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ウィル・オ・ウィスプ

 冒険者という職がある。それは魔物を倒したり、未知の土地を探ったり、危険な地に採取に赴いたりする……言ってしまえば何でも屋である。

 字面だけ見れば何ともはっきりしない職業だが、これが根付いてからの歴史は古い。巨大な魔物を打倒したりと英雄的な面も強く、子供達の多くが冒険者になって一旗揚げる自分を夢見る。



「はっ、はっはっ……」



 そんな冒険者である男が街路を走っていた。時刻は既に夜中。ろくに明かりも無い道を必死で駆け抜ける。追われているのだ。だが一体何に?

 その疑問に答えるように青い灯りが男に飛びかかり、地面へと転がした。



「冒険者ザッハ。所属しているパーティは無し。2週間前に受領した依頼を遂行中、老婆を殺害した。理由は魔物を追う際、邪魔になったから」



 青い光は声の主の剣から発せられていた。髪は夜に溶け込み、緑色の目が光と合わさって奇妙なまだら模様を描いていた。



「君には投降する権利と、抵抗する権利と、大人しく死ぬ権利がある。さぁ選んでくれ」



 重大な選択を迫っているというのに、声は優しさを感じさせた。それがザッハの神経を冷たくなで上げた。目の前の男は真実ザッハの選択を尊重するという寛容さを帯びている。

 その不気味さが冒険者を断崖絶壁に挑む勇気を絞り出すという行為に導いてしまった。



「犬っころが、抜かすんじゃねぇ!」



 ザッハは腰のダガーを抜き、不利な体勢から素晴らしい突きを繰り出した。冒険者のような職にある者は戦いを繰り返すことで、信じられないような境地に達することがあるのだ。しかし、手応えは一切無かった。

 青い光の男はあっさりと首を傾けるだけで、その一撃を躱した。



「抵抗を確認。自己措置の範疇で罰則を課す。判決……死刑」



 青い光が揺らめいていた。構えは愚直なほどまっすぐに、振り下ろす構えだ。鈍化していく景色の中で青い光は炎だとザッハは気付いた。

 ああ、なんということだろう。それはうわさ話で何度も聞いたことがある。罪を犯した冒険者を裁く者達。その中でも強者相手に派遣されるという、その人物。



「ウ、ウィル・オ・ウィスプ……征討士ジラレス!」

「はい。こんばんは。そして、さようなら」



 炎の長剣が振り下ろされ、ザッハは首から上を失った。残った胴体は青炎で焼き焦がされ、灰へと帰っていく。その恐るべき剣は鞘に戻されると、静かに火を放つのをやめた。



「本人の意志とはいえ、首を落とすのは好きになれないなぁ。投降してくれても良いのに、どうして皆そろって同じ道を選ぶのか」



 言葉は独り言ではなかった。向かいの路地から、ジラレスと同じ黒い軍服を身に着けた少女が現れた。

美少女というよりは美少年という顔立ちで、血なまぐさい現場には相応しくない外見をしている。金をくしけずったような髪はボブカットに揃えられ、サファイアのような青い瞳は吸い込まれそうだ。

 後腰には二本のスティレットをぶら下げているのも、アクセサリーのようだ。



「ミテス。何をしていたんだい? 計画では追いかけた先で、君が待ち構えているはずだったけれど……結局俺が追いついてしまったよ」

「怒らない?」

「怒らない、怒らない」

「だって、戦っても面白く無さそうだったんだもの。弱い者いじめは良くないよね、えへへへ」

「はぁ……全く君という子は。仕事なんだから、ちゃんとしないと。それにこの人はそんなに弱くなかったよ」

「怒らないって言った!」

「怒ってない、怒ってないけど、やってはいけないこともあるんだよ」



 可愛らしく不貞腐れてしまったミテスに苦笑しながら、ジラレスは転がっていたザッハの頭を拾い上げた。不思議なことにこちらは焼かれていない。

 生首を片手にジラレスは、もう片方の手でミテスの頭を撫でた。



「さぁ、報告しに行こう。それが済んだらようやく食事にありつける」

「食べてから行ったら駄目なの?」

「うーん、時間を気にしながら食べるのはあまり好きじゃないんだ。ほら、行こうか」



 征討士本部。そこは大きな騎士団本部と同じ作りになっている。冒険者を処断するために、1代騎士の権限が征討士に与えられているためだ。なので正確には征討騎士なのだが、騎士らしさがどこにもないため誰もそう呼ばない。

