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8:思考停止

結局その日、午後の授業には出られず、私と刀岐ときのは教師陣からはもちろん、鎮守府の職員から何が起きたか聴取されることになった。


そして、翌日から町へ出ての実践授業は中止となった。


代わりに体育館で、降霊術で呼び出した霊の除霊・浄化が行われることになった。


だが。


「……刀岐、また来てないね……」


鈴の言葉を聞くまでもなかった。


どうして昨日あんなことがあったのに授業をサボることができるのか⁉


信じられなかった。


昨日、帰り際に「明日はちゃんと行くから」って言っていたのに……。


体育館に集まった生徒たちからは「藤原さん、お可哀そう。デュオに恵まれなかったのね」とか「せっかくの学年二位、今期で陥落かもしれませんね」そんな囁きが聞こえてきた。


「次は藤原と刀岐……、あー、藤原、そうしたら織田先生とデュオを組んで」


「はい」


私は東堂先生の指示に従い、織田先生が待つ結界へ入った。



「澪、ここだよ」


鈴に言われ、私は茫然とその建物を見上げた。


「……本当に、ここ……?」


「だって、一丁目の二の三、だろう。で、マンションの名前は、インペリアルエステート本宮もとみや。そこにマンション名、出ているし」


確かに巨大な大理石に、英語でマンション名が刻まれていた。


信じられないぐらいのスケールのタワーマンションだった。


「澪、右手と右足が同時に出ているよ」


「……!」


鈴に指摘されるぐらい、私は緊張していた。


それはそうだ。


学校をサボる問題児に文句の一つでも言ってやろうと家を訪ねたら、こんな金持ちしか住んでいなさそうなマンションにたどり着いたのだから。


心の準備というのがまずできていなかった。


恐る恐る自動ドアを抜け建物内に入ると、そこは吹き抜けの巨大なホールになっていた。


そして受付のようなものがあり、制服を着た女性が私を見てお辞儀をした。


……マジ⁉ ここホテル⁉


背中に汗が伝った。


「いらっしゃいませ」


受付の女性がにこやかに私を見た。


「あ、あの、同級生に会いに来たのですが……」


「はい。こちらで承ります。訪問先の部屋番号とお名前を」


「え、えっと、5201号室の刀岐ときの 伊織いおり……さんです」


「5201号室の刀岐伊織様ですね。失礼ですが、お約束は?」


「や、約束⁉ いえ、約束はしていません……」


すると受付の女性は困った顔になった。


「お約束のないお客様はご案内しないようにと言われているのですが……」


「えっ……」


わざわざここまで来たのに⁉

何よ、約束がないとダメって。

何様のつもり⁉


この瞬間、私は緊張感より怒りが勝った。


「制服を見ていただければ分かると思いますが、私は鎮守府付属の星稜学園の生徒です」


星稜学園の名は全国区で知られていた。


「私は刀岐ときのくんの同級生です。刀岐くんは今日、お休みでした。そして授業で使ったプリントなどを届けるよう、先生に言われ、ここに来ました。約束が必要とは知りませんでした。でもここまで来たんです。せめて来訪していることだけでも、伝えていただけないでしょうか」


背筋をピンと伸ばし、きちんと言葉を紡ぐと、受付の女性の表情も変わった。


「……かしこまりました。では刀岐様にお客様のことをお伝えしてみますね。お名前をよろしいですか?」


私が名前を告げると、受付の女性は復唱した後、ヘッドフォンについているマイクで話し始めた。


私は受付の女性から目を離し、辺りを見渡した。


静かなクラシック曲が流れていると思ったら、奥のグランドピアノで演奏している人がいた。つまり生演奏だった。


グランドピアノの手前は噴水になっていた。


……これ、海外のホテルみたい。


「藤原さま」


「はい」


「刀岐様がお会いになるそうです。ご案内いたします」


受付の女性がこちらへ出てきた。


……え、まさか部屋まで案内してくれるの⁉


そう思ったら、受付横の狭い通路を通り、エレベーターに案内された。


「最上階のペントハウス専用、直通のエレベーターになります。間もなく到着しますので」


受付の女性はそう言うと今来た通路を戻っていった。


……。

最上階?

ペントハウス⁇

直通エレベーター……。


キャパオーバーだ。


私は考えることを止め、エレベーターの到着を待った。


「おい、澪、大丈夫か⁉」


鈴が落ち着かない様子で私の肩で尻尾を振った。


「もう思考停止」


私がぶっきらぼうに答えた時、エレベーターが到着し、ドアが開いた。


「……!」


思考停止した私の脳が一気に覚醒した。


目の前にとびっきりの、文字通りの美女がいた。


緩やかにウェーブした長い髪、ぷくっとした涙袋、目元のほくろ、ぽってりした唇。

V字に開いたワンピースには信じられないぐらいの谷間が見えていた。

ウエストはくびれ、短いワンピースからはほっそりした脚が伸びている。


美女は私を一瞥すると、クスッという感じの笑みを浮かべ、軽く会釈してエレベーターを降りた。


私のそばを通り過ぎる瞬間、清涼感のあるミントの香りがした。


……これって刀岐ときのと同じ香り……。


そこで私は気づいた。


このエレベーターは最上階のペントハウス専用、そして直通だ。


ということは今の美女は刀岐の部屋から出てきた。


……。


エレベーターがゆっくり閉まり始めたので、慌てて私はエレベーターに乗った。


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