【流刑】出航
作中に歴史上の人物が登場しますが、この物語はフィクションです。
天候に恵まれ、海は静かだった。この航海の安全を暗示するかのようだった
船には他に沢山の舶来の品々も運び込まれ、出航の準備が進んでいる
篁はそれらに紛れて船への渡り板を渡りながら、振り返った。島を去る前にギョクの顔も見たかったが、神がそうさせないのならば必要無いのだろう。
船は漕ぎ出し、篁は甲板に出て、港が離れていく様をぼんやりと見つめる。
ギョクの案内してくれた岩場の溜水の辺りが見えた。着いて行くのが大変だったが、あの散策は幼き頃の己を思い出し、またギョクの気持ちも知れて楽しかった。
その時、手を振る人影が見えた。童が岩場に立って両の手を大きく振っている。
「たーかーむーらー」
童は名を叫ぶ
甲板の上の人々が己を振り返り、ちょっときまりが悪い
だが、篁は己の心に正直に、幼な児のように手を大きく振って返した
「ギョクー」
島は遠ざかり、人影はもう見えなかった
篁の目には涙が溢れ、拭っても拭ってもそれは止まらなかった
いつまでも甲板に立ち尽くし泣き続ける男に、周りの者は島に残した現地妻が余程恋しいのだろうと、同情した