は天鷲の邸を辞した

あの時代、源信(まこと)は帝の器があったという。帝になりきれずに居たが、命は全うしたのだ。その時、本来の神と愛の計画ならば何を成したのだろう

実穂高はそれについては今晩、二人の討伐への参加を占うと共に観てみようと思った。


食事の後、占いの準備をする

集中力を高める為に香を焚き、ゆっくり呼吸をする。天鷲を霊視する。逸彦と出会った(まこと)とその時話に出た角持ちの妹潔姫、逸彦と水師が出会った龍。那由が語ったという信の本当の命、帝の器。宿世で小野篁であった玉記と天鷲の討伐参加。


天鷲と榮の絆と同じく、信と潔姫には愛の絆があった。ただ、それは男女ではなくて同志に似たものだ。二人に愛があれば、ひとつ方向に語り合い、支え合って政事に影響できたようだった。潔姫は(めい)に順わず一切己を表現せずに終わった。榮はそのやり直しで、せめて信との間で表せなかった愛を体験しようと生まれたが、やはり生きる事に消極的だった。その結果、己を大切にせず、憑依される事を招いた


また、帝に選ばれなかったのは世の捻れの影響で仕方ないとしても、本当は信が帝ならばどうなったのか。地の龍、金剛が貸したのは大地の力そのもの。それを使えば世は良い方向に向かった。帝として良く世を治めた(のち)、信は代々の天皇の権威を神に返還する命を持っていた。天皇はそもそも神の代理で力を借りて世を治め、その役が終わったら返す事になっていた。その為に初期の帝には神の啓示が降りていたし、帝もそれに順っていた。だがその時代の終わりが近づくと、返す役を己以外にしようと、先送りしながら来た結果、帝に貸されていた力は他の手に渡ったり、争い奪い合う原因となった。それが近頃侍の力が強くなっている因でもあった。逸彦と瑞明と龍は、信の役を愛の力で遂行し、全うした。天皇にある力はもう集権ではないが、他の勢力と拮抗する程度に残っていた。天皇が頑なに神に力を返さず、今のまま変化しない事を望む事こそが、反命を助け、命の時から外れようとする意思となってそれに力を貸していた


何という事だ。我々が仕える帝がその元凶とは。逸彦は古代からある反命の意思の宿った黒岩なるものを斬ったというが、それですっかり無くなった訳ではない。実穂高はその黒岩について観ようと思ったが、取っ掛かりとなる物が見当たらなかった。逸彦の話をもっと詳細に聞いて、具体的な質問を重ねればできるだろう。

その那由という逸彦の母君に直接聞ければ最も話が早いのに。


観ていくと、何かが語りかけるように、情報が降りて来る。芙伽と名告る、その女の中身は鬼であると言う。姿は人の女だが、中身は鬼だ。最初に生まれた鬼は彼女だ。だから鬼も、鬼に近い心持った者も言うことを聞く


その黒岩から奇妙な生き物が生まれた。その女も触れた。それ以上に広がらぬように結界を張ったのは我なのだ…

我って誰?


その声は誰なのだ。実穂高は呼びかけたが応答は無かった


次に知りたい事に移る

榮の角が取られるとどうなるのだろう、芙伽(ふか)は何の力を欲して居るのだろう。篁の龍は琵琶湖にいて、水の龍だ。逸彦が剣で水源である水を斬り、浄化した。信の龍は地で、大地に統合され地が大揺れして浄化したと言う。榮は何の龍なのだ。

…光…

答えが来た

光はどのような役割なのだろう…


その時突如切り裂かれるような痛みと衝撃が走った

実穂高はそのまま床に伏した

「実穂様、大丈夫ですか」

もう情報は途絶えてしまった


もう光の龍については観えなかった

実穂高はその痛みが何かを悟った

「もしや、榮殿が亡くなったか」

「誠であるか。天鷲殿の邸に向かいますか」


「暫し待ってくれ、もう一件残っている」

宿世、小野篁である玉記と、信である天鷲の(おん)討伐参加

二人の参加は不可欠と感じられた

「よし、行こうぞ」



二人は馬に乗り急いだ。天鷲の邸に着いたとき、天鷲と玉記と、他の親族が数名集まっていた。従妹の(さかえ)は亡くなった後だった。

「伝令しようと思ったところだ」

天鷲は言った。時間を照合しても、あの痛みと衝撃のあった時だった。亡骸を確認したが、天鷲にも実穂高にも、角は見えなかった。やはり憑依していたあの女に角は奪われてしまったようだ。榮の顔は随分と憔悴したと見えて、目は窪み、一層痩せていた。天鷲は泣いてこそはいなかったが辛そうだった。


