【上京】蹴鞠
作中に歴史上の人物が登場しますが、この物語はフィクションです。
信殿は墓参りと言ったのに、何故か馬に乗って遠乗りになった。
信殿は都から出て馬で森の道に乗り入れた。俺も馬を操り後をついて行く
森を抜けると高台に出て、そこから京の都の全体が一望できた。
「そら、あれが篁殿の住居よ。談天門の側だ」
信殿は馬から降りると平安京の築地の大垣に近い所を指差した。
俺はその位置を見た。公家の住居が見える。
「篁殿は誠に子思いで、どの子も皆優秀に育っておる」
俺は篁を思い出していた。生きとし生けるものをそのままに人として受け止めていた。それは愛の愛しい姿であり、素直な生き様だった。母様にちょっかいを出す不届きものだったが。きっと歳が近ければ、唯一無二の友になっていたに違いない。信殿の様に語り合い、酌み交わす事もあったろうか
「我らが身体が我なのか、我らが霊が我なのか。わにはわからぬが、篁殿ならば大人しく墓になど引きこもって居らぬ。こういう場所より故人を偲んだ方が宜しかろう」
信殿は声をあげて笑ったが、その目には涙が光っていた。
「三人で蹴鞠をしたら、いつ迄でも続けられたであろうな」
腰に下げた瓢箪から中のものをぐいっと呑んで、俺に投げ渡した
俺も呑んだ。酒だった。
瓢箪を掲げると俺は、酒を遠く見える篁の住居にかけた