 ジラレスが持っていた生首を嫌そうに見た後、門番は大扉を開いて本部への道を開いた。そのまま迷いなく本部に入り、淀みなく団長室にたどり着く。



「上級征討士ジラレス、入ります」

「下級征討士ミテス、入りまーす」



 中に入ると、書類に埋まった執務台のいた痩せぎすの男が先の門番と同じ顔をした。目線は当然ジラレスの持った生首だ。一応麻袋に入れてあるが、下が黒ずんでいて中に入っているものを物語っていた。

 冒険者を狩る征討士の元締め、団長アーレは職責をよく理解しているが、れっきとした爵位持ちであり貴族的な感性も持ち合わせていた。



「あれだね。君には首を塩漬けにするよう指示しておくべきだったね……ともあれ、ご苦労だった二人共。任務を与えた日のうちに済ませるのだから助かるよ……首は袋か何かに入れて共同墓地へまわすように」

「はっ。失礼しました。それで次の任務は……」

「とりあえず明日は休みたまえ。明後日から“カワセミ”ソーンの追跡に入ってもらう。タースの班がしくじって警戒を強めてしまった。簡単には追えないだろうが」

「二つ名付きですか? なんでまた我々に追われるような真似を」



 二つ名が付いているということは、冒険者内でも際立った存在であるはずだ。冒険者も下はチンピラから上は英雄まで幅広いが、食いっぱぐれている者でもないだろう。もちろん悪名で付く場合もあるが、“カワセミ”という呼び名からは悪意を感じない。



「コイツ本人がどうというより、ソーンの入っていたパーティ“真紅のサソリ”が違法薬物を都市内に流通させている疑いが強い。良いか、殺さないようにな」

「それでしたらミテスは預けていきましょうか? 興が乗ったら何するか分かりませんので」



 ジラレスはミテスの頬を伸ばしたり、縮めたりしながら言う。この小さな征討士は信じられないが、強い。だが、人格面に問題がある。命令より感情を優先させるところなど特にだ。



「君の受け持ちだろう。後輩を指導するのも先達の役目だ。大体、君がいないならどちらにせよ抑えておけん」



 面倒事はゴメンだ、という言葉は飲み込まれた。ミテスが大人しく言うことを聞く人間自体少ないので、仕方ない措置だった。



「了解です。では明後日から任務に就きます」

「まーす」



 二人は団長室を後にして、食堂へ向かった。食堂内は既に物寂しくなっていたが、パンとスープぐらいは残っていた。質素な食事だったが、二人とも気にしない。わずかに残っていた団員たちもジラレスに対して目礼する程度で、寂しい食卓である。



「皆、仕事が早いなぁ。あ、寝る前に首を出しに行かないと」

「次のお仕事は楽しいかなぁ、ねぇジラ」

「ああ~次は相手を殺さないから、そこはミテスとしてはつまらないかもね。相手を見つけて、追いかけっこだよ。二つ名からして随分と速そうだから、その点については楽しいさ」

「そっかぁ。でもあたしより速い子ってあんまり見ないし……」

「そうだねぇ。俺より速いもんな、ミテスは」



 パンをスープに浸して食べながら、二人は次の任務に思いを馳せている。


 人がいて、魔物がいる。勇者がいて、魔王がいる。剣があれば、魔法もある。そして、冒険者には征討士がいた。

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