その死を悼むと共に、四人は別の部屋に移って、実穂高は霊障した女が鬼に関わっていると天鷲と玉記に伝えた。天鷲は眉を苦悩にひそめながら、目を瞑って聞いた話を思い巡らせた。暫しの沈黙の後に、天鷲は決意したように言った

「やはり討伐に麻呂の参加を改めて願う。駄目と言われても着いて行く」

「己からも頼み申す」

玉記も言う

「こちらこそ、頼む。心強い」

実穂高は答えた。なるべく早く向かって合流したいが、天鷲の心にも癒しが必要だ。逸彦達と会うまでの道々にその時間も取れよう

「葬いが終わり次第、馬にて向かう。それなら追いつけよう」

天鷲も頷いた。翌々日、四人は馬で京を出立し、水師の勘を頼りに琵琶湖から東海道を目指した

タイトルについて(むかい…迎い、向かい、対い)彼岸の迎え、合流に向かう、天鷲と榮の対い を掛けている


人物紹介、決戦


逸彦…鬼退治を使命とし、鳥に導かれながら旅をする。宿世の記憶をずっと受け継いで生まれ変わりを繰り返している。移動は常に、山も崖も谷も直線距離で駆けるか木々を伝って行けば良いと思っている。寝る時は木の上

コウ…逸彦の心の中で逸彦の疑問に答えたり、導いたりする内なる声。コウは逸彦の命であり、鬼と戦う時刃(やいば)を動かしている。宿世「コウと共に」で登場

実穂高…鬼討伐の責任者。陰陽師。実穂高は実名ではなく通称

水師(みずし)…実穂高の側付きであり弟子。目指す相手の居所をわかる特技がある (宿世 和御坊、瑞明「コウと共に」に登場)


玉記…実穂高の京での信頼できる友であり、実穂高と水師の剣術の師 (宿世 小野篁「流刑」。水の龍 天河「コウと共に」にて登場)

天鷲(あまわし)…玉記の友人。従妹 (さかえ)の病の事を実穂高に依頼する (宿世 源信(みなもとのまこと)「上京」。地の龍 金剛「コウと共に」にて登場)


実穂高が集めた討伐の面々

宮立 父 太方(ふとかた)…亡き妻の口寄せを依頼して実穂高と知り合う。(宿世 宮地家の御当主で那津の義父「護衛」、村長(むらおさ)「桃語る」に登場)

宮立 倅 細方(さざかた)…(宿世 宮地家の息子でご当主、那津の夫「護衛」に登場)

津根鹿(つねか) …妻子出産の祈祷で実穂高と知り合う(宿世 宮地家の孫で那津の長男「護衛」の最後に登場)

西渡(さえど)… 妻の死体が蘇って歩き回ったという件で霊を鎮める祈祷を依頼し、実穂高と知り合う(宿世 男「桃語る」で登場)

佐織の(さおり)…婆の病の相談で実穂高と知り合う (宿世 翁「桃語る」に登場)


伏見…親不知子不知の海沿いの難所を通り抜けるのに困っていたところ通りかかった討伐の一行と合流。自分達の領地周辺の鬼調査をしていたが、以降行動を共にする(宿世 布師見「城」に登場)

木ノ山…伏見に仕える。話しぶりが大袈裟(宿世 木之下「城」に登場)


(さかえ) …天鷲の従妹で幼馴染み。頭に鹿のように枝分かれした龍角を持つ。 (宿世 源信の妹、潔姫の生まれ変わり)